ハルナはエレーナの後ろについて、長い廊下を歩いていく。

その間、二人は何も言葉をわしていない。

ハルナは張で、エレーナは自分の考えた最善の策を実行するために。

そして、扉の前に著いた。

コンコン

エレーナは扉をノックする。

中から室を促す、応答が聞こえた。

扉の把手に手をかける。

人生には、幾多の分岐點がある。

この扉を開けると様々な思がき始めると思うと、先程まで気軽に開けているた扉よりも重くじた。

扉を開けると、その正面に威厳のあるが自の機に座っていた。

その姿はこの町を治めている風格があり、霊使いの全てを任されているという責任もじ取れた。

部屋の主人は自分の席を立ち、こちらに向かって歩いてきた。

「初めまして。 わたくしはアーテリア・フリーマスと申します。 あなたが……  ハルナさんね？」

アーテリアはハルナに向かって握手を求める。

その手を握り、ハルナは答える。

「はい、私がハルナです。木花  菜（コノハナ  ハルナ）といいます。」

ハルナは、初めてフルネームを話した。

なぜかと言えば、この場では必ず言わなくてはならないというくらい重い雰囲気があるからとじたから。

「そう……珍しいお名前ね。 ようこそ、風の町ラヴィーネへ。どうぞこちらにお掛けになって」

アーテリアは、ハルナにソファに座るように勧める。

そして部屋のメイドに目配せでお茶を用意させるように指示する。

ハルナはソファに座り、一人分空けてエレーナが隣に座る。

最後にアーテリアがその対面の一人掛けのソファに座った。

「どうですか、この家は？ 寛いでいただけましたか？」

「はい、お風呂もらせていただきました。本當にありがとうございます！」

「そう、よかった。ところでハルナさん……あなたにお聞きしたいことがあるのですが」

ハルナは、周りが皮に突き刺さるような空気に変わるのをじその問い掛けにひとつ頷いて了承する。

「あなた記憶が思い出せないとお聞きしてますけど、ご自のお名前は覚えてらっしゃるのね」

アーテリアはいきなり切り込んできた。

どうやら、初めから神狀態に高負荷をかけて追い詰める作戦のようだ。

確かに、記憶をなくしたのに名前を覚えているのは可笑しな話しだ。

ハルナは自分が設定したその甘さを悔やんだ。

この質問にどう答えるべきか考える。

（本當のことを話して通じるのかな……）

「……どうしたの？  何か不都合なことでもおありなの？」

――しまった

返答までの時間が長いほど怪しまれ、相手は更に不信が募ってしまう。

「それは……」

ハルナが口を開いて何かを告げようとした時

「ふぁぁぁぁぁあぁあぁぁ……」

間の抜けた聲がハルナの元から聞こえる。

アーテリアは、ハルナの方から聞こえるその聲の主を探した。

フウカは不機嫌な顔をして、ハルナの元から顔を出した。

アーテリアは驚く。

話しには聞いていたが実際に目の前に人型の霊が話しているのだから。

「フ……フーちゃん！？」

「気持ちよく寢てたんだけど、ハル姉ちゃんの気持ちが急に荒れて流れが気持ち悪くなったの」

「え？ そ、そうなのね。 ゴメンね」

「ううん、いいの。  それよりもこの人たち、ハル姉ちゃんをいじめてたの？」

フウカの顔が寢起きの顔から、険しい顔に変わる。

フウカは元から飛びだし、ハルナの肩の上に立つ。

爭う気は満々のようだ。

アーテリアは驚く。

人型で話が出來るのは、今までの経験の中で一度しか知らない……

（ま、まさか……！？）

と思った瞬間、締め切った部屋の中に風が流れてくる。

次第に強くなり、ハルナの髪も風に舞い上がる強さになった。

ハルナは気付いた、これはフウカの仕業なのだと。

「――フーちゃん、やめなさい！」

ハッとするフウカ。

ハルナは肩の上のフウカを優しく包み、下ろして諭す。

「あちらの方は私に質問していただけ。私はいじめられてもないし、責められてもないのよ」

手の中のフウカはハルナを守るためにやった事なのに怒られたことで、悲しい顔になる。

見渡すと、観葉植が倒れたり機の上のモノが床に落ちたりしている。

（高価なものとか壊してないかしら……）

とにかく、お詫びしよう。

「ご、ゴメンなさい。 フウカにはちゃんと言い聞かせておきます。あと壊れたものがあれば、なるべく弁償しますから……」

アーテリアは、ハルナの聲で思考の渦から呼び戻された。

「い、いえ……  こちらも大変失禮しました。 どうやらこちらの態度が、そちらの霊様のお怒らりにれてしまった様です。  重ねて失禮をお詫び致します」

そういうと、アーテリアはメイドに部屋の中を片付けさせた。

丁度用意していたお茶はワゴンの上に置いたままで。

エレーナも同じく部屋の片付けを手伝っている。

ハルナも手伝おうとしたところ、メイドに止められたのだった。

それでも、ハルナはフウカのせいでこうなったという負い目もあり強引に手伝うことにした。

……

…………

ようやく部屋が片付き、落ち著いたところでメイドは新しいお茶を人數分用意してくれた。

そこから、先程の話し合いが再開された。

まず口を開いたのはハルナだった。

「えー……  とにかく今から話すことは、誓って真実です。ですが、信じるか信じないかはご自由に判斷してください」

そう前置きをし、ハルナは今までのことを話し始めた。

こことは違う世界から來たこと。

その際に発に巻き込まれて死んだこと。

目が醒めると、あの場所にいたこと。

そこでフウカと出會ったこと。

風の力を試したら竜巻が起きて自分では止められなかったこと。

その後にエレーナと出會ったこと。

「……そう、大変だったのね」

アーテリアは応える。

異世界からの転生についてはわからないが、今の話の中で二つ気になることがあった。

  ・契約霊以上の力を出せたこと

  ・暴走した力を止めたもののこと

一つ目に関してハルナは自分の験を伝えた。

力が暴走していたその間、フウカの意識は無くなっていた。

ハルナ自は、風の威力が強くなるにつれ、且つ時間が経過するにつれ、の中の力が抜けていくような覚に見舞われたことを告げた。

通常は霊使いが力を使う場合は、霊の意識のコントロール下で発する。

力そのものの使い方と発させる力の形は、発させた本人の技量による。

これは狼に襲われた時にエレーナが対応してくれたとおり。

霊の役目は周囲にある元素を取り込み、コントロールして契約者に渡している。

力の流れを自車に例えると、タンクからエンジンにガソリンを送り込むことは霊が行い、ガソリンを発させ、その力を力に変えて推進力にし、ハンドルで自車の進行方向を変えるのが発者ということになる。

そのため今回はハルナ自の力で発したのではないか、という仮説をアーテリアは立てる。

それは、契約をわしたばかりの霊（フウカ）の技量では、通常契約者へ還元出來る元素の量は通常はない。が、今回暴走した風の元素の使用量はそれをはるかに超えている。

もう一つの問題に関しては、更なる大きな力がその場にいたのではないかという仮説。

これに関してはアーテリアはハルナの話から心當たりがあった。

「ハルナさん、その手にはめている指を見せていただけないかしら」

疑問に思いながらも、ハルナは指を外そうとした。

「――あれ？ は、外れない！」

指の節に引っかって外せないのではない。

なんらかの力によって、指から外せなくなっている。

「そうなのね……」

アーテリアは呟いた。

初めてエレーナは、口を開く。

「なに？  どういうことなの？」

「この指はね……大霊様のもので裝著者が認められた証なの」

――！！

エレーナは驚きのあまり、口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。

そして、一部は気管支にりむせた。

――！？

ハルナはさっぱりわからなかった。

「あ、あのぉ。 それはどういうことなのでしょうか……」

「まず、その時に起きていた狀況から推測という形でお話しすると、竜巻を鎮めてくれたのは大霊様であった可能がということね」

ハルナはそれでも、ピンとこない。

「その指は大霊様の加護をけた指なの。だから必要な時には、大霊様が手を貸してくれるのよ。

必要な時というのはいつかはわからないけど、自分から願うよりも大霊様の判斷によって助けてもらえることが多いわね」

「だから、竜巻の時も……」

エレーナが言う。

「そう……ね」

アーテリアはゆっくりと席を立ち、自分の機に向かう。

「でも、なぜこの指は外すことができないのですか？」

「あなたは、その指の側を見たことがおあり？」

「はい。文字のような記號が並んでました。でも、何が書いてあるかはさっぱりで……」

「その文字は霊の祈りの言葉が刻まれているの。その容は契約者もわからないの。

これが解読されるとその力の本質がわかってしまい、大霊様にとって大きなウイークポイントとなるの。

だから指を外せないようにして中を見せないようにしていると考えられているのよ」

エレーナも初めて聞く容で困している。

「普通の人には読めないから、大霊様同士とか大竜神様同士のお話なのね、きっと」

ハルナは理解した。が、しかしなぜこの指が自分の手にあるのか。

（これは確か祖母から借りた……）

同じ疑問をエレーナが問いただす。

「なんで、ハルナがそんな貴重なもの持っているの？ この世界の人間ではないんでしょう？」

アーテリアは自分の機の鍵を開けて、大切にしていた箱を取り出す。

「そうね、誰でもいただけるものではないわね」

そして、ハルナ達の前のソファに座り直しその箱を開ける。

――！！

同じような指がある。

ハルナとはし模様が違うようだが、概ね一緒の指だった。

「これはね、前の王選の際に先代からけ継いで、水の大霊様から加護をけたもの。今では霊使いを引退しているから契約は切れているけど、指はそのまま預かっているのよ」

アーテリアはその指を手にとって、エレーナに渡す。

「付けてみてご覧なさい、エレーナ」

エレーナはその指を指にはめる。

指を軸にして指を回転させて押し込み、つけ合を確かめる。

特に何かが変わったようなじはしない。

そしてドキドキしながら、その指を外す。

――スルッ

指は普通に外れた。

エレーナはガッカリしながら、その指を持ち主に返した。

「エレーナ、そんなに落ち込まなくていいのよ。本來はこれを持って、水の大霊『ガブリエル』様にお會いした上で加護をいただくものなの。指は大霊様と結ばれるために介するものなのよ」

ハルナはそれこそ、なぜ自分がいまその加護をけている狀態かわからなくなっていた。

「加護の指はね、各大霊様ごとに存在すると言われているわ。  その指は代々、次の選ばれた霊使いの中から選ばれて引き継がれていくの」

アーテリアはその指を親指と人差し指で挾んで、の中からハルナを覗いている。

「エレーナ。あなたは王選の際に次期王候補は、全ての大霊様と大竜神様の加護をけないといけないことは知っているわね？

その旅に付き添う霊使いも次期王候補と共に旅をし、自の屬の大神様に加護をいただくことになってるの」

それはそうとして、異世界の指が現世にいたときに存在していたかの理由に繋がる容ではない。

答えの見えない狀況に対し、ハルナはこの指の前の持ち主について話す。

「この指は、祖母から貰ったものなんです。これがこの世界の指であったという話しは、してもらったこともないんですけど」

アーテリアもこの世界における、前の持ち主の報を提供する。

「ハルナさん。あなたの持っている指は、私たちの仲間だった”カメリア・スプレイズ”が持っていたものなのよ」

「お母様、スプレイズって……」

「カメリアは現在の水の町を任されている、『スプレイズ』家の出なのよ。今の長老はそのカメリアの妹にあたるティアド・スプレイズが就いているわ」

アーテリアは、冷めた紅茶の換をメイドに頼んだ。

そしてれ替えた紅茶を一口飲んで気持ちを落ち著かせる。

エレーナとハルナはその様子を、ただ見守って次の言葉を待った。

「カメリアは、私たちのパーティの一人だったの……」

アーテリアはハルナに説明する。

「ある時、王國からの討伐依頼をうけてたの。 その対象は、闇に落ちたインプだったわ。

隨分と時間がかかったけどそのインプを発見したて戦闘になり、あとしというところまで追い詰めた。  だけどそこで私は失敗してしまったの」

インプはアーテリアたちを道連れにするために自した。

アーテリアは戦闘狀況の判斷を任されていたが、追い詰めていることからの油斷で判斷が遅れ、その発に巻き込まれそうになった。

「……でも、カメリアは自分が前に立ち、私達を守ってくれたの」

アーテリアは後悔と自分の力が足りなかった悔しさに拳を握りしめた。

「私達は助けてもらったのよ……カメリアに」

エレーナも揺する、この話しも聞いたのは初めてだった。

「ティアドは、姉のカメリアの死に悲しみ、私たちを恨んだの。カメリアの痕跡はその発で、何も殘らなかったのだから」

「そこからなの？  スプレイズ家が、フリーマス家を目の敵にし始めたのは？」

エレーナは問う。

「そう……　國としては、生き殘った私たちを特に罪を與えることはなかった。依頼を請け負う者たちとしては、當たり前のことだから。ただ、私達に力が足りなかっただけなのよ」

ハルナはこの世界の厳しさにれた。

自分が住んでいた世界は、なんて平和で幸せだったのだろう。

泣きそうになるハルナを、フウカとエレーナがめる。

「……ごめんなさいね、こんな話しをしても何もわからないわね。 とにかく、その指は風の大霊『ラファエル』の加護をけたものなのよ」

ハルナはそっと指にれる。

（その指の持ち主は、カメリア・スプレイドだったのよ……）

アーテリアは寂しそうに、友人の名を呼んだ。