《問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『霊使いで再起しました。』》
指の存在意義と働きは、アーテリアの説明のおかげで理解できた。
ただ、ハルナがエレーナにこの町に連れてこられたのは、親切なだけではない気がした。
以前、お店のお客に
『親切の裏に隠された罠に気をつけなさい』
とも言われていた。
でも、それはハルナに言い寄ってくる男に対してのアドバイスだったが。
この家に呼ばれたのはスプレイズ家に関するものではないかと、ハルナは勘を働かせる。
「々とお聞かせいただいたお話しから、この世界の事がわかってきました。
親切にしていただいておきながらこんな質問をするのは失禮かと思いますが、お許しください。
私がエレーナにこの町に連れてきてもらったのは、もしかして他に何か理由がおありなのではないですか?」
この場に慣れて來たこともあり、ハルナは気になることを聞いてみた。
「……ここまできて、誤魔化すわけにはいかないわね」
エレーナは、眉間に深いシワを寄せた顔でソファの背もたれにを預けた。
「お察しの通り、あなたをこの家に呼んだのは理由があるのよ。ハルナ」
ハルナは利用されるために呼ばれたのだと気付く。
それでも、この時點では怒りや絶は生まれない。
「その理由(わけ)を聞かせてもらってもいい?」
橫に座っているエレーナにハルナはの上半の向きを変えて問う。
「もちろん……というより聞いてしいの」
アーテリアはエレーナに向かって黙って頷き、全てを任せた。
「フリーマス家とスプレイズ家は関係がよくないの。本當の理由はさっき知ったのだけど……」
これに関しては、ハルナも同じ報を共有している。
「今回の問題は、次の王選のことなの。 王選は王様候補の方と四つの町から霊使いを一名ずつ出し合って、王候補者一名、霊使い二名で大霊様と大竜神様の加護をけに行く旅をするの。そして早く帰ってきた方が次期の王となる権利が與えられるというルールがある。
その霊使いの組み合わせは王國から指示されるのだけど、今回は風の町と水の町から出すことになったの」
ハルナは、直でそうであると信じて質問する。
「風の町からは、エレーナなんでしょ?」
「そうね。そして水の町からは“ウェンディア・スプレイズ”が選ばれたのよ」
「……エレーナは、その人のことが苦手なの?」
(ん?)
何かハルナの中で引っかかる。
……
…………
――!!
ハルナは、気付いた。
一番最初に、エレーナからその名で呼ばれたことを。
「そう、私は最初にあなたのことをウェンディアと勘違いしていたの。すごく似てたから」
「それで私のこと、警戒してたのね……」
「警戒……とは違うわね。 驚きだったのよ、だってウェンディアはいま行方不明だから」
「行方不明……って、大丈夫なの!? 王からの招集はどうなるの?」
「そうね……このままだと水の町からは、他の人が出ることになるわね」
「ふーん……って、それでいいの!?」
「正直なところ、私たちは構わないわ。 ただ、スプレイズ家は招集に応じられなかったことにより、今まで続いてきた大臣の職から外される可能もあるのよ」
王選の旅は、候補者が王に選ばれた際に、そのまま側近の霊使いに選ばれる可能が高い。
旅の中で一緒に分かち合った苦労や、パートナーが王になるために盡くしてくれたという信頼関係が、王就任後に王政運営のために必要な人材と考えられるためだ。
よって、今回の招集に參加できないとなると、王國のために人材を育していなかった無能の大臣としての烙印が押される可能もある。
そうなれば、他の家の霊使いが王政に協力し、新たな大臣が誕生ということにもなりかねない。
「それで、ウェンディアさんを見つけて、恩を売ろうとしてたってこと?」
「ハルナが、その本人だったなら……ね。でも本気で探すつもりがなかったのが、し前までの私の本音」
ハルナも狀況が見えてきた様子。
簡単に起こり得そうな未來を予想した。
「でも、そういう事態になったとすると、スプレイズ家は益々エレーナ達を恨みそうね」
「そうなのよね。行方不明になっても王選の招集がなければ、ここまで深刻な事態にはならなかったのだけど」
そこで、アーテリアも問題を指摘する。
「仮にこの時點で見つかったとして、ウェンディア様が”霊使い”として働ける狀況であるかということなのよ」
――見つからない
――霊使いになっているか
――召集までに間に合うのか
どの問題も、簡単に解決しそうにない。しかもそのうちの2つは見つからないとわからない。
エレーナはいつまでも黙っていたかったことを告げる。
「そこで思いついたのが、“ハルナがウェンディアになってもらう”作戦だったのよ」
――――!!
ハルナは強い恐怖をじ、それに応えるようにフウカがビクッとく。
「……そ、それは、で私の記憶を書き換えたり、別な人格とれ替えたりとか……」
エレーナは目を細めてハルナを見る。
「あなたは、何を言ってるのかしら?   もしかしてハルナのいた世界では、そういうことが平気でおこなわれてたってこと!?」
エレーナの言葉にアーテリアは目を見開いて、驚いた。
「え? そんなことできるわけないじゃない」
「え?」
「え?」
ハルナはこの世界が今までとは違った世界のため、そういうこともできるのかと思ったらしい。
「話しを線させて、ごめんなさい……  で、その作戦はどういうものなの?」
ハルナも落ち著くために発言の後、目の前の紅茶に口をつけた。
「こういうところが、ハルナの不思議なところなのよね。まったくもう……  ま、それはそれとして。 要は、ハルナにウェンディアの替え玉になってもらいたかったのよ 」
アーテリアはそんな仲のよさそうなエレーナ達の様子を見て、
(新しいお友達ができたのね)
と、小さい頃のエレーナを思い出しながら口元を緩めた。
「でも、どれだけ似ているか分からないけどそんなのすぐスプレイズ家の方にバレてしまうんじゃない?」
「その通りよ、すぐバレてしまうわ」
「それじゃ……」
ハルナが発言しようとしたが、エレーナはそれに被せてくる。
「だから、スプレイズ家には初めから偽者ですっていうのよ」
「それって…… え…… その…… おかしくない?」
ハルナはすぐバレることを気にしていた。が、エレーナのいうことでは、初めから正をバラすということ。
エレーナは説明を続けた。
「相手もこの狀況はかなり困っていると思うの。 こちらからは協力という形で話をするの」
協力、これは相手のプライドや過去の問題も考慮しての提案である。
「まずは、本人が見つかるまでの間ということにして、ハルナにウェンディアを演じてもらうの。
その間に見つかれば代でも良いし、見つからなければ継続して演じることになるわ」
「でも、私もそんなに霊……フーちゃんとできるとも限らないし」
ハルナは元にいるフウカをちらっと見る。
「そこはし訓練してもらうわ。そろそろ、始まりの場所での契約が始まり、次の霊使いの訓練を開始する時期なの」
――――コンコン
ノックする音が聞こえた。
アーテリアは室を許可した。
ってきたのは先程の執事、アルベルトだった。
「アーテリア様。先程の件ですが、お調べしたところウェンディア様は二度目の儀式で風の霊と契約しておりました。
契約後はご自で訓練されるとのことで、當施設での訓練はけておらず、モイスティアに戻られております」
契約は毎年行われているが、その年に契約できなかった場合は一年開けた後に參加できるようになっており、そのチャンスは最大の3回までとしている。
それは霊使いを目指している多くの人材に、なるべくチャンスが回るようにとの配慮で連続での挑戦を止している。
ちなみ、アーテリアは契約や教育施設に関しての責任者であるが、申請や育などの実務は他のものに任せている。
「そうでしたか。……よろしい、ありがとう」
「では、失禮致します」
アルベルトは、禮をして部屋を退室する。
「ウェンディア様は、ハルナさんと偶然にも同じ屬ね」
「これでウェンディアが契約していることがわかったわね。あとは使えるようになっているかどうかなんだけど……」
エレーナはそういってハルナの方を見る。
「ハルナも今回の契約した生徒と、いっしよに訓練してしいの」
「訓練は嬉しいんだけど……そうすると、私はその王選に參加することになるの!?」
「勝手なことを言って、ごめんね。ハルナ…… できれば、助けると思ってこの提案をけれてしいんだけど。でもね、無理強いはしないわ」
命令をしたい気持ちはある。だが、ハルナは部下ではなく友達だとエレーナは思っている。
きっとハルナもそう思ってくれている、という希にも似た確信をエレーナは持っている。
「は……ハルナはこの世界で、行くところがないんでしょ? もしけてくれたらこの世界での面倒は、このフリーマス家でみます……いや、みさせて!」
(う……)
ハルナは思いもしなった問題點を指摘された。
この世界での活拠點だ。
確かにこの世界での拠點や資金は何もない。
頼みの人脈も、このフリーマス家だけである。
エレーナの本心はこんなことをせずとも、ハルナにはこの家にいてしかった。
特に何かを要求するわけではなく、ただ一緒にいてしいとの願いからであった。
(ハルナごめんね…… 本當はこんな弱みに付け込んだ一方的な換條件で嫌われたくないんだけど、何かと理由が必要なのよ)
しかし、エレーナは
『ハルナなら……、ハルナなら何とかしてくれる!』
という願いが、心の奧底にあった。
長考の末に、ハルナは言った。
「……助けになるのならお手伝いしてあげたいけど、でも、私……何もできないよ!?」
――!
ハルナから肯定的な言葉が聞けただけで、エレーナは涙が出そうになった。
実際に外から見れば鼻の頭は赤く、目もいつもにも増して潤っていることだろう。
また、エレーナの流れの読みは確かなようだ。
ハルナが承諾しかけているこのタイミングを逃さないように、必死さをなるべく隠しかぶせてきた。
「だ……大丈夫! サポートは萬全だし、うちの教育プログラムは完璧よ!! 絶対に危ないことが起きないようにするから!」
野生の狼の時も、エレーナはハルナを守ってくれた。
後ろから狙われていたのは、警戒心の薄かったハルナだった。
(……困ったときは何とか助けてくれそうだし、いざとなったら、リタイアさせてもらおう)
「じゃあ、私は何をすればいいの?」
ハルナが返答し、アーテリアがその質問に答える。
「ハルナさん、訓練を始める前に一度、契約の儀式をご覧になりませんか?」
「え?……見たいです!是非お願いします!!」
「それではこの後、明日の契約の儀式に參加できる該當者を発表するので、そこへ一緒に行きましょう」
そういうとアーテリアは席を立ちメイドに指示を出して、霊使いになるための訓練所へ向かうための準備をさせる。
ハルナもエレーナも同時に席を立ち、訓練所に向かう準備をする。
「あ。そうそう、ハルナさん。訓練所では、霊様に聲を出さないようお願いできますか?」
「あ、はい。わかりました。 ――フーちゃん聞こえた?」
ハルナは元のフウカに確認した。
「わかった、靜かにするよ!」
「ありがとうございます。 し繊細な場面でもありますので、多窮屈だと思いますがよろしくお願いします」
アーテリアはそういうと、一度頭を下げてメイドと共に支度用の部屋へと向かった。
「さ、私たちも準備して向かうわよ!」
エレーナはそういうとハルナの腕を組んで、準備をするために移した。
訓練所はフリーマス家の隣の敷地にあった。
山のふもとに存在し、その姿は學校のような風貌であった。
エレーナと校門のり口で待っていると、アーテリアが馬車に乗ってやってきた。
二人は同じ馬車に乗り込み、訓練所の敷地へとっていく。
エントランスでは指導員數名が、アーテリアを待っていた。
すでにハルナのことは指導員達には伝えられていた様だ。
馬車を降りて指導員に連れられ、三人は學生が待機している教室へと向かう。
ハルナ達は教室の後ろのドアからり、用意された席に案される。
席に座り見渡すと、総數15名の教室だった。
年齢は高校1年から大學生くらいの年齢のが著席していた。
そして、の指導員が前のドアからり、手には革張りのクリップボードを手にしている。
教室には張が走る。
「それでは、これから”契約の儀式”の參加者を発表します。 出地と名前をお呼びしますので、該當者は返事をすること」
指導員はそう告げて、手の中のクリップボードを開く。
「ラヴィーネ……、”オリーブ・フレグラント”」
「はい」
「フレイガル(火の町)……、”ソルベティ・マイトレーヤ”」
「はい!」
「モイスティア……、”アイリス・スプレイズ”」
「はーい」
「以上、三名はこの後指導員に従い、明日に備えること」
「――待ってください!!」
あるが、手を挙げる。
「なぜ、私は選ばれなかったのですか? 挑戦できるのは今回が最後なのです! これを逃すと、もう霊使いになれないのです!!
お願いです、お願いします……私もけさせてください!! 」
何度かけているのだろう。
それでも今回彼は選ばれなかった、しかも挑戦できるのはこれが最後という事実。
彼の必死さは、訴えからも伝わってくる。
しかし、
「今回は當施設の審議の上、この三名に決定しました。よって、この決定は覆されることはありません」
その指導員は、なく伝える。
「どうしてですか!? 親の地位ですか?お金ですか?それ以外のですか? 用意できるものなら何とかします……ですから、ですから!!」
そこに指導員は話を割り込む。
「これ以上、伝えることはありません。 解散」
そういうと、ってきた前のドアから振り向かずに出ていく。
ドアが閉まると、あちこちから涙を我慢する聲や、我慢しきれずに機の上でうつぶせて大聲で泣くものもいる。
ハルナはが痛くなる。
霊使いになるために、彼たちは相當の努力を重ねてきたのだろう。
それが報われなかったとき、彼たちのこの先に何が待っているのか。
あの必死の訴えからすると、想像することすら怖くなる。
沈んだ顔をしたハルナにエレーナは聲をかける。
「さ、行きましょう」
背中に手を當てて、エレーナはハルナを教室の外まで導する。
ハルナ達はそのまま、學長室へ案される。
その中はアーテリア、エレーナ、ハルナの三人だけであった。
そこにあるソファに腰掛け顔を両手で覆い、ハルナは先程の出來事を思い返す。
「ハルナさん、どうだったかしら?」
「選ばれなかった人達、すごく可哀想にじました。だけど、あの選ばれた三人も反対の立場になる可能があった……ということですよね」
ハルナは、この世界のことが分かってきた気がしていたが、まだまだ知らないことが多くあることを痛した。
そして、そういう自分を恥じていた。
「その通りです。可哀想かもしれません。だけど、自分自がそうなっていた可能もあったのです。さらに言えば、ここにってきたときからその可能を考えていなければなりませんでした。それに早めに気付けていたならば、あの彼もここでの生活がしは変わっていたかもしれませんね」
「そして、これで終わりじゃないの。明日契約できて、一緒にやっていけるかが本當の問題なの」
エレーナは付け加えて言った。
今回の出來事によりハルナの中で、何かが変わろうとしていた。
          
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