《問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『霊使いで再起しました。』》
ティアドは、ソフィーネが淹れてくれた目の前にある紅茶を一口含む。
「そうね……思うところがないわけでは……ないわね」
紅茶の皿を、膝の上に乗せたままティアドはうつむく。
ほんの十秒くらいの時が、とても長くじる。
気持ちを整理し終えたのか、ティアドは語り始めた。
「カメリア姉さんは、自慢の姉だったのよ。若くして霊使いになり、面倒見もよく頭の回転も速く、人を見抜く力もあったように思えた。そんな力がある人だからこそ、モイスティアの訓練所を造れたのよ」
「王選に參加し、旅に出ることになったときも驚きはしなかったわ。姉さんなら當然だと思ってた。もしかしたら、お妃にもなれるんじゃないかって本気で思ってた……それが當たり前のようにね」
「姉さんは、旅の中で風の大霊(ラファエル)様とお會いすることができ、認められてその証である指をけ取った……」
ティアドは、ハルナの手を見つめる。
「風の霊の加護をけた指を……ね」
ハルナはそっと指にれる。
本當はこんなに気軽に付けていること自がおかしく、苦労をして努力をして手にれることが許されるものだったのだ。
「一度町に戻り、次の出発まで準備をしていたところ。王國からの依頼でインプ討伐の命令が下りたの。依頼対象は強敵、だから霊の加護をけている二人の霊使いに白羽の矢が立ったの」
「それが……」
「そう……あなたのお母様と私の姉さんね。一番まとまっていることと実績と実力が評価され、王子を含むメンバーが基本となり護衛數名を追加して討伐することになったの」
「……それで、あの事件ですか?」
マイヤが言葉を挾む。
「そうね。この話はもう、アーテリア様からお聞きになられているかしら?」
エレーナは、その問いかけに黙って頷いた。
「……あの頃は信じられなかった。姉が……カメリアが、死んでしまったなんて。どんなに考えても、判らなかったしけれられなかった。誰かに聞こうにも、いつも頼りにしていたのが姉だったから。次第に、パーティーの中で裏切り者いたのかもとまで、疑いの目を持つようになったわ。……弱かったのよ、人としてね」
「ティアドさん……」
ハルナはめの聲を掛けようとしたが、それから先の言葉が浮かばなかった。
ハルナも忘れかけていたあの事実を思い出していた。この世界とは別の世界に殘してきた妹のことを。
同じように苦しんでいるのではないか……
そう考えると、ティアドの気持ちも理解できる。
殘された方は、辛い思いを抱いたまま生きていかなければならないのだろう。
消えることのない記憶とともに。
幸か不幸か、今ハルナはこうして別の世界に生きている……
この世界が”本當”の世界かわからないが、こうしてみんなと過ごせていることは幸せなことかもしれない。
「ありがとう、ハルナさん……お心遣い謝するわ。そしてごめんなさいね、エレーナさんの質問の答えになっていなかったわね」
その言葉にエレーナは真っ赤な目をして、首を振り否定する。
言葉を出すと、我慢している涙がこぼれそうだったから。
「それで先ほどの答えは……【いいえ】よ。今はもう、あの事件に関しては誰も恨んでいないわ……確かに、今でも思い出すとまだが苦しくなる。でも、それは信頼していた仲間を守るためだったのよね。……やっぱり誇りの姉だわ」
そういうと、エレーナの顔を見つめ優しく微笑んだ。
エレーナの心の堤防は、もろくも崩れ落ちる。
今まで耐えてきたものが、許されたのだった。
泣き聲を押し殺そうにも、自然とあふれるの前には止めることはできなかった。
ティアドはそんなエレーを抱き寄せてて、後ろ髪を優しくなでる。
自分の娘をめるように……
ティアドには、もう一つの問題もあった。
娘の消失について。
これに関しても、何も報がないまま時間だけが経過をしている。
こればかりに時間をかけるわけにもいかず、やるべきことは他にも沢山ある。
せめてどこかで無事でいてくれるか、最悪でも苦しんでいなければ良いと願うばかりだ。
そろそろ、モイスティアでの滯在にも、お別れの時間が近づいてきた。
エントランスには、豪華な馬車が止まっている。
その紋章はフリーマス家の紋章だった。
馬車の運転席に乗っていたのは、者とアルベルト。
車の中にはメイヤも乗っていた。
道中、何かあってはいけないと二名に命令をしたのはアーテリアだった。
アルベルトは黒い服にを包み、他の町でも恥ずかしくない格好を整えている。
腰にはレイピアを攜えて。
アルベルトは、昇降臺を設置し準備を整える。
馬車のドアが開き、中からメイヤが姿を見せる。
馬車から降りて、ティアドの前に跪き挨拶を述べる。
「ご無沙汰しております、ティアド・スプレイズ様。この度の長期間の滯在についてお許しを頂きましたことにアーテリア様より謝の言葉をお預かりしております」
「ご丁寧に有難うございます。こちらこそ、エレーナ様やハルナ様にはご協力いただき謝しております。また改めて、お禮のご挨拶にお伺いさせて頂きますので、アーテリア様によろしくお伝えください」
その言葉に対し、メイヤはお辭儀をして返した。
そして、視點はその後ろのソフィーネに。
「……お元気そうね、ソフィーネ。今回はお手柄だったと聞いておりますよ」
「ありがとうございます、メイヤ様。しは、スプレイズ家のお役に立てたようで安心しておりますわ」
「ふふふ……それはよかったわ。それではまた今度、どのくらい長したのかお手合わせ願いたいわね」
「……その際は、ぜひよろしくお願いしますわ……メイヤ様」
「あーもう。二人とも敵意むき出しなのよ。マイヤも二人を止めてよ!」
「いーえ、エレーナ様。こんなのはまだまだです。二人にとっては再開した喜びの挨拶のようなものですわ」
一通り挨拶が終わり、時間を気にしてアルベルトが聲を掛ける。
「エレーナ様、それではそろそろ出発しましょう。遅くなりますと、道も暗くなり危険になって參りますので……」
とはいえ、このメンバーなら何が起きても対処可能であるとエレーナは思っているが、このまま居てはティアドにも迷がかかるというもの。
「えぇ……それでは、ティアド様、ソフィーネさん。お世話になりました。また近いうちにお會いできる日を楽しみしております」
そう告げて、エレーナはお辭儀する。
「こちらこそ、有難うございました。……それにハルナ様も、お元気で。また、遊びにいらしてくださいね」
「有難うございます、ティアドさん。またぜひお會いしましょう!」
そういうとハルナは、ティアドに手を差し出す。
ティアドも気付き手を差し出してハルナの手を取り、握手をした。
ハルナはその手にピリピリとしたものを覚をけ、力強さをじる。
エレーナ、ハルナ、マイヤ、メイヤの順で馬車に乗り込む。
アルベルトが踏み臺をしまい、者の隣に座る。
「それでは、有難うございました!!」
ハルナは窓から顔を出し、見送ってくれる人たちに挨拶をした。
――パシィッ
鞭の音が響き、馬車はゆっくりとき出す。
ティアドは、じっとハルナの顔を見つめていた。
馬車の姿が小さくなり、町の角で見えなくなるまで見送っていた。
いつまでも見送るティアドに、ソフィーネは心配して聲を掛ける。
「……ティアド様?」
「……ごめんなさい。とても賑やかな日々だったので、し寂しくなったのよ」
「わかります、ティアド様。私も同じ気持ちです……」
二人は笑い合い、靜かになった家の中に戻っていった。
途中休憩を挾みながら、馬車は進んでいく。
そして、日が暮れて空が赤から黒のに染まっていく。
明るい星だけが輝いて見え始めたその時、懐かしい関所が見えてきた。
『風の町ラヴィーネ』
馬車は何事もなく町にり、懐かしい町の中を進んでいく。
大きな屋敷の姿が、徐々に大きくなり門が靜かに開いていく。
門を通り過ぎると、開いた扉の中から眩しい明かりが見え出迎える人影が見える。
馬車は速度を落とし、エントランスの前に停まった。
アルベルトが踏み臺を置き、馬車のドアを開く。
「ただいま!!」
エレーナが飛び出した。
「おかえりなさい、エレーナ。そしてハルナさんも」
出迎えてくれたのは、アーテリアだった。その橫には、オリーブの姿もあった。
「疲れた……ただ、座ってるだけっていうのも疲れるのよね」
「私も、腰……が……ばせない……の」
背びをするハルナの腰から”バキッ”っと音が鳴る。
「とにかく、お湯にでも浸かってサッパリしてきたら?そこからお話を聞かせて頂戴?」
アーテリアの提案にエレーナとハルナは同意する。
マイヤ、メイヤは、著いたばかりだがメイドとしての仕事があるようだった。
ハルナは申し訳ないと思いつつも、エレーナの強引ないにより浴場に連れていかれた。
その後、軽く夕食を済ませ、アーテリアの部屋に集まる。
部屋には、疲れを癒やすための香りのよい植のオイルが焚かれ、嗅覚からの疲れを取り除いてくれる。
そこでエレーナは、モイスティアで起きた出來事やティアドから聞いた話などをアーテリアに報告した。
出來事については、マイヤがこまめに書簡にて報告していてくれていたようでおおよその容は伝わっていた。
ティアドの件については、初めて耳にする容だった。
「そう……ティアド様はそう仰っていたのね」
マイヤは、帰り際にティアドから書簡をあずかっていたが、その容では読み取れないものを話の中からじ取れた。
アーテリアもしだけ、背負っているものが軽くなった気持ちになる。
(この二人は、結構いいコンビね……)
初めてこの家に連れてきた時に相が良いのはじていたが、これほどまでとは思っていなかった。
それに、今回起きた不思議な現象。
娘の傷も、すっかり癒えているようだったが今夜はそのことについてれないほうがいいとじた。
また、落ち著いて何が起きたのか狀況を整理し検証することにした。
「……わかりました。とにかく、お疲れさまでした。今夜はゆっくりと休んで。數日間はを癒すことに専念するのよ、二人とも」
「「はい!」」
二人は、それぞれの寢室に戻り、久々の自分のベットで休むことにした。
――真夜中
屋敷の中では、誰かが起きて作業している気配はある。
その音に目が覚めてしまったというわけでもない。
(疲れてるはずなのに……眠れない)
エレーナはベットの橫においてある、オイルランプに火をつける。
火はゆらゆらと揺れ、心地良い揺らぎで癒してくれる。
急に元の生活に戻ってきたため、順応できていないのかと思っていた。
でも、そうではなさそうだった。
エレーナは眠気が訪れるまで、ベットに腰かけることにした。
その隣には、この度でずっと持ち歩いていた用の杖が立て掛けてある。
思い出すのは、ハルナの急長した力。
今まで自分でも見たことがない、力を見せていた。
(あの指の力なの??)
思い返しても、今回特に何かをした記憶がない。
近頃、ハルナのことを思うと息苦しくなる気がする。
(嫉妬……かしら?)
その気持ちもぬぐい切れない。
だけど、ハルナ自のことは嫌いではない。
――はず
エレーナは目をつむり、苦しくなるほどに肺を空気で満たす。
そして息を止める、苦しくなるまで止める。
…………
……………………
………………………………
――ぷっっはあぁぁぁ!!!
一気に息を吐き、気持ちを切り替える。
心臓の早い鼓が、の中で鳴り響く。
(忙しかったから、急に休んでも気が落ち著かないのよね……)
自分の狀態をそう納得させ、コップに水をれ飲み干した。
今夜はオイルランプの燈は消さずに、オイルが切れるまで點けておくことにした。
(――クソッ)
エレーナはベットの中に潛り込んだ。
數日後、各主要な家に王國から書簡が屆く。
その書簡の表には、次のような文字が書かれてあった。
【王選に関わる、霊使いの人選のについて】
――――――――――――――――――――――――――――――
商人たちの一同が、森の中を移している。
商人の中には、ある特定の町だけではなく各町を回り、他の町の特産品を仕れ他の町にそれ流し、またその町の特産品を他の町へ流す者たちもいる。
時にその商人たちは一家族だけではなく、複數の家族で集団を形し各町を旅していた。
そういった商人のとある集団の一つ。
先頭に番犬を連れて、魔や時々出てくる野盜を察知するために同行させている。
――ワン!
數匹の一頭が、何かを見つけたらしくそちらに向かって吠える。
首を引いている、が犬をなだめるが鳴き止むことがなかった。
いつもと違う様子に、周囲は警戒する。
は犬と一緒に、その周囲を探索する。
草に埋もれた中に、一つるものが見えた。
犬はそれを口にくわえ、に手渡した。
はその瓶を眺めると、瓶自は高価なものに見えたが中の黒いのようなものが気になった。
瓶を渡した犬はおとなしくなり、また群れの方へ戻っていった。
「ナーシャ、何かあったのかい?」
「いいえ、お父様。特に何もなかったわ」
そういうと、はまた旅の一同の中に戻り進んでいった。
(あの瓶はあたしが拾ったからあたしのなのよ!)
          
【書籍化・コミカライズ】三食晝寢付き生活を約束してください、公爵様
【書籍発売中】2022年7月8日 2巻発予定! 書下ろしも収録。 (本編完結) 伯爵家の娘である、リーシャは常に目の下に隈がある。 しかも、肌も髪もボロボロ身體もやせ細り、纏うドレスはそこそこでも姿と全くあっていない。 それに比べ、後妻に入った女性の娘は片親が平民出身ながらも、愛らしく美しい顔だちをしていて、これではどちらが正當な貴族の血を引いているかわからないなとリーシャは社交界で嘲笑されていた。 そんなある日、リーシャに結婚の話がもたらされる。 相手は、イケメン堅物仕事人間のリンドベルド公爵。 かの公爵は結婚したくはないが、周囲からの結婚の打診がうるさく、そして令嬢に付きまとわれるのが面倒で、仕事に口をはさまず、お互いの私生活にも口を出さない、仮面夫婦になってくれるような令嬢を探していた。 そして、リンドベルド公爵に興味を示さないリーシャが選ばれた。 リーシャは結婚に際して一つの條件を提示する。 それは、三食晝寢付きなおかつ最低限の生活を提供してくれるのならば、結婚しますと。 実はリーシャは仕事を放棄して遊びまわる父親の仕事と義理の母親の仕事を兼任した結果、常に忙しく寢不足続きだったのだ。 この忙しさから解放される! なんて素晴らしい! 涙しながら結婚する。 ※設定はゆるめです。 ※7/9、11:ジャンル別異世界戀愛日間1位、日間総合1位、7/12:週間総合1位、7/26:月間総合1位。ブックマーク、評価ありがとうございます。 ※コミカライズ企畫進行中です。
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