《問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『霊使いで再起しました。』》
ここは、森の中。
普段は、人などほとんど通らない道なき場所。
風に木の葉がれ合い、波のようなさざめきが生まれる。
木々の間の適當に空いたスペースの中に、三角形のがその姿をそうとしている。
この森の中には似つかわしくない喧噪が響き渡る。
「ちょっとハルナ、そっち持ってってば!」
「私も両手が塞がってるんだけど……」
「……エレン、僕がやるからそっちを離して」
「ねぇねぇ、ハル姉!その辺で遊んできていい!?」
「「勝手にどこかにいっちゃダメ(です)ーーー!!!」」
あの日の夕食から二日後、ようやく外出許可が出た。
その間に進められていた、メイヤとアルベルトの準備は萬全だった。
主な道は念のため三名がれる簡易テント。
それは二重の布でできた四角錐の中に支柱を立てて使う。
他に布と簡易食糧を五日分。水に関しては水場もあるが、エレーナに任せておけば問題はない。
今回は、森のはずれの場所が指定された。
その場所は地図には載っているが、詳細については分かっていない。
このラヴィーネで扱っている地図は、フリーマス家が監修している。
そこには野獣などの生息地域や出現率などが季節ごとに掲載され、周囲の森を通る者たちには大変重寶されている。
そのため、フリーマス家の財源においても、重要な役割を果たしていた。
今回の指導者のマイヤからの指令は次の通り。
『地図上に示した指定地域の生や植の生息分布の調査及び、地図報の新規作をお願いします』
というわけで、ハルナ達は地図に示されている既に調査され、安全であると判明した場所のギリギリのラインに拠點を構えることにした。
そこから指定地域を扇狀に探索するという方法をとった。
それはアルベルトからの意見で、未調査地域の中に拠點を置くより確実な場所の方が安全が高いという判斷だった。
本來こういう仕事は、霊使いになりたての者たちに與える仕事であるが、今回はエレーナたちが経験値稼ぎの意味も含めて行うことになった。
「これで、よしっ……と」
「ふー……疲れたわ」
「それじゃあ、夜のために薪を集めに行きましょうか」
「えー!アル、もうちょっと休もうよ」
「エレン……だけど、そろそろ日も落ちてくる時間だからね。早めに用意したほうがいいんだよ」
「あー。こういう時は火の使い手がいる方が便利ねー」
「ただ、それだけのために!?」
「じゃあ、エレンは休んでていいよ。ハルナさんも無理はしないほうがいいのすが、どうします?」
「あ、じゃあせっかくなので行きます」
ハルナは重い腰を上げて、アルベルトに近寄る。
「ちょっと、一人にしないでよ!こんな知らない危険な場所で!!」
エレーナは飛び起きて、アルベルトとハルナの急いで後姿を追い掛けた。
三人は拠點からそんなに離れていない周辺で薪を集め、元の場所へ戻り焚火の準備をする。
その頃にはすっかり空は赤くなり、徐々に暗闇が周囲の景を浸食し始めた。
ハルナは風の力を利用し、小さな竜巻を起こす。
そこにはちょうど円形狀の地が見え、そこに火を起こすことにした。
アルベルトは手際よく、火を起こす。
火を囲む周囲に、暖かい明かりが燈る。
暗くなりやや冷えたじはあるが、この焚火ともう一枚ブランケットあれば十分に凌げる寒さだった。
アルベルトはさっそく食事の用意をする。
焚火の上に小さな鍋が置けるような網目の付いた金屬の臺を組み立てて設置する。
その上にエレーナにれてもらった水と簡易的に作った末狀のスープの素をいれ、火の上にかける。
末が溶け出すと、ジャガイモを塩コショウバター干しで煮込んだスープが出來上がった。ジャガイモ自は解け崩しているため材はないが、十分にその味しさを味わえることができる。
その上に乾燥させた香るハーブをれ、完させた。
エレーナは乾燥したパンと、チーズを全員分取り分ける。
ハルナは出來上がったスープを、カップに取り分けて配る。
それぞれの手に食事が行きわたり、初めの食事を迎える。
「「いただきまーす!!」」
ハルナはカップを手に取り、息を吹きかけ冷ましてスープを口にする。
「何コレ!すっごく味しい!!!」
フウカもしそうに、肩の上からカップをのぞき込む。
ハルナはしパンをちぎってスープに浸し、それをフウカに渡した。
フウカも味しそうに食べている。
時間が進み、食事がもうしで終わりかけた頃。
「やっぱり、これがないと……ね」
水筒のようなものを取り出す、エレーナ。
「ま、まさか。それって……」
にやりと笑うエレーナは、ハルナに水筒の注ぎ口を向ける。
先程のスープのっていたカップを一度、水ですすぎ差しだす。
それを差し出して注ぐ姿は、もはや飲み屋のオッサンに近い。
水筒の中から明のが流れ出て、アルコールの香りが鼻を突く。
お店で嗅いだことのあり記憶をたどる。芋焼酎のにおいだ。
「これ、最近できたお酒のようなんだけど。そのまま飲んでもいいし、水やお湯で混ぜてもいいらしいのよ。ちょっと飲んでみて?」
……チョッっとだけ口に含むハルナ。
――!!
ゲホゲホとむせかえる。
「結構……キツイわね……これ」
元の世界の焼酎と似ているが、味がし雑で飲むとが焼けそうなじがする。
「わたしは水を混ぜてるんだどね……これ」
そういうと自分のカップには指先から冷たい水と氷をれて混ぜている。
ハルナはジト目で、エレーナをにらむ。
「ごめんごめん。ほら、カップを出して!」
ハルナにも同じように冷たい水と氷を注いだ。
「アルベルトさんはいらないんですか?」
「アルはいいのよ。すっごーく弱いから……ね?」
エレーナはいたずらにアルベルトの顔を見て笑った。
「そんなものが飲めなくったって、別に何の問題も……ない」
焚火に薪をくべながら、アルベルトはエレーナの意地悪に答えた。
さらに時間とお酒を注ぐ回數が進み、程よく酔いが回ってきたころハルナはある疑問を投げかけた。
「どうしてエレーナのこと、”エレン”って呼んでるんですか?」
ハルナの質問に、アルベルトのが一瞬”ビクッ”と揺れた。
「そ・れ・は・ねぇ~」
「おい!やめろ!!」
し腰を浮かせて、エレーナを止めにかかろうとした。
「いいじゃない、そんなに恥ずかしいことでもないと思うけど?」
エレーナは、相當気分が良くなっているようだ。
モイスティアでもそうだったが、調子に乗りやすくなる質のようだ。
ハルナは目をキラキラさせて、二人の様子を見守る。
その視線に気付いたアルベルトはあきらめたのか、またその場に勢いよく腰を下ろした。
その様子を見たハルナは、再度エレーナに問いかける。
「で、それはどうしてなの?」
「アルベルトはね。昔は泣き蟲だったのよ、今では考えられないかもしれないけど」
「ほうほう、それでそれで!」
「言葉もね、し舌足らずなところもあってね。エレーナの”ナ”が言えなかったの。私のことはエレー”ラ”ってずっと言ってたわけ」
「でもそれがどうして”エレン”になったの?」
「アルは泣き蟲のくせして、とーーーっても負けず嫌いなの。私が何度も何度も”エレーナよ”って言っても直せなくて、結局自分の呼びやすい呼び名に変えちゃったのね」
「もしかしてそれが……」
「それが……いまの”エレン”よ……アルだけの……私の……特別な呼び方なの……」
そう言い終わると、エレーナは目をつむってしまった。
に浸っているのかと思ったら、どうやらエレーナは眠ってしまったようだ。
休息中は暇だったとはいえ、このような狀況になっているが、力はまだ萬全ではなかったのだろう。
律儀にも、カップはこぼれないようにしっかりとその手の中に握られたままだった。
「本當に、こいつは……」
アルベルトが自分のブランケットをエレーナに被せてあげた。
そして、手からはカップを外して地面において、エレーナを抱き上げた。
「ハルナさん、すみません。テントのり口開けてもらっていいですか?」
「あ!はいはい」
ハルナはその様子をうらやましそうに見ていたが、聲を掛けられたことにより現実に引き戻された。
テントの切れ目のり口を開き、その中をアルベルトは通っていく。
ハルナは焚火の周りに殘された皿やカップを片付ける。
エレーナが簡易バケツに貯めていた水で、ひしゃくを使い洗い流す。
丁度アルベルトがエレーナを橫にし、テントから出てくる。
月も、斜めから頭の真上辺りに昇ってきた。
「ハルナさん、それでは明日もありますしそろそろ……」
「はい。あと、焚火はどうしますか?」
「念のため、このままにしておきましょう。野獣は火を嫌うことも多いので、燈っている間は近寄ってこないでしょう。念のため、テントの周囲には近づいたときに音が鳴るようにトラップを仕掛けておきました。あと、罠も々仕掛けていたので、危険度はし減るでしょう」
「わかりました。では、テントに戻りましょう」
「あ、あと。何かあるといけないので、り口付近で寢ますからハルナさんは真ん中で橫になっていただけますか?」
「わかりました、ありがとうございます」
ハルナはテントの中にると、オイルランプがついていることに気付く。
は眩しくないように、和紙のようなものを被せてが強くならないようになっていた。
更に、先ほどの間にハルナとエレーナが橫になる場所にはブランケットが畳んでおいてあり、地面の凹凸を和らげるように工夫がされていた。
(さすが、やることもイケメンね!)
ハルナは心でそうつぶやき、橫になった。
薪を追加し、周囲を確認してアルベルトがテントの中にってくる。
そして、剣や防を外し枕元に置いて橫になる。
背中をこちらに向けて、り口の方を向いて橫になった。
(お酒が臭うのかしら……)
更には、エレーナとアルベルトの間をこのミッションの間で何かできないか。
ハルナはそう考えると、ドキドキして眠れなかった。
外にはいくつかの生きの視線が、ハルナ達のテントに注がれていることも気付かずに……
          
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