《幻影虛空の囚人》第三幕二話 「夢現」
『チュートリアル開始。エンティティを配置します。』
「これは──スライム?」
目の前に現れたのはRPGの代名詞、スライム。橫には俺とショージ、そして河口がいる。
1人につき一のスライムが配置されたらしく、2人はそれぞれ臨戦態勢を取っていた。
「───で、どうやって戦えばいいんだ?」
とりあえず刀を抜いてはみたものの、コマンドらしいものも見當たらずその場に立ち盡くしてしまう。橫の2人も同様のようだ。
『本作ではプレイヤーの皆様自らが戦闘を行って頂きます。』
「──え?」
『能力はゲーム側で設定されたものになりますので、能力によるハンデはありません。が、いつ、どこで、どういった技を使って戦うかはあなたがた自が考え、行していただきます。』
「つまり……?」
『音聲データ530再生──"ゲームシステムに甘えてないで、自分の力で頑張れ"──以上です。』
おそらく……いや、間違いなく吾蔵研究員が自ら録音したであろう音聲が響き渡り、チュートリアルらしきものは終了した。
「って──チュートリアルになってねえよ!どうすんだよこれッ!」
「ま、いつも部活でやってるみたいにやればいいんじゃないか?それより、これ撃っていいって事だよな……?」
「……うだうだ言ってても仕方ない。やるしかないだろ」
「切り替え早過ぎない?」
投げやりすぎるチュートリアルに文句をつけようとしたものの、橫の2人の切り替えが早すぎて気持ちが削がれてしまった。
「やるしかないのか……」
目の前の敵に向かって刀を構える。
中段の構え───攻守を兼ね備える最も基本的な構えだ。畫像検索してもらえばどんな構えかはわかってくれると思う。
スライムに剣先を向け、睨む。剣道において最も必要なのは何よりも目だとされている。目を離さず、敵のきを観察し……
ふと飛びかかってきたスライムを、レイジの振った刀が両斷する。
真っ二つになったスライムは散する──ことはなく、粒子になって消滅した。
「ふぅ……」
刀を一振りしただけなのに妙に張してしまった。実際に生を斬り殺すのは初めての事だから張して當然と言えば當然なのだが……
「ハッハー!やっぱりリボルバーはロマンだぜ!!!」
「スライム……もうしまとわりつく覚があるかと思ったが意外とツルツルなんだな…」
こいつらはなんだ?
ショージはまだ分かる。付き合いも長いし、あいつが生粋のガンマニアだということも知っている。ゲームだということが分かった上で、限りなく本に近い覚を味わえるこのゲームで銃を使えるとなればあれだけ興もするだろう。
だが、あの河口とかいう男はなんだ?
スライムを毆り殺したのか?その想が「スライムって意外とツルツルしてるんだな」だと?一──
「お前は、誰だ…?」
「え?」
「あぁいや、なんでもない」
口に出てしまっていた。
ショージが訝しんでいる、何とかして誤魔化して……
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺の名前は河口 一、カズって呼んでくれて構わない。よろしくな。」
どうやらその必要はなかったようだ。
「おう、急にごめんな。俺は山中 嶺士、こっちは俺の友達の進 祿。俺の事はレイジって呼んでくれ。」
「俺もショージって呼んでくれていいぞ、ショーロクって呼んだらぶん毆ってやるからな!」
「あ、ああ。よろしく。」
ショーロクのくだりの剣幕に押されたのか、若干引き気味に河口……いや、カズが答えた。
「てか、経験値はどうなってんだ?特に何も表示されてないけど……」
「チュートリアルで経験値つく方が珍しいだろ……」
『お答えしましょう。』
「「うわぁ!?」」
急に現れた解説AIに思わず腰を抜かしてしまう。
『本作ではR:EXP…Real Experience Pointを採用しております。』
「リアル……?普通のEXPと何が違うんだ?」
『敵を倒して手にれた経験値は數値的なではなく、プレイヤー自の脳及びに蓄積されていく経験となります。自ら考え、判斷し、そして戦う……そんな本作にふさわしいシステムです。』
「えーと、つまり……?」
「適當にレベル上げしてステータスの暴力で脳筋プレイするんじゃなく、実踐を積んだ経験を使ってしっかり考えながら戦う、ってことだよ。」
『河口さん、正解です。』
河口のわかりやすい解説のおかげで理解出來た。
つまりこれは、超リアル戦闘ゲームだ。
これは、思った以上に楽しいゲームになりそうだ……
そう武者震いする俺にも、銃をで回すショージにも、河口さえも気づかなかったのではないだろうか。
仮想世界が、壊れ始めていることに。
「このでどうやって戦えばいいんだろう……?」
私は金屬パーツの混じるを見つめながら戸っていた。
急にをサイボーグみたいにされた上に、急にスライム出されてはい戦ってくださいと言われてもどうすればいいのかさっぱり分からない。
ここのも苦戦してるみたいだけど……
ふと、ここのを見やると……
「むむ……」
難しい顔をしながら手を奇っ怪なじにかしていた。
なにこれかわいい。
じゃなくて、私たちだけ使う武が特殊すぎて戦い方が分からない。金屬の腕で毆れば倒せるのかな……?
そんな騒なことを考えている時、"それ"は語り出した。
『【質問】お困りでしょうか?』
「ひぁっ!?」
変な聲が出てしまった。さっきまでチュートリアルを話していた解説AIとは違う聲が、脳に語り掛けてきた。
「だ、誰!?」
『【解答】初めまして。貴を補助するAI、Ccです。お見知り置きを。』
「Cc……?何かの略?」
『【報告】私は今後の貴のあらゆる活を支えるAIです。兵裝の実裝、展開の説明をさせて頂きます。』
「え、Ccって何の略なの?ねえ?」
『【提案】それでは──試しにこちらの兵裝はいかがでしょう?』
Ccと名乗ったAIがそう言った次の瞬間、何やら機械的な音が響いた後に右腕が巨大な砲へと変化した。
「うわぁぁあ何これぇぇえ!?」
え、何これ。え、何これ!?
揺しすぎて思考が上手くまとまらない。何が起きてるんだこれ。腕が……私の腕が!
揺して腕をぶんぶん振っていると、銃聲のような音が聞こえてきた。
「え、何?」
銃聲がした方に目を向けると、スライムがいた場所に硝煙が上がり、粒子のようなものが舞っていた。
『【報告】目標、消滅。』
再びCcの聲が響くと、腕が元に戻った。
治った……のかな?腕を見つめながら拳を握ったり開いたりしてみる。大丈夫だ、多分。
そういえば、ここのはどうなったかな……?
視線を向けてみると、目を剝くような景があった。
「Brennendes Höllenfeuer, gib mir die Macht, alles zu Asche zu verbrennen…」
え、何語!?
怖い怖い怖い、ここの何言ってんの!?
『【解答】魔法詠唱です。ちなみに彼が唱えているのは炎魔法です。訳すと燃えたぎる獄炎─』
「分かった、もういい!何も言わないで!」
それ以上聞くと間違いなく頭がおかしくなる。というか、仕様上仕方ないとはいえ、ここのがそんな廚二文章を長々読みあげてるのとか聞きたくなさすぎる。
しかも、ここのの目の前にとんでもない大きさの魔法陣が現れているではないか。
ここのが対峙しているスライムの何倍もあろうかという大きさ。なんだこれ、完全にオーバーキルじゃないの!?
「──はぁっ!」
ここのがんだ次の瞬間、離れていても伝わるほどのとてつもない熱に襲われる。
凄まじい炎がスライムを取り囲み、消滅させた。いつもなら上がっているはずの粒子すら上がっていない。
「ふぅ……何とか倒せましたね。」
いや、なんとかって言うか完全にオーバーキルだと思うけど……
そう聲をかけようとした瞬間。
景が、砕けた。
「えっ?」
地面だけではない。雲も、空も、太さえも砕け、巨大な裂け目が現れていた。
「何、これ───」
続く言葉は、死にゆく世界の悲鳴に呑まれた。
「吾蔵研究員、一どうなってるんですか!?」
「私にも分からん!明見、ゲームの狀況はどうなってる!?」
「プレイヤーの反応がなくなりました!修正もまるで追いつきません、このままでは…」
研究所は大変な騒ぎになっていた。
その場に居合わせた研究員たちが総出で作業に取り掛かるも、まるで効果がなかった。
「DIE:VER」は完全に誤作を起こしている。吾蔵の顔には珍しく焦りのが浮かんでいた。
「諸君……我々は失敗した。」
吾蔵研究員が、重々しく告げる。
「世界は──まもなく、"天壌無窮の狩人"の世界と融合する。」
 続く
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