《とろけるような、キスをして。》新たな選択肢(1)
宣言通り、先生は焼屋さんに連れて行ってくれた。
「みゃーこは飲んでいいからね」
メニューを開きながら何を頼もうか見ていると、先生にアルコールメニューを渡された。
「え、いいよ。先生飲まないのに私だけなんて」
そのまま先生の車で來たため、先生は飲めない。
「俺のことは気にしなくていいから」
「でも……」
私一人で飲むのは、やっぱり気が引ける。
「……実は俺さ、あんまり酒飲めないの」
「え?そうなの?意外」
酒豪とまではいかないけれど、お酒強そうな顔してるのに。
「弱いのにたくさん飲んじゃって、酔っ払って記憶無くして皆に迷かけるから、今職場から酒止令出されてんのさ」
「……一何やらかしたら止令出されんのよ」
「……ははは、それは俺も聞きたいくらい」
だから、俺はいいの。みゃーこにまで迷かけるわけにいかないから、と。
どこまでが本當の話かはわからないけれど、先生がそこまで言うなら、とハイボールを注文。
好きなおをいくつか頼んで、先生も自分の好きなものを頼んで。
すぐに運ばれてきた私のハイボールと先生の烏龍茶。
ジョッキを合わせて、乾杯した。
「みゃーこって意外と酒強いタイプ?」
「んーん。そんなに。でもお酒は好き。こういう居酒屋の空気も好き」
「わかる。俺もこの空気好き。おかわり好きなの飲んでいいからね」
「うん。ありがとう」
先生は本當に嬉しそうに笑う。もしかしたら先生は、誰かがお酒を飲んでいるところを見るのが好きなのかもしれない。
おが運ばれてきて、二人で網に乗せる。
おのがだんだん変わるのを見つめていると、先生が口を開いた。
「そういえば、こっちに帰ってくるんなら、仕事はどうする?」
「……それも、探さないとなって思ってる。だからどっちにしてもすぐに帰ってくるのは無理かなぁ」
東京での仕事を辭めるのは簡単だ。事務職だから私の代わりなんていくらでもいるし、辭めたいって言えばすぐに辭めさせてくれると思う。
でも、さすがに無職狀態でこっちに帰ってくるのはリスクが大き過ぎた。
転職サイトのアプリをいくつかインストールしようかと思って調べていると、先生はし悩んだ様子を見せる。
そして、何を思ったか驚きの言葉を口にした。
「……じゃあさ、うちで働けば?」
「……は?」
意味がわからなくて聞き返す。
「うちの學校で働けばいいじゃん」
「……え、いや、私教員免許持ってないし……」
高卒で就職したから、特別な資格は何も持っていない。
「ははっ、學校は教員だけが働いてるわけじゃないだろ」
「あ、それもそうか」
確かに言われてみれば。それもそうだ。
用務員さんもいるし、購買のおばちゃんもいる。
他には……えーっと。どんな仕事があったっけ?
「うちの學校事務の人が二人いるんだけど、そのうち一人がもうすぐ産休にるからって臨時で欠員募集かけるんだよ。まぁその人が戻ってくるまでの期間限定なんだけど。もしかしたらそのまま雇ってくれるって言うかもしれないし。
特別な資格も必要無いし。まぁ大卒じゃないってのはあるかもしれないけど、そこは俺がどうにかするから。みゃーこは事務職経験者だから多分採用されやすいと思うんだけど。
……どう?興味あるなら俺が話付けるけど」
學校事務。聞き慣れない言葉に即答はできなかったものの、ありがたい提案だった。
「……どんなお仕事か、とか。學校事務って言われてもパッと出てこないから、一度詳しく話は聞いてみたいかも」
業種も明らかに違うし、本當に今までのスキルが役に立つのかし不安は殘る。
「わかった。それもそうだな。じゃあちょっと教頭にそういう仕事の説明も兼ねて面接出來ないか聞いてみる」
「……いいの?」
「もちろん。俺もみゃーこがうちで働いてくれるならこの上なく嬉しいし。だから俺に任せて」
「ありがとう。先生」
とんとん拍子で次の仕事の案が出て、この街に帰ってくるのがまた一つ、現実的になってきた。
履歴書と職務経歴書を用意しないと。ああいうのは書くのが苦手だから時間をかけてやろう。
明日の帰りに買いに行こうか。
先生に言うと、「じゃあ明日は買い行くか」と當たり前のように付き合ってくれることになった。
「そんなつもりで言ったんじゃないのに」
「言っただろ?俺がみゃーこともっと話したいんだって」
「……明日も?」
「明日も。本當は明後日もその次も。ずーっと」
優しい表に見つめられて、私が照れてしまって先に目を逸らした。
面白そうに笑う先生。
やっぱり先生は私をからかって遊んでいるようだ。元生徒を弄ぶなんて、なんて厄介な教師だろう。
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