《とろけるような、キスをして。》新たな環境(4)

私も帰ろう。

そう思って戸締りをして、職員室に鍵を返しに行く。

「失禮しまーす……」

時刻は十九時。まだ部活はやっている時間だ。

電気は付いているものの職員室には誰もおらず、私はキーボックスに鍵をれて部屋を出る。

廊下では、吹奏楽部の力強い楽の音が響いていた。

きっと晴姉ちゃんも頑張っていることだろう。

玄関に向けて歩いていると、「あ、野々村さん!」と聲をかけられて後ろを振り向く。

「田宮教頭」

後ろから小走りで私を追いかけてきたのは教頭先生だった。

「ダメですよ。走らないでって言われてたじゃないですか」

教頭先生は先日ぎっくり腰になってしまい、三日ほど仕事を休んでいた。しかし土日を挾んでも予後がどうもよくないらしく、あまりいたり負擔をかけないようにとお醫者さんに言われたらしい。

「いや、ちょうど野々村さんが見えたからつい……」

「もう、気を付けてくださいね。……それより、私に何かご用でしたか?」

「そうそう。ちょっと、頼みたいことがあって。定時過ぎたのに申し訳ない」

「それは全然。なんでしょう?」

急いで帰ったって用事も無いし、教頭先生の負擔を減らさないと、この人多分無理しそうだし。

そう思って二つ返事で了承すると、鍵を一つ渡される。

「悪いんだけど、舊校舎にある図書室から今年度の行事のDVDを持ってきてしいんだよ」

「行事……ですか?」

「そう。來年度の行事について明日職員會議があるんだけど、そこで使うのに持ってくるのをすっかり忘れてて……」

「わかりました。探して職員室にお持ちしますね」

「助かるよ。ありがとう」

教頭先生を職員室に戻るように促し、け取った鍵を持って廊下を進む。

舊校舎の図書室には就職してから忙しくて行けておらず、久し振りに足を踏みれた。

前回來た時と変わらない空気に、何故だかホッとする。

相変わらずここは滅多に使われていない様子。

そんな図書室の奧、鍵がかかっている學校に関わる資料が置かれているスペースにる。

ここは昔、修斗さんが開けていたのをちらっと見させてもらったから大の配置はなんとなく覚えている。

「……確かDVDはこの奧に……あ、あった」

年度ごとに各行事のDVDが並べられている。

育祭に文化祭。後夜祭で行う花火大會の映像まで収録されているようだ。

一年生の宿泊研修に二年生の修學旅行。短期留學の映像まである。

今年度のものを左手に重ねるように持ち、他の棚も見渡す。

「……七年前……七年前……あ、これだ」

私が通っていた頃の年度のものもあった。

文化祭や育祭など、同じようなラベルがってある。

手に取って意味も無く裏返す。ディスクの反が目に眩しいだけだ。

それを元に戻そうと手をばすと、

「あれ?みゃーこ?」

修斗さんの聲が聞こえて、パッとドアの方を向いた。

「しゅ……深山先生」

思わず修斗さんと呼びそうになり、慌てて呼び直す。

「今俺以外誰もいないし、修斗でいいよ」

そう言われてしまうと、頷くしかない。

修斗さんは二人きりだからか、そもそも私を"野々村さん"と呼ぶつもりは無さそうだ。

「……うん。どうしたの?こんな時間にこんなところで」

「それはこっちの臺詞。なんか電気付いてるから誰かいるのかなって思って見に來たんだけど。どうかした?もう定時過ぎただろ」

部活は終わったのだろうか。いつものスーツ姿でドアにもたれかかるように立っている姿はとても様になっていてかっこいい。

まさかこんな時間にここで會うなんて思っていなかったから、驚いてしまった。

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