《とろけるような、キスをして。》新たな環境(5)

「……田宮教頭にこれ持ってくるように頼まれて」

手に持つ山を見せると、

「あぁ、明日の會議で使うからか」

と合點がった様子。

「職員室?手伝うよ」

近付いてきて手をばす姿に、首を振る。

「いいよ、別に重くないし」

「いいから。せっかく會えたんだし。もうちょっと一緒にいたいじゃん」

「……もう、そういうこと學校で言わないで。バレたらどうすんの」

「俺は全然バレてもオッケー。むしろ堂々とみゃーこといれるならウェルカムだけど」

そんなセリフを笑顔で言われたら、こっちが恥ずかしくなるよ。

視線を落とすように下を向いて赤面していると、修斗さんは何を思ったか私と距離を詰めて、顎に手をばす。

するりとでられて、顔を上に向かされたかと思えば至近距離で見つめられて鼓が早まる。

親指で私のを數回でて、もう片方の手で私の目にかかりそうな髪のを後ろに流す。

「ちょっ……と、ここ學校だってば……」

距離を取ろうと手をばすけど、

「なに?まだ俺何もしてないけど?」

と戯けたように首を傾げる姿に、グッと聲を詰まらせた。

「みゃーこは何されると思ったの?」

「なにって……」

「みゃーこは、俺に何してしい?」

その妖艶な笑みはまるでベッドの上で私を押し倒しているかのようで、わった視線が甘くて熱い。

そのまま下から掬い上げるように、れるだけのキスをする。

流れるようなそのきに私は息を呑んだ。

「こんなに顔真っ赤にして。俺のことってる?」

「ちがっ」

なんてことを言うんだ。

修斗さんの肩を押してどうにか離れると、目の前でクスクスと嬉しそうに笑い始める。

「ごめん。やりすぎた。ちょっとみゃーこ不足だったから會えて嬉しくて」

「……その言い方はずるい」

そんなことを言われたら。

早く職員室に行かないといけないのに。

「……修斗さん」

「ん?」

「……ちょっと充電させて」

その腕の中に、飛び込んでしまいたくなる。

ぎゅっと抱き著くと、修斗さんは驚きながらも反的に私をけ止めてくれた。

「え、なにそれ、可い。やば。可い。え、やっぱり俺われてる?」

「……うるさい。ちょっと黙って」

「……はい」

まともに會えなくて寂しかったのは私も同じだ。

いつもは修斗さんから抱きしめてくることが多いけど、今日は私から。

甘い香りと大きな腕に包まれて、なんだか仕事の疲れが取れるようだ。

しばらく無言で、お互いの鼓の高鳴りを聞きながら抱きしめ合っていた。

私の背中をトントンとする手に、無に安心した。

夕焼けはすでに地平線に向かい、窓の向こうは闇に向かってどんどん黒に塗りつぶされていく。

修斗さんの後ろに見える窓には、抱き合う私たちのシルエットがぼんやりと寫っていた。

「……そろそろ、行かないと」

「……ん。わかった」

そっと離してくれた修斗さん。私と同じで名殘惜しそうだけれど、なんだか嬉しそう。

「みゃーこはこれ運び終わったらもう帰るの?」

「うん。修斗さんは?」

「俺ももう終わり。一緒に帰ろ」

頷いて、一緒にDVDを職員室に持っていく。

「あぁ、野々村さんありがとう。助かりました。深山先生も手伝ってくれたんですね。ありがとう」

「いえ。偶然舊校舎で會ったので。教頭も病み上がりなんですから、今日はもうお帰りになったほうがいいですよ」

「そうですね。野々村さんも引き止めてすみませんでした。お疲れ様です」

「私は大丈夫ですから気にしないでください。お先に失禮します。お疲れ様です」

修斗さんと二人並んで教頭先生に頭を下げる。

校舎を出て、裏手にある職員用の駐車場で久しぶりの修斗さんの車に乗り込んだ。

「みゃーこと帰れるなら、歩きでも良かったかも」

「確かに。そうかもね」

シートベルトをして、他無い話をしながら私の家へ。

「そういえば、なんで舊校舎にいたの?」

「ん?あぁ、部活終わって帰ろうと思ってたら部活で使ってた教室に忘れしたの思い出して。取りに戻ってた」

「そうだったんだ。……修斗さんって結局何部の顧問なの?」

「俺?俺は一応調理部の顧問だけど」

「え、調理部!?」

予想外の答えに、聲が大きくなる。

修斗さんはケラケラと笑った。

「皆同じ驚き方するんだよ。そんなに俺に調理部って似合わないかなあー?」

「似合わないって言うか、意外だっただけ」

「そう?」

「うん。修斗さんはバリバリスポーツやってるイメージだったから」

確か運神経は昔から良かったはず。育祭で走らされてるの見た時、すごく早かった記憶がある。

「ははっ、よく言われる。けど俺そんなにスポーツ得意じゃないよ?短距離がちょっと得意だっただけ。學生時代もずっと帰宅部だったし」

「え、そうなの?」

サッカーとか、バスケとか、それこそ陸上とか。そういうのが似合いそうなものなのに。

「まぁ、どっちにしても休み無くなる顧問は嫌だったし、でも何も顧問してないとさすがに上からの圧がすごくて居づらくなってきて。そんな時に生徒に暇なら顧問やってくれって調理部われて、二つ返事で承諾したってわけ」

「へぇ……」

「まぁ、活は週に三回だし、俺のやることと言えば家庭科室の鍵の管理と火の元のチェックくらい。後は味見要員だから、何の問題も無いよ」

なんだ。修斗さんが料理するわけじゃないのか。

修斗さんがエプロン姿で料理しているところをし想像してしまって、また口元が緩む。

……でも、そっか。調理部ってことは、の子ばっかりだよね?

「……それって、修斗さんにって作って渡す子もいるんじゃない?」

「いや?どうだろう。確かにクッキーとかなら"いつものお禮"とか言ってたまにもらうけど」

「……」

……それは、お禮を口実に手作りお菓子を渡しているのではないのだろうか。

修斗さん、昔からモテるから。

一度そう考えてしまうと、そうとしか思えなくて心の中をモヤモヤが埋め盡くす。

しかし、そんな私を見かねたのか修斗さんはフッと笑った。

「どうした?……もしかして、妬いてる?」

認めるのが悔しくて、聲は出さずに頷いた。

「やば。かわいいっ……」

「ちょっと!ちゃんと前見て!」

「いや今のはみゃーこが悪い。可すぎる」

「……」

デレデレしながらこっち向かないで運転に集中していただきたい。

まさかヤキモチ妬いて、こんなに喜んでくれるとは思わなかったけど。

「……私もクッキー作るね」

子どもみたいに対抗心を燃やして、そんなことを言ってみる。

「え?マジ?やった!楽しみにしてる!」

そのたった一言だけで、心の中のモヤモヤがどこかに消えていくから我ながら単純だ。

「うん。焦げてもちゃんと食べてね」

「もちろん。みゃーこが作ってくれたものなら俺なんでも食べられるから」

「……バカ」

でも、その気持ちが嬉しい。

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