《とろけるような、キスをして。》旅行(1)

*****

迎えた週末。

私は修斗さんの車に乗り込み、カーナビから流れる音楽を聴きながら窓の外を見つめていた。

「チェックインまで時間あるから、途中でどこか寄って行くか」

「うん。あ、私ここに行きたいなって思ってたの」

「え、どこ?」

「うんとね、───」

信號待ちのタイミングで修斗さんにスマートフォンの畫面を見せる。

今日はドライブがてら、地元から車で四時間ほどの場所にある溫泉地に行くことになった。

なかなかの距離だが、泉質がとても良いらしく修斗さんが一度行ってみたかったと言っていた。

今の季節限定で、夜になるとイベントが開かれるらしく、"みゃーこと一緒に行ってみたくて。どう?"と提案されて、すぐに頷いた。

大分寒くなるから、と防寒対策はバッチリだ。

修斗さんの膝には私があげたマフラーがかけてあって、私の耳には先日もらったピアスが揺れている。

「お、いいじゃん。行こ行こ」

途中にアフタヌーンティーが楽しめるお灑落なカフェがあるらしく、千代田さんにオススメしてもらっていた。

「その店までナビお願いしていい?」

「うん。まかせて」

マップのアプリを開いて、し道を間違えながらも案すること一時間。お店に著いた私たちは、お目當てのアフタヌーンティーセットを二人分注文。

三段重ねのティースタンドが運ばれてきて、その一段目にはマカロンやティラミス、二段目にはふわふわのパンケーキ、三段目に軽食のサンドウィッチが乗っていた。

私はセイロンティーを、修斗さんはこのカフェ特製のブレンドコーヒーをそれぞれ注文して、味わいながらゆっくり食べた。

「うまっ。さすが千代田さんオススメ。お灑落な店知ってるねー。俺じゃこんな店は絶対に見つけられない」

「ふふ、千代田さんスイーツ好きみたいで、子ども産む前はよく遠出していろんなところ食べてたんだって」

「なるほどねー、その時にここも知ったってわけか」

「うん。あとは今SNSで流行ってるらしいよ」

「うわー、そういうこと?俺はもうそういう若者の文化には著いていけないよ。時代に取り殘されたわ」

若者って……。まぁ確かに、高校生を日々相手にしているとそう思うのはわかるけど。

「修斗さんはSNSやってないの?」

「うん。生徒が変な投稿してないか稀に監視するためにアカウントは持ってるけど」

「……何それ怖っ」

最近は學生が面白半分で投稿して、それが一歩間違えれば犯罪になりそうなものだったり実際に問題になったりするものも多いと聞く。

「教師ってそんなこともしてるんだね」

「他の學校はどうか知らないけどね。ま、俺も滅多に見ないけど。生徒のSNSとか見たくないし」

「そうなの?」

「俺の悪口とか書いてあったらなんか嫌じゃん」

まさかの理由に笑いそうになる。

「修斗さんの悪口言う子なんている?」

「んー……、嫌われていないっていう自信はあるから多分大丈夫だと思うけど。それに生徒たちも教師に監視されてるって知ったら気分悪いだろうしね」

そんな話をしながら食べ進め、お腹いっぱいになったところでお店を出た。

その後も溫泉地に著くまでの道中、気になるところを見つけるたびにそこに向かい、味しそうなものを食べたり雑貨屋さんを見たり。

道の駅でシフォンケーキの出店があり、焼き立てのショコラシフォンを一つ買ったり。

「さっきあれだけ甘いもん食ったのに」

「うん。でも味しそうだったから。ふわふわだし」

「確かに味そう」

「後で一緒に食べよ」

「晩飯食った後で胃にる余地があればな」

呆れたように言うけれど、當たり前のように私に財布を出させるつもりはないらしく、シフォンも素早く買ってくれた。

「はい。これも」

「え?」

「サービスのはちみつジンジャーだって。外寒いし、ちょうどいいからみゃーこにあげる。これ飲んであったまって」

「修斗さんは?」

「俺は大丈夫。ほら」

「ありがとう」

け取った紙コップからは甘い香りと一緒に湯気がふわりと漂っている。

ふー、と息を吹いて覚ましながら一口飲むと、らかな甘さが口いっぱいに広がった。

修斗さんは大丈夫と言っていたけれど、私の右手と繋がるその左手はひんやりしている。

「修斗さん。一口あげる。味しいよ?」

「いいの?」

「うん。一緒に飲みたい」

「ありがと」

やっぱり強がりだったのか、し寒かったようで。

「はぁー……、あったまる。味い」

と微笑んでいた。

「そろそろ宿に向かうか」

「うん。運転疲れてるのに、ごめんねいろんなところ寄っちゃって」

「ん?いいよ。俺も見たかったし。よし、行こ」

絡められた指にまだ慣れなくて、それだけで赤面してしまいそうだった。

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