翌朝、ギルドの空き部屋で目を覚ましたソフィは、

昨日の食事を思い出し、大変機嫌がよかった。

「うむ、ここは素晴らしい所だ、人間の町にきて大正解であった。」

ソフィは自分が魔王であることも忘れて、

人間の町の歓待に満足をするのだった。

「さて、アウルベアを呼び出してみるか。」

そういってギルドの部屋の中で、靜かに瞑想をはじめ、

遠く離れた森にいる、アウルベアに聲をかけるのだった。

（おい、聞こえるかアウルベアよ。）

ソフィがアウルベアに聲をかけると、即座に返答があった。

（ソフィ殿！　聞こえますが、どこにおられるのでしょうか。）

アウルベアは森の中で辺りを見回すが、ソフィの姿はない。

（うむ、我は今人間の町の中からお主に、

念話テレパシーで話をしておる、聞こえるのであれば問題はない。）

（そ、そのような事まで出來になるのですね、流石はソフィ殿です！）

（ところでだな、すまぬがお主に森のり口まできてもらいたいのだ。）

（森のり口ですか？　しかし森の近くには人間たちの町がありますので、

私が姿を見せると、彼らを怯えさせてしまうのですが。）

どうやらアウルベア自は、縄張りにってこない限り、

自分からは人間を襲うような真似はしないようだった。

（それは大丈夫だ。それよりもお主、

昨夜人間の町のギルドという所の長と話したのだが、

お主はこの町で懸賞金をかけられて、討伐対象になっているといっていたぞ。）

（………どうやらそのようですね。

私自が人間の町で暴れたことはないのですが、

森にってきた人間が、私たちに攻撃を仕掛けてきたので、

追い返す為に、攻撃をしたことはあります。）

アウルベアの話を聞いていると、今回に関して言えば、

悪いのは人間ではないかと、ソフィは思うのだった。

（そうだったのか、まぁよい。

お前が今後人間を襲わないと、約束させれば、懸賞金を取り下げて、

お前たちを狙わないようにすると約束させたのだ。）

（お前はもう知らぬ仲ではない。我がお主に與えたメダルは、

我が特別認めた者にしか渡さないでな、お主はもう我の仲間だ。

お主が脅威に曬されるようなことがあれば、

我がその脅威を、取り払おうと思っておる。）

しの沈黙の後、アウルベアは歓喜に震える聲を隠すような聲で、

ゆっくりと謝の言葉を出した。

（………ありがとうございます、ソフィ殿。）

（それで、森のり口には來れるだろうか？

出來ればお主の口から、証言してもらえると助かるのだが。）

（わかりましたソフィ殿、

ではソフィ殿が來るタイミングで、私も向かいましょう。）

（ああ、頼んだぞ。）

そこで念話テレパシーを切り、ディラックの元へ向かうのであった。

話し合った結果、森へ向かうメンバーは、ギルドマスターのディラックと、

そのディラックを護衛する者が三人。

そして昨日のギルドの付が　呼びに行った時に、

連れてこられたギルドの職員、更にはソフィの計六人である。

視線をじたソフィは、護衛のほうを見ると、

どうやら何か言いたそうにしている者がいた。

「ん？我の顔に何かついているか？」

ソフィがそういうと、護衛の者が口を開いた。

『………いや、君のような子供にしか見えない者が、

本當にアウルベアを説得できるのかと思いましてね。』

『おい。』

ディラックが護衛の男に注意するような低い聲をあげた。

「構わぬ。我は見た目がこのような姿だしな、仕方の無い事だ。」

直接ジャックがやられる所を見ていない護衛の者たちは、

話だけではソフィの力量を推し量れず、

自分たちの街のギルドが総力を挙げても、

退治出來なかったアウルベアの説得など、信用できなくても當然といえた。

――護衛の男は三人。

刀を腰に帯刀している者が【ディーダ：冒険者ランクD】、

槍を擔いでいる細みの男が、【ルドマン：冒険者ランクD】、

そして先程、ソフィと會話をしていた杖を持った男が、

【ニーア：冒険者ランクC】。

三人ともグランの町のギルドでは、五本の指にる冒険者で、

ギルドマスターの護衛を任される程のベテランである。

そんなベテランの冒険者たちは、昨日冒険者ギルドに登録したての新人、

ましてや見た目は十歳程の子供である年が、

それほどまでに強いと聞かされても、完全には信用できなかったのである。

――だが。

「ふむ、お前は魔法使いだな？」

杖を持っているニーアに問いかけると、ニーアは頷きを返す。

「ならば、相手の魔力を測る事くらいは出來るだろう？

しだけ、ほんのしだけだが、魔力を開放するから探ってみよ。」

確かに魔法使いは相手の魔力値を測る魔法を使うことができるが、

それは相手の魔力を測るだけである。

『確か君は魔法ではなく、戦士の部類だと聞いていたのだけど？』

「違うな。我が得意とするのは理ではなく、魔・法・だ。」

――直後、

ある程度の力の持ち主ならばじることができる、

力の余波のようなものを三人はじた。

中でも魔力を測るように言われたニーアは、

ソフィを信じられないものを見る目で見た後、

あわてて目を逸らして、歯をガチガチと鳴らし始めた。

『な……！』

【魔力値999/999】

「ふむ、どうやら魔力は見えたか？

普段は隠蔽しているのだが、特別に見せてやった。」

そういってソフィは息を吐くと、

重苦しい重圧は、辺りからじられなくなった。

「お主がもうし上位の魔法使いならば、

我の魔力値だけではなく、その上の戦力値まで測れたのだがな。」

ニーアは目の前の年を、規格外の化けだと認識を改めた。

（昨日登録したばかりの新人？　Eランク冒険者三人を倒した？

違う………！そんな話のレベルじゃない！

【魔力値999】など聞いたことがない。

そんなものBランクはおろか、Aランクでも聞いたことがない。

それに相手の戦闘値を測るといったか？　それは失われた源魔法だ………。

そんな魔法を知識として知っているだけでも、何人もいないぞ。）

ディラックはニーアの様子を見て驚きを隠しきれなかった。

ここにいるニーアは、魔法使いとしても優秀で、

冒険者ランクもたった數年で、Cまで登りつめた、

れっきとしたギルドのエースである。

そんな彼がソフィを見て震えだしたのだから、

ソフィの力を認めざるを得なかった。

他の護衛たちも尋常じゃない様子のニーアに、ゴクリと唾を飲み込んでいた。

そうしているうちに、街の出口まで到著し、

もうすぐ森が見えるというところまできた六人は立ち止まる。

「よし、それじゃあアウルベアを呼ぶぞ。」

ソフィがそういうと同時に森の方から、ガサガサという音が聞こえて、

森から數十を越える、アウルベアが出現した。

『む！』

慌てて戦闘態勢をとる護衛とディラック。

ギルドの職員は、慌てて護衛の背後に周る。

『ソフィ殿！』

そんなアウルベアの群れの中、

一際大きな熊が、ソフィに近づいてくる。

「おお、來てくれたか。こいつらがお前の言っていた仲間か。」

『ええ、ソフィ殿の事を話したら皆ついてきたいと申しまして、

私の同胞の者たちです。』

『『グォオオオッ！』』

魔王のメダルを持っていない、他のアウルベアは言葉が通じないが、

全員が歓迎しているような、そういった態度なのは見て取れるのだった。

「うむ、よく來てくれたな。」

そういってアウルベア一頭一頭に、聲をかけていくソフィに、

アウルベアたちが、しゃがみ込みながら、頭を差し出す。

どうやらってもらいたいのだろうということを、

理解したソフィは、頭をでてまわる。

『グオオオッ！』

嬉しそうな咆哮をあげるアウルベアに、

ディラックたちは、開いた口が塞がらない。

ギルド指定の兇悪魔モンスターたちが、

揃ってソフィに頭を垂れて、られて喜んでいるのである。

改めてソフィという存在を敵に回してはいけないなと、

ディラックたちは、自覚していったのだった。

そしてメダルを持ったアウルベアが、

ギルドマスターのディラックと今後について話をした後、

約束通りギルド指定の討伐依頼を外して、懸賞金も撤廃された。

今後は森に立ちり、勝手を働いた人間が出た場合、

逆にギルドから、目を付けられるようになったのだった。

「うむ、これでもうお前たちは、

討伐されるようなことはなくなるはずだ、よかったな。」

そういうとメダルを持ったアウルベアが大きく頷き、

そしてこんなことを言ったのだった。

『ソフィ殿お願いがあるのですが、聞いてもらえますか。』

突然畏まって話すアウルベアにソフィはもちろんだと頷く。

『我々アウルベアは貴方を主と認めております、

どうか我々をソフィ様の配下に、加えさせてもらえないでしょうか。』

「ふむ？」

驚いているのはソフィだけではなく、

ディラックやギルド職員たちも、呆然とソフィたちを見ていた。

『ソフィ殿が脅威が迫れば払いに行くという

言葉を仰っていただいたとき、私はが震えました。

この方なら私たちを助けてくれる。

そしてこの方になら、私たちは命を賭けられると！』

メダルを持ったアウルベアが饒舌にしゃべると、

他の同胞たちも伝わったのか、口々にうなり聲をあげる。

『グオオオッ！！』

同胞のアウルベアたちは、そうだそうだと言わんばかりに聲を張り上げる。

ソフィは熱を持ったアウルベアたちの咆哮を一にける。

「そうか、お前たちの気持ちは分かった。ならば我の軍門に下るがよい。」

ソフィがそういうとメダルを持つアウルベアが、

忠義を盡くすように跪くと、周りのアウルベア達も一斉に跪いていった。

ソフィは自分の仲間や配下は、決して裏切らない。

そしてそんなソフィを、アウルベアもまた死ぬまで支える事だろう。

契約のメダルは、この世界でも本來の目的を見失わずに、

その効果を全うすることができたのだった。