『君たち、待たせたな。』

ギルド掲示板の所に居たソフィたちを見つけたディラックは、

宿へ行こうと促した。

『それでディラックさん、

ギルド対抗戦の話をしていたのでしょう？　結果はどうなったのですか？』

宿に向かう途中でニーアが、ディラックに質問を投げかける。

『ああそれなんだが、二日後に各町のギルド長を集めて、

対抗戦の対戦相手を決める選會をするそうだ、

後は、し気になることがあってな。』

『気になる事？』

『ああ………。今回の対抗戦に、

王國の貴族を呼んでみないかとｌ提案されたのだ。』

ギルド対抗戦はミールガルド大陸中に存在する、

冒険者ギルドを集めて対抗戦が行われるので、

今までも娯楽目的のミールガルドの貴族や、

王國から軍がスカウト目的で何人か來ていた筈である。

しかしそれらはあくまで個人的に見に來ている訳で、

今回サシスのギルド長に提案されたのはギルドから國賓的な扱いで、

と・あ・る・貴・族・を指名しようと言ってきたのだった。

しかし、このミールガルド大陸には、

【ルードリヒ王國】と、【ケビン王國】の二つの國がある。

ケビンとルードリヒのどちらのギルドが優勝しても、

負けたほうの國にとっては心証が悪い。

娯楽とはいっても勝負は勝負である。

自分たちの領土のギルドが負けた場合に、

外的な影響が出ないとも言えないのだ。

『それは……大変なことになりましたね。』

ニーアの言葉にディラックは、

苦蟲を噛み潰したかのように頷いた。

『互いの國の貴族が顔を合わせて自國のギルドを応援するのだ、

その場に各々の街のギルド長も同席するのだから、

今から想像するだけで胃が痛くなる。』

『斷りたい所だったが、この街のギルド長の提案は、

ほとんど決定のようなものだからな。』

対抗戦自この町で行われるというのに毎回決勝まで勝ち進み、

現役の冒険者で”最強”と呼び聲高い、

勲章ランクAのリディアが代表のサシスのギルドの発言力には、

逆らえないものがあるようであった。

「ちなみにグランの町はどちらの國の領土なのだ？」

『む、グランに住んでいて知らないのかソフィ君、

我々グランの町は、【ケビン】王國領土のギルドだぞ。』

知らないのかと言われても、

一か月前まで別の世界に居たソフィなのだから、無理も無い事であった。

『ふむ、そういえばソフィ君は、最近ギルドに所屬したんだったな。』

ニーアは両王國の領土、主にラクール地域と、

セス地域にあるギルド町を教えてくれた。

『ケビン王國はミールガルド大陸の西側にある王國で、

ギルドのある町は全部で十六ある。

その中で南東の端、一番辺境にあるのが我々【グラン】だ。

そしてこの前いった港町コーダの町を東に進んだ所にあるのが、

【ステンシア】の町で、ケビン王國では一番冒険者の數が多い所だな。

次にステンシアからし北上した所にある町が【ニビシア】の町、

ここには僕たち魔法使いの冒険者が多くいる町で、

そこそこ決勝リーグに進んでいるね。

そしてさらにニビシアから北東へ進んだ所にあるのが【ローランド】、

ケビン王國では五本の指にる戦士【マ・ケ・ド・】がいる。

そしてここ【サシス】、ケビン王國の中で一番優勝経験が多いギルドで、

その強さのに數年前から所屬している大陸最強の剣士、

【リディア】の存在が大きいんだ。』

どうやらケビン王國十五の町で、

最も戦力値の高そうな冒険者が集まる町のギルドが、

【ローランド】と【サシス】らしい。

「ほう？我としてはニビシアの魔法使いが、

どういった者たちなのか見てみたいがな。」

魔法を極めたといっていい程、練度を積んでいるソフィにとって、

この世界の上位の魔法使いと戦ってみたいと思うのだった。

『そして北方の海から縦に割るように流れている、

【スノービカ川】を挾んで、東側が【ルードリヒ】王國の領地になる。』

川を挾んで西と東で領地が分かれているとは、

わかりやすいとソフィは思ったのだった。

『ルードリヒ王國の抱えるギルドがある町は十七、

冒険者自が多い印象なんだけど、

毎回対抗戦で勝ち上がってくるギルドは、毎回固定に近いんだ。』

ソフィは、ニーアの言葉に耳を傾ける。

『スノービカ川から一番近いギルドのある町が【クッケ】。

ミールガルド大陸で一番商人が多く所屬する商人ギルド、

【ヴェルサード】の本部がある町で、しいものがあれば、

ここにいけば揃うと言われるほどの商人の町だ。

もちろん冒険者ギルドもあるが、そこまで強い人はいない印象かな。

そしてクッケの東に大きな山々があるんだけど、

ここを越えた先に【リルバーグ】がある。

このリルバーグには勲章ランクAの、

【ス・イ・レ・ン・】さんが所屬するギルドがあるんだ。』

隣で話を聞いているリーネが一瞬をビクッと震わせたが、

一瞬だったので、誰も気づかなかった。

『スイレンさんは近年冒険者ギルドを引退するという噂があって、

どうやら今回が最後の出場だって噂らしいよ。』

「ほう、冒険者ランクAまできて辭めるというのは……。

もったいないと思ってしまうが、中々の年齢なのか？」

『いや、まだスイレンさんは僕よりし上で、

二十代半ばくらいかな、どうやら引退する理由は、

ルードリヒ王國の軍にスカウトされたからだそうなんだけど、

噂だから本當かはわからない。』

（勲章ランクAまで登りつめれば金銭的には安泰だろうと思うが、

金ではなく、國心というものなのかもしれないな。）

ソフィはふと勇者に攻められた時に言われた、

圧政という言葉が一瞬よぎったが、ニーアの言葉に現実に戻される。

『ルードリヒでは、だいたいこのリルバーグの町が、

決勝まで來るんだけど、スイレンさんが出てくる前までは、

そのお隣の町、【レルドール】のギルドが決勝に來ていたね。

ここも昔は強かったけど年々ギルドから冒険者が減って、

レルドール出の若い冒険者以外は、皆スイレンさんに憧れて、

リルバーグのギルドに移籍したそうだよ。』

「スイレンとやらは、相當なカリスマをめているのだな。」

ソフィがスイレンの話をすると、ニーアは食い気味に話し出す。

『そうなんだよ！スイレンさんは珍しい技を使う……忍び？

という職業で、影をって敵を攻撃したり、

火や水を出したり、相手の心理をついた攻撃などが得意で、

気が付けば敵が倒れているのだよ。』

先程からリーネが何かに耐えるように俯いているが、

ソフィ以外には、誰も気づいていないようだった。

「………どうかしたのかリーネ？」

ソフィがリーネに聲をかけると、慌てて顔をあげる。

『え？　べ、別になんでもないわ。

それより続きは、宿の食事を食べながらにしましょう？』

そういって強引に話を打ち切って、リーネは早足で歩き始めた。

ニーアもまたそんなリーネに、首を傾げるのだった。

そして話は宿についた後、食卓へと場所を移してからになるのだった。