『次の選手、リングへあがって。』

審判のコールをけて、リディアは靜かにリングに上がり始めた。

その様子を観客席やソフィたちがいる観戦室、

そして貴族たちのいる部屋と皆が注目するのだった。

『ついに來たね、彼がリディアだよソフィ君。』

ニーアが、興しながらリディアの名をあげた。

「ふむ、確かこの大陸で最強の剣士だったか？」

ソフィの言葉に大きく頷くニーア。

『そうなんだよ、彼が冒険者ランクAの中でも、

最強って言われている剣士だよ。』

（………そこまで強くは見えないがな、

まだ我には、リマルカのほうが強く見えるが。）

そう思ってモニター越しに、

リディアの魔力を探知して出サーチをかける。

【種族：人間　別：男　年齢：25歳

職業　剣士　魔力値？？？　戦力値？？？】

「………隠蔽だと？」

確かに出サーチは、相手の戦力値を測る魔法で便利ではあるが、

全く対策ができないわけでもなく、呪文に心得があるものならば、

者の力関係の差を含めて、対抗することも可能なのである。

もちろんソフィも隠蔽呪文を用いており、

例え相手に出サーチをされても相手に開示されることはない。

しかし、出サーチ自が人間の世界では、

失われし源魔法と言われる程珍しい魔法であり、

この世界では知識では魔法使いは知っている者もいるだろうが、

まさか一介の剣士がその出の対策魔法を、

に著けているとは思わなかった。

しかしソフィが驚いた理由は他にあった。

それは【出サーチ】で相手の値が測定不能と出る場合や、

今回のように？？？と表記される場合、

自の現在の魔力値では、相手の力を推し量れないという事と同義である。

それはつまり今の本來の數千、數萬分の一程の力しか出していない、

ソフィの戦力では、【リディア】に及んでいないという事である。

本來の力を出してはいないとはいっても、

グランの冒険者ギルドでは、誰も歯が立たなかった討伐ランクC指定のベアを、

あっさりと屠れるだけの力は有しているソフィである。

その事実にソフィはニヤリと笑みを浮かべて、

リディアとリマルカの試合に興味を持つのだった。

そして審判の合図で最終戦が開始された。

『行くぞ……。』

――上位魔法、【風衝撃ウィンド・インパクト】。

ミルリや、ウォルトと同じ対近距離戦の戦いを仕掛けるリマルカに対して、

リディアは微塵も慌てずに剣を鞘にれたまま構える。

そしてリマルカの風の魔法が一直線にリディアを襲い掛かるがその剎那、

恐ろしい速度で剣を抜いてそのまま襲いかかる風を、

斬・っ・た・。

理で魔法を斬ったのである。

「………何！？」

一番早く反応して驚いているのは、対戦相手であるリマルカではなく、

観戦室で見ていたソフィであった。

理で魔法を斬るといった蕓當は、

長く生きるソフィでも見たことはない。

『あれは東の小さな島國に伝わる伝統の抜刀剣、

居合というらしいよ。』

ニーアがその知識から説明をしてくれた。

「居合か………。

どの程度の魔法まで斬ることができるか気になるな。」

ソフィは自の魔法も斬られるのか、試してみたくなった。

『………それは分からないけど、彼を”現役最強の剣士”と、

言わしめているのは確かだよ。』

ソフィたちは視線をモニターに移して試合の続きを見る。

先程までのように、対近距離戦用の戦いパターンを、

作り上げてきたリマルカだが、【風衝撃ウィンド・インパクト】を斬られた後に、

間合いまでり込まれていた。

『………盾よ……ぐむッ。』

だが、詠唱なしの高速発の魔法ですら、

間に合わなかった。

――居合。

いつ斬ったのかすでにリマルカの間合いから離れて、

元にいた場所で、剣を鞘に戻すリディア。

そして背後を向いたと同時に、リマルカはその場に崩れ落ちた。

『勝者、リディア！』

今日一番の歓聲を挙げる観客に一瞥もせぬままにリディアは、

リングを降りるのだった。

『『つ、強い……。』』

ニーアとティーダが同時に聲をあげる。

リマルカは確かに対近距離戦のエキスパートだった、

そして彼が、一番得意とする相手である筈の剣士だったが、

リディアの前では手も足も出なかったのである。

（リマルカとやらは決して弱くはなかった。

我の見立てでも申し分はなかったが……、相手が悪かったな。）

「しかし、理で魔法を斬るか……クックック。」

珍しい戦い方をして見せたリディアに、ソフィはこの世界では、

初めてといっていい程の興味を見出したのだった。

（素晴らしいではないか、どこまでの魔法なら居合で斬れる？）

ソフィは歪んだ笑みを見せながら、抑えられないといった様子で、

迸る魔力のオーラを纏いながら、リディアを視る。

その場にいる誰もが、ソフィと力の差がありすぎる為に、

その魔力に気づく事はなかった。

そしてソフィのリディアに対する戦闘意は、

この時をもって増していくのだった。