ニーアを倒したトンプーカの最後の一人、

武道家トンシーは冒険者ランクBであり、トンプーカのギルドでは、

強者の証である二つ名、【烈拳れっけんのトンシー】と呼ばれている。

彼の得意とする高速の拳は、魔法使いや僧といった、

詠唱を必要とする職の冒険者を過去、

幾度となくなぎ倒してきており、対魔法使い戦では勝率100％である。

『君の前の試合を見させてもらった。

確かに魔法を使われると、勝ち目はなさそうだが、

俺は詠唱なんてさせない、その瞬間に君はそのまま倒れるだろうさ。』

トンシーはチッチッチと人差し指を左右にふって、

彼特有の空気を醸し出しながら、勝利宣言をしてくる。

（詠唱を必要とするような魔法を我が使うと、

この大陸が吹き飛ぶのだが……まぁ、黙っておくか。）

基本的にソフィが普段使う【超越魔法ちょうえつまほう】や【源魔法こんげんまほう】は、

ソフィにとっては詠唱を必要としない魔法なのだが、

現在のリラリオの世界の魔法使いでは『理』すら理解出來ず、

更には誰も魔力が足りずに、発すらできない魔法である。

『それでは試合開始！』

審判のコールと共に、試合が開始された。

『いっくぜぇ！』

トンシーは常人には見えない程の速度で、ソフィに薄していく。

確かに桁外れのスピードなのだが、ソフィの目にはそのきですら、

常人の徒歩程にしかじない。

『もらったぁッ！』

トンシーの後ろ廻し蹴りは、ソフィの頭部を狙って繰り出される。

魔法使いが距離を詰められて、接近戦を迫られた場合、

この世界の魔法使いでは、ほぼ勝ち目はない。

多くの者がトンシーの勝利を信じて疑わなかったが、

ソフィは、さらに信じられない行に出る。

なんとトンシーの後ろ廻し蹴りに、

右足の踵を合わせてトンシーのケリを防ぎ、

そのままを回して左足で相手の軸足を払う。

両足が宙に浮いた狀態のトンシーは、両手を使ってけを取りにいくが、

ソフィは次の攻撃のモーションにり、けを取るために手を床に、

置こうとしていた、トンシーの手を宙に浮いた狀態で足で挾み、

そのままけを取らせないために手を取る。

腕ひしぎ十字固めと呼ばれる技で、トンシーがけを取ろうとして、

腕をばしていたために、完全に関節が極まってしまった。

この制にられると、かけ手側のソフィといかに格差があろうとも、

抜け出すことは不可能で、下手にもがいたりして外そうとすれば、

そのまま腕が折れて、二度と武道家としての道を進めなくなるだろう。

技をかけられた瞬間に、武道の達人であるトンシーは、

自分の敗北を、瞬時に悟った。

――今のままの武では、こいつには勝てない。

『ま、まいった。』

トンシーは天井を見上げた狀態で、敗北を宣言した。

『勝者、ソフィ』

審判からコールをけて、ソフィはトンシーの手を外して立ち上がる。

「久々にらしいを使ったが、まだまだ鈍ってはなかったようだな。」

そんな事を言うソフィにトンシーは近づいていき手を出した。

「む？」

突然手を出してきたトンシーを、

訝し気に見るソフィに、笑顔でトンシーは告げて來る。

『完敗だ、お前の武は完璧だった。』

そういってソフィに、握手を求めて來るのであった。

リング上で冒険者同士がさわやかに握手をわす姿を見て、

観客席からの歓聲は、大きく鳴り響いていた。