予選が終わり本選の準備で會場が整うまで、

三日ほどかかるとのことだった。

決勝進出を決めたギルドには、運営側から宿代を貰っているので、

気兼ねなくいい部屋を借りて、連泊をさせてもらっていた。

ソフィがいつものように、レグランの実を齧りながら寛いでいると、

ニーアが聲をかけてきた。

『トンプーカのギルドのトンシーさんが、

君に會いに來ているみたいだよ。』

「何？」

ソフィが部屋のドアを開けると、

トンシーがこちらに気づいて、頭を下げてきた。

『ソフィ殿～～～！　決勝が始まる前に、

私に稽古をつけてくれないだろうか！』

トンシーは予選リーグでソフィに敗れて以來、

ソフィの武に惚れて、このように連日付きまとって來ていた。

「………またか、何度も言うようだが、我は魔法使いなのだぞ？」

溜息を吐くソフィだが、

トンシーは諦めずに稽古をつけてもらおうとする。

「仕方がないな、武を教えることは、

出來ぬが、相手をするくらいはしてやる。」

ソフィがそういうと、トンシーは嬉しそうな顔で頭を下げる。

『ソフィ殿、かたじけない。』

「ニーア、お主も見に來るか？」

ソフィにわれるがニーアもまた、

自主練をするからと、斷りをれるのであった。

二人が街の外れにある広場で、手合わせをするために向かっていると、

青い服が特徴的な、背の高い男とソフィはすれ違った。

トンシーとソフィは話をしながら歩いているので、

ソフィは、全く青服に意識を向けていなかったが、

すれ違い様に、青服の男が殺気をソフィに向けて放つ。

その瞬間にソフィは、隣にいたトンシーを、

抱えて大きく後ろへ跳躍する。

（………いた！）

ソフィが殺気を放った青服の姿を見つけると、

青服は微笑みを浮かべたまま、雑踏に紛れて消えていった。

ソフィは即座に魔力探知を展開して、

今の男を捕捉しようとするが、全く魔力を知できない。

「………何だと？」

魔力が全くない人間や魔、魔族は見たことも聞いたこともない。

であるならば、魔力値を探らせない隠蔽呪文を使うか、

完全に魔力をゼロにコントロールしているかである。

隠蔽であればまだいいが、

完全に魔力値をゼロにする技を持つ者など、

この世界ではまだ見たことはない。

他者から能力を隠蔽をするだけでも、

相當に會得が難しい魔法だというのに、

そもそも持っている能力を一時的にゼロにすることなど、

そう容易く出來る事ではない。

元の世界の人間界の者達でも、かなり研鑽を積んだ者でしか、

魔力コントロールは出來ない程である。

（※　人間界＝アレルバレルの人間達の住む大陸の事。）

（※2　因みにソフィ達魔族や、魔が住む大陸は、魔界と呼ぶ。）

ソフィはリディアを見た時よりも、

警戒している自分に気づき、笑みを浮かべた。

「クックック、我を脅かすか？

人間か、はたまた魔族か、それとも……。」

この世界の自分の”同類”かもしれないとソフィは考えた。

そして、”微笑”の殺気をモロに浴びたトンシーが、

ソフィの手の中で気絶させられていることに、

ようやくソフィは気づくのであった。

………

……

…

青服は微笑を浮かべながら、雑踏に紛れるように、

そして冷靜に確実に追われないよう、細心の注意を払いながら移する。

（………程、実力を見ようと思いましたが、アレは相當やばい。）

ソフィに殺気を放った時、

予想以であった場合は、あの場で消すつもりだった。

しかし、ソフィは”微笑”の殺気をじた瞬間に、

迷わずに仲間を抱えて距離を取った。

あの行を見て微笑は、暗殺を先延ばしに決めた。

（子供がけるような半端な殺気ではなかったのですがね。）

冒険者ギルドに屬する勲章ランクA、それもかなり上位に位置する者でも、

けなくするほどには、殺気を込めていた。

”微笑”は冒険者ではないが、殺し屋としての腕は、

間違いなくAクラスである。

（あれを始末するとなると、報酬の上乗せが必要でしょうかね……。）

似顔絵を見ていた頃よりも実際に見た後で、

”微笑”は、警戒度を上げたのだった。

………

……

…

ソフィはトンシーを宿に殘っていたニーアに説明した後、

トンシーを預けて、サシスの町を一人で歩く。

もしかするとまた青服の男が、

自分を狙ってくるかもしれないと思った為である。

（奴のあの殺気をもう一度じ取ることができれば、

すぐに分かるのだがな。）

ソフィと”微笑”との出會いは、こうして始まったのであった。