《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》5-2
5-2
男たちは掛け聲とともに、いっせいに突撃を開始した。槍に剣に、ギラギラした殺気が迫りくる。目標はもちろん、俺一人だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!って、誰も聞いちゃくれないか!」
『四の五の言ってる場合じゃないですよ!あのゾンビ娘を使いましょう!』
「ちくしょう、それしかないか!フランセス、頼めるか!?」
俺が振り返るとほとんど同時に、フランセスが弾かれたように前へ駆け出した。猛スピードで俺のわきを駆け抜けていく。すれ違いざまに見たフランセスの眼は、憎悪の炎がぐつぐつと燃え上がっていた。
「ガアアア!」
「くたばれ、ゾンビめ!えいやあ!」
手槍を持った男がフランセスめがけて槍を投げる。だがフランセスは鉤爪の一振りで、飛んできた槍をバラバラにしてしまった。まったくスピードを落とさないまま、フランセスが男たちに突っ込んでいく。
「盾を構えろ!やつを囲んで、四方から切り付けるんだ!」
男たちの中でも屈強なをした剣士が、大聲でんだ。木の盾をもった奴らが前に進み出て、フランセスの鉤爪をけ止める。盾を壁にして、フランセスのきを封じるつもりだ。だが奴らは、フランセスの攻撃力を見誤った。
「邪魔だっ!」
フランセスは大きく爪を振りかぶると、腐食の鉤爪をずぶりと突き刺し、盾を真っ二つに引き裂いた。盾を失って真っ青になった男は、黒煙を上げて腐る盾を慌ててほおり投げた。
「ひぃ!な、なんなんだ。盾が、腐っちまった!」
「どうなってるんだ!?ふつうのゾンビのパワーじゃない!」
「ちっ、みんなうろたえるな!陣形を崩すんじゃない!」
さっきのがたいのいい剣士は喝をれると、自ら剣を振りかざして前へ躍り出た。
「化けめ!俺が相手だ!」
ガキン!男の剣とフランセスの爪がぶつかり合う。男は猛烈な勢いで剣を叩き付け、フランセスに反撃の余地を與えないようにしている。爪と剣が弾き合う度、火花が飛び散る。
男がフランセスを引き付けている間に、立ち直ったほかの連中は相手をし易そうな方、つまり俺のほうへ向かってきた。
「者を殺せばあのゾンビも消えてなくなる!弱そうなほうからやっちまえ!」
「誰が弱そうなほうだ!お前ら、丸腰の相手に恥ずかしくないのかよ!」
「だまれ!薄汚い勇者ふぜいが!」
くそ、容赦なしかよ!一人の男が剣を中腰に構えて、猛然と突進してくる。今の俺にはフランセス以外に戦う手段はない。俺は慌てて逃げ出そうとしたが、足がもつれて転んでしまった。
「うひゃ!」
萬事休すか!
だが突っ込んできた男のほうも、いきなり足元に転がった俺に反応しきれず、けつまづいた。走ってきた勢いのまま、盛大にずっこける。その拍子に剣が手元を離れ、草むらの上に転がった。
「お、ラッキー!ちょっと借りるぜ!」
剣の知識なんてこれっぽっちもないけど、手ぶらよかましだ。俺は男の落とした剣を構えると、つぎつぎにこちらへとやってくる男たちへ構えた。うう、足が震える。けっ、なめやがって。一太刀くらいは浴びせてやるぞ!
だがそのとき、キィーンという甲高い音とともに、何かが夜空を舞った。たいまつの明かりをけてきらめくのは、一本の剣だ。そして剣を弾き飛ばされたのは、フランセスとやりあっていた屈強な剣士だった。剣士は肩で荒く息をし、がっくりと膝をついている。フランセスが勝ったんだ。
フランセスはこちらに気付くと、盾の包囲網を軽々飛び越え、すぐさま俺のほうへかけてきた。それを見て、おののいた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。あの剣士でも敵わないんじゃ、それが賢明な判斷だろうな。けれどさっき俺につまづいた男だけは、腰が抜けてしまったのか、立ち上がれず逃げ遅れた。
「ひ、ひいぃ!よるな、化め!」
男はずりずりと這いつくばりながら後退する。フランセスはそんな男を蟲けらでも見るようにいちべつした後、何のためらいもなく爪を振り下ろそうとした。
「ま、まてフランセス!」
俺がぶと、フランセスの鉤爪は男の鼻さき數ミリの所で停止した。フランセスが鬼のような形相で俺に振り返る。
「どうして止める!」
「そいつはどうせもう戦えない。丸腰だし、そんなもないだろ。武も持たない相手じゃ、さすがに気が引ける」
「あなたバカ!?こいつらはわたしたちを殺そうとした!殺さないと、こっちがやられる!」
「まあそうだけど。けど、なくとも後者は、もう心配いらないと思うぜ」
俺が男を指さす。男は白目を剝いて気絶していた。ズボンのあたりが濡れているのは……武士のけで見なかったことにしてやろう。
「むやみに死人を出すのはよそう。本當に悪人になっちゃうよ。これ以上不名譽な誤解をされちゃたまらない」
「……後悔しても、しらないから」
フランセスはぼそりと吐き捨てると、ようやく爪を引っ込めた。フランセスも相當頭にが昇っているみたいだな。過去のことを考えれば、當然かもしれないが。
俺たちが問答をしている間に、殘った男たちは俺たちをぐるりと取り囲むように、陣をしき直していた。こりないな、なしというのは撤回したほうがよさそうだ。なかにはフランセスに武をダメにされてなお、素手で戦おうというやつもいた。恐ろしい執念だ、そんなに俺が憎いのか?俺はいら立ちを隠さずにぶ。
「おい!もうあきらめろよ。フランセスに敵わないのは分かっただろ?」
「黙れ!例え俺たちの命に代えてでも、お前を殺す!」
「だぁー!だから俺は何もしてないんだって!たかが八つ當たりのために、こんなところで死ぬ気か?」
「ふん!俺が死ぬことで家族を守れるなら、それで本だ!」
なに?予想外の返答に、俺は戸った。てっきりこいつらは、かつて自分たちの村を貶めた勇者への復讐、憎しみで戦っていると思っていた。けど、そうか。この男たちは、家族を守ろうとしてこんなに必死なんだ。もし自分に娘がいて、そこへ兇悪な強魔が現れたとしたら……父親は、それこそ命を賭して家族を守るかも知れない。
「……ちぇ。そう考えたら、やりづらいじゃないか。なぁアニ、知恵を貸してくれないか?」
『はい?知恵、ですか?』
「どうにかこの場を抜け出したいんだ。だけど、あの人たちを殺すようなことはしたくない」
俺の言葉を聞き、フランセスがあきれたように言う。
「それは難しいんじゃない?こっちに殺す気がなくても、あいつらは勝手に死ぬつもりだから」
「そうだな。けどあの人たちだって、誤解してるだけなんだ。穏便に済ませたいけど、話は聞いてくれそうもないし。戦闘は避けられないとは思うんだけど……」
『ううむ。連中を半殺しにして、その間に逃げるという手もありますが』
「できれば、もうし穏便に」
『ですか。では……』
アニはしの間をおいて、すぐにこう告げた。
『魔法を、使いますか』
つづく
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サモナーさんが行く
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