《じゃあ俺、死霊《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。》3-2
3-2
「はぁ、はぁ……とうとう捕まえたぞ。おとなしく、ごほ。観念しやがれってんだ、げほ」
俺はフランの首っこを捕まえ、ずるずる引きずりながら言った。フランは例の“おすわり”によって、シャンと背筋をばして正座している。いつまでたっても捕まらず、俺が息も絶え絶え、気絶寸前になったので、実力行使だった。ふん、誰が無理やりはダメだ、自発を促せだって?どこのどいつが言ったんだ?
「おら、とっととれ!」
「……ゾンビでもいい、って言ったくせに……」
あん?ああ、俺が第三勢力うんぬんって言った時のことか?
「ああ。確かに言った。けどだからと言って、公序良俗を捨て去った覚えはないし、文化的な自尊心を放棄するつもりもない」
「ぐるるる……」
「うなってもダメ!」
俺はフランをぺいっと浴室に放り込んだ。
「きちんとつま先まで洗って出て來いよ。ちゃんと湯船につかって、百まで數えるんだぞ」
俺の小言に対し、フランは浴室の床に正座したまま、ぷいっとそっぽを向くことで意思表示した。
『主様、らちが明きませんよ。このゾンビ娘、このままずっとここでじっとしてますよ』
「ぐああ、なんでこう頑固なんだ。わけも話そうとしないし」
『そうやって甘やかすからつけあがるんですよ。時には厳しくいかないと』
そう言うとアニは、またもリィンとった。するとフランはおもむろに立ち上がり、するすると服をぎ始めた……!
「あ、わ、ま、待てフラン。今出てくから」
「わっ、ちょ、ちょっと。なにこれ!」
『さっさとしなさい。服のままるつもりですか』
「アニのしわざか!?いきなりなにしてんだよ!」
『主様……相手は、児ですよ?しかもゾンビの。貴方、そういう癖の持ち主なんですか?』
「ちがわい!」
「ちょっと、この変態!はやくやめてよ!」
「違う!斷じて俺は変態じゃ……」
「ぎゃー!こっち見るな、ばかーー!」
「うおおぉぉ!?」
フランは近くにあった風呂桶をひっつかむと、剛速球で投げつけてきた。俺がどすんともちをつくと、風呂桶は俺の頭から拳ひとつ分空けた壁に當たって、木っ端微塵になった。バラバラと、元風呂桶だった木片が俺に降り注ぎ、の気がサーッとが引く。直接食らっていたら、俺もエドみたいな鼻になっていたぞ……
『主様!拘束を緩めないでください。危険ですよ!』
「そ、そうだな!いや、そうじゃなくてな……」
俺は転した心臓を落ち著かせながら立ち上がった。ふぅー。一方フランは、鉤爪で用に服をぎ去っていた。彼の服は、鉤爪の毒に耐があるらしい。そして最後の一枚である下著を足元に落とすと、その場にぺたりと座り込んでしまった。俺がおすわりさせたのではなく、フラン自が、それが最もを隠せると判斷したらしい。
この騒の主犯者であるアニは、淡々とした聲で言った。
『これで、あとは上から水でもかければきれいになるでしょう』
「だからって、俺がいるところでがせなくてもいいだろ!」
『どっちにしろ、主様がって水をかけてやらないとじゃないですか。遅いか早いかの問題でしょう?』
「お前なぁ。人の心ってのは、合理だけで判斷していいもんじゃないんだよ」
『はぁ。難しいものですね。記録しておきます』
アニは時々びっくりするほど人間臭いけど、あくまで人間ではないからな。心の機微までは理解できないのかもしれない。
俺はため息をつくと、フランの服を濡れないようにかき集め、隅にあったかごに放り込んだ。もうこうなったら、しようがない。お、その橫に空の水がめがあるぞ。浴槽に水をためるものだろうか。ちょうどいい、桶が々になってしまったから、これを借りよう。俺は水がめでお湯をくみ取った。
「フラン。お湯、かけるぞ」
フランは細い肩をぴくっと振るわせると、膝を抱えて顔をうずめてしまった。無言の肯定ってことにしてこう。水がめを傾け、フランの頭からお湯をかける。
「ひっ」
「あ、悪い。熱かったか?」
「……ううん。へいき」
「そうか?熱かったら言えよ」
今度はもうし慎重に、フランの髪を濡らすように湯をかけていく。さて、シャンプーは……あるわけないか。この世界の文化背景がまだわかんないけど、石鹸くらいならないかな?あたりを探してみると、小さなポッドを見つけた。中には白いがっている。首をかしげると、アニが説明してくれた。
『それは小麥です。湯に溶かして、洗髪料として使います』
「小麥で髪を洗うのか?天ぷらじゃあるまいし……」
『庶民の間では最も普遍的ですよ。首都や王城では、木の実や海藻を原料としたものを使うそうですが』
「へぇ」
ポッドから小麥をすくい、お湯に溶かす。すると小麥はどろっととろみを増した。それをフランの髪に振りかけるが……うーん、白く濁ったそれを見ると、洗っているんだか汚しているんだかわからない気がしてきた。
フランの白い髪をもむように洗う。髪は細いが、量が多い。まるで絹糸の束のようだ。フランは顔をうずめたまま、なすがままになっている。聞いているかわからないが、俺はフランに、なるべく優しく話しかけた。
「なあ、フラン。お前の趣味嗜好にまでとやかく言うつもりはないけれど、それでも風呂くらいはきちんとれ。もう死んでるんだから汚れたままでいいなんて、それってなんだか悲しいよ」
「……」
「それに、毎回俺に洗われるなんて、お前もいやだろ?お前が自分でってくれるなら、もう俺もこんなことはしない。毎日じゃなくてもいい、けど今回みたいな激しい戦闘の後とかは、な?」
「……わかった」
「うん。いい子だ」
俺はフランの髪をやさしくなでつけると、お湯で洗い流した。うわ、ほこりとが混ざって真っ黒になった水が、排水に流れていく。だいぶ汚れていたんだな。
「おぉ……」
汚れが落ち、本來の姿を取り戻したフランの髪を見た、俺の嘆だ。すごい、ばあちゃんが冬の月のようだと言っていたのが、やっとわかった。フランの髪は、しい銀だ。つやっとき通っていて、ともすれば鏡のように俺を反しそうなくらい。今までは土やほこりに覆われて、白くなっていただけだったんだな。
「フラン、お前の髪すごいきれいだよ!風呂嫌いなんかでこれを大なしにするのはもったいないぜ」
「……べつに、お風呂が嫌いなわけじゃない」
フランがぼそりとつぶやいた。え?じゃあなんだって、あんなに抵抗を?
「わたし、水にれたくなかったの。熱いお湯も、冷たい水も」
「あ、おう。俺だってそりゃ、熱すぎたり冷たすぎたりしたら、いやだけど」
「ううん。このに、そんなものは関係ない。熱かろうがやけどしないし、冷たかろうが風邪はひかない」
「そうか。そうだったな」
「だから、いやなの」
「え?」
「何もじないのが、いやだったの。お湯につかったとき、鳥が立ったりしない?」
「ああー、確かに。するな」
湯船につかった時の、何とも言えない覚を思い出す。あったかくて、にジーンとしみて、つい聲が出てしまうんだ。
「わたしは、あれをじないの。ただ、熱いものがにれているということだけ。ふつうは、何かしらが反応するでしょ。もしそのお湯が熱すぎたら、やけどをするか、痛みをじてつま先をひっこめる。けど、わたしにはそれがない。ただその溫度の質として、淡々と知するだけ」
それは……正直、想像もできない。だって、ありえないだろ。熱湯に足先がれれば、反的に引っ込む。そうしようと考えているんじゃない、が勝手にそうくんだ。もちろん熱さに耐えて、我慢してお湯につかることはできるかもしれない。けれどまったく熱さをじないわけじゃないし、そんなことしていたらすぐにのぼせてしまうだろう。これらはいわば、人間に備わった命を守るための機能だ。
あ……そういうことか。フランは、ゾンビだ。すでに死んでいて、痛みも疲れもじない。命を守るための機能は、もう彼のためには働かない。ただただ、覚という電気信號のみが脳に伝わるんだ。果たしてそれを味わったとき、どんな気分になるのか……俺には想像もつかなかった。
「ご、ごめんフラン!そこまで気が回らなかった」
「ううん。思ったより平気だった。今までは、森に降る雨の冷たさしか知らなかったから。冷たいのには慣れたけど、死んでからお風呂にることなんてなかったし、ちょっと不安だったの」
「あ……だから」
「けど、あなたの言うことも分かったから。ちゃんと約束はまもる」
「あ、うん……なぁフラン、俺が今更言えたことじゃないかもだけど、そういうことはちゃんと言えな?俺は馬鹿だけど、言ってくれれば、ちゃんと考えるから。ちょっとずつ慣らすとか、方法はあるだろ?」
「うん。わかった」
ふぅ……なんだか、大変なバスタイムになってしまった。時間もない、とっとと終わらせちまおう。
ゾンビ娘の扱いは、やっぱり難しい。俺は、生きているものと死んでいるものの差というものを、なんとなくじ始めていた。
つづく
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
読了ありがとうございました。
國民的歌手のクーデレ美少女との戀愛フラグが丈夫すぎる〜距離を置いてるのに、なんで俺が助けたことになってるんだ!?
三度も振られて女性不信に陥った主人公は良い人を辭めて、ある歌い手にハマりのめり込む。 オタクになって高校生活を送る中、時に女子に嫌われようと構うことなく過ごすのだが、その行動がなぜか1人の女子を救うことに繋がって……? その女子は隣の席の地味な女の子、山田さん。だけどその正體は主人公の憧れの歌い手だった! そんなことを知らずに過ごす主人公。トラウマのせいで女子から距離を置くため行動するのだが、全部裏目に出て、山田さんからの好感度がどんどん上がっていってしまう。周りからも二人はいい感じだと見られるようになり、外堀まで埋まっていく始末。 なんでこうなるんだ……!
8 156【書籍化】誰にも愛されないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】
両親の愛も、侯爵家の娘としての立場も、神から與えられるスキルも、何も與えられなかったステラ。 ただひとつ、婚約者の存在を心の支えにして耐えていたけれど、ある日全てを持っている“準聖女”の妹に婚約者の心まで持っていかれてしまった。 私の存在は、誰も幸せにしない。 そう思って駆け込んだ修道院で掃除の楽しさに目覚め、埃を落とし、壁や床を磨いたりしていたらいつの間にか“浄化”のスキルを身に付けていた。
8 69【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?〜
★書籍化★コミカライズ★決定しました! ありがとうございます! 「セリス、お前との婚約を破棄したい。その冷たい目に耐えられないんだ」 『絶対記憶能力』を持つセリスは昔から表情が乏しいせいで、美しいアイスブルーの瞳は冷たく見られがちだった。 そんな伯爵令嬢セリス・シュトラールは、ある日婚約者のギルバートに婚約の破棄を告げられる。挙句、義妹のアーチェスを新たな婚約者として迎え入れるという。 その結果、體裁が悪いからとセリスは実家の伯爵家を追い出され、第四騎士団──通稱『騎士団の墓場』の寄宿舎で下働きをすることになった。 第四騎士団は他の騎士団で問題を起こしたものの集まりで、その中でも騎士団長ジェド・ジルベスターは『冷酷殘忍』だと有名らしいのだが。 「私は自分の目で見たものしか信じませんわ」 ──セリスは偏見を持たない女性だった。 だというのに、ギルバートの思惑により、セリスは悪い噂を流されてしまう。しかし騎士団長のジェドも『自分の目で見たものしか信じない質』らしく……? そんな二人が惹かれ合うのは必然で、ジェドが天然たらしと世話好きを発動して、セリスを貓可愛がりするのが日常化し──。 「照れてるのか? 可愛い奴」「!?」 「ほら、あーんしてやるから口開けな」「……っ!?」 団員ともすぐに打ち明け、楽しい日々を過ごすセリス。時折記憶力が良過ぎることを指摘されながらも、數少ない特技だとあっけらかんに言うが、それは類稀なる才能だった。 一方で婚約破棄をしたギルバートのアーチェスへの態度は、どんどん冷たくなっていき……? 無表情だが心優しいセリスを、天然たらしの世話好きの騎士団長──ジェドがとろとろと甘やかしていく溺愛の物語である。 ◇◇◇ 短編は日間総合ランキング1位 連載版は日間総合ランキング3位 ありがとうございます! 短編版は六話の途中辺りまでになりますが、それまでも加筆がありますので、良ければ冒頭からお読みください。 ※爵位に関して作品獨自のものがあります。ご都合主義もありますのでゆるい気持ちでご覧ください。 ザマァありますが、基本は甘々だったりほのぼのです。 ★レーベル様や発売日に関しては開示許可がで次第ご報告させていただきます。
8 62「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい
少女フラムは、神の予言により、魔王討伐の旅の一員として選ばれることとなった。 全員が一流の力を持つ勇者一行。しかし、なぜかフラムだけは戦う力を持たず、ステータスも全て0。 肩身の狹い思いをしながら、それでも彼女は勇者たちの役に立とうと努力を続ける。 だがある日、パーティのうちの1人から騙され「もうお前は必要ない」と奴隷商人に売り飛ばされてしまう。 奴隷として劣悪な環境の中で生きることを強いられたフラム。 しかし彼女は、そこで”呪いの剣”と出會い、最弱の能力”反転”の真価を知る。 戦う力を得た彼女は、正直もう魔王とかどうでもいいので、出會った奴隷の少女と共に冒険者として平穏に暮らすことを決めるのだった。 ――これは一人の少女が、平穏な日常を取り戻すためにどん底から這い上がってゆく、戦いの物語である。 日間最高1位、週間最高1位、月間最高2位にランクインしました。みなさんの応援のおかげです、ありがとうございます! GCノベルズ様から書籍化決定しました! 発売日はまだ未定です。 カクヨムとマルチ投稿してます。
8 54ムーンゲイザー
15歳の夕香子が満月の夜に出會った不思議な少年、ツムギ。 彼とはすぐに離れてしまうとわかっていながらも、戀心を抱いている自分に困惑する夕香子。 少女の複雑な心境を綴った切ない青春小説。
8 85一臺の車から
シトロエン2cvというフランスの大衆車に乗って見えた景色などを書いた小説です。2cvに乗って起こったことや、2cvに乗ってる時に見た他の車などについて書いていきます。
8 104