初登校の日から數日。

ロームルス城での対策會議を終えて、今日は二回目の登校の日。

雲一つない、晴れ渡った空の下。

下級クラスの六人とオリヴィアは、寮から學園への道を歩いていた。

多くの生徒が行きう中、下級クラスの一行に、他クラスの生徒から注目が集まる。

注目を集める大きな存在があるからだ。それは──。

「うむぅ……ヴィクトリアよ……妾は心配なのじゃ……」

「ウルリカちゃん、心配しなくても大丈夫よ」

ロムルス王國の王、ヴィクトリアである。

ウルリカ様達と一緒に、學園に向かって歩いているのだ。

國最高峰の貌と、凹凸のある見事な形を持つヴィクトリア王。

その圧倒的なしさで、生徒達の注目を集めまくっているのである。

「ヴィクトリア様、相変わらずおしくて素敵だわ……なのにどうして下級クラスなんかと……？」

「ヴィクトリア王陛下、もの凄いっぽいよな。なんで下級クラスなんかと……羨ましいな……」

騒ぎは瞬く間に広がり、周囲には多くの生徒が集まっていく。

そんな中一人の男子生徒が、生徒の波をかき分けてやってくる。

生徒會長のハインリヒである。

「おい！　朝からなんの騒ぎなんだ？　早く教室に……あなたは……」

「あら、騒がせちゃったみたいね」

ペロリと舌を出すヴィクトリア王。

それを見た何人かの男子生徒は、顔を真っ赤に染めながら腰を抜かしてしまう。

恐るべきヴィクトリア王の気だ。

しかしハインリヒは、気にわされることなく、キリっとした表でヴィクトリア王の前に立つ。

「はじめまして、生徒會長のハインリヒです」

「ハインリヒ君ね。はじめまして、ヴィクトリアよ」

「早速ではありますがお聞かせください。なぜ王陛下は學園にいるのでしょう？　これは一なんの騒ぎなのでしょう？」

ハインリヒの質問に、ヴィクトリア王は答える。

「実は下級クラスの先生をすることになったのよ、だから一緒に登校しているの」

「下級クラスの先生……？　それはどういう……一なんの話をしているのです？」

ヴィクトリア王の答えを、ハインリヒは理解出來ずにいる。

話を聞いていた周りの生徒達もキョトンとした表だ。

それに気づいて、丁寧に説明を加えるヴィクトリア王。

「今日から私、ヴィクトリア・メリル・アン・ロムルスは、下級クラスの先生になったのよ。下級クラスの授業をするために、今から教室を見にいくの。ハインリヒ君とは別のクラスだけど、これからよろしくね」

そう言ってヴィクトリア王は、パチリとウインクをする。

「なるほど、王陛下に先生を……」

そして、一瞬の沈黙が流れ──。

「「「「「はあぁっ!?」」」」」

ハインリヒも周りで見ていた生徒達も、揃って驚きの聲をあげる。

驚きすぎて、直している生徒もいるくらいだ。

「王陛下！　おかしなことを言わないでください！」

「あら、おかしなことなんて言ったかしら？」

「言っていますよ！　王陛下に教師をしていただくなんて、そんなこと不可能です!!」

予想外の事態に、ハインリヒは冷靜さを失ってしまう。

一方のヴィクトリア王は、ゆったりと余裕な態度だ。

「心配しなくても、お仕事は夫に任せてきたわ。私は毎日先生を出來るわよ」

「そういう問題ではありませんよ!!」

「だったら一なにが問題なのか、教えてくれるかしら？」

「なにって……それは……っ」

慌てて答えようとしたハインリヒ。

しかし、「ふぅ」と息を吐いて、冷靜さをとり戻す。

「まずですね、下級クラスだけ勝手な授業をけるなんて、そんなことは許されません」

「そうなの？　でもねぇ……」

ニコリと笑うヴィクトリア王。

見る者をゾクリとさせる、しくもしたたかな笑顔だ。

「ハインリヒ君は『下級クラスは好きに過ごして構わない』って言ったのよね？　だったら勝手に授業をけたって問題は無いでしょう？　好きに過ごして構わないのだから」

ハインリヒは「うっ」と言葉を詰まらせる。

「しかし勝手に先生を、しかも王陛下を連れてくるななんて、許されるはずない」

再びニコリと笑うヴィクトリア王。

ハインリヒの背筋に、凍えるような寒気が走る。

「でもハインリヒ君『教師がほしければ自分達で見つけてきたらいい』って、そう言ったらしいじゃない？」

「なっ……どうしてそれを……」

「“どこから”　“誰を”　教師として見つけてくるか……指定しなかったのよね？」

「いや……でも……」

「フフッ、ハインリヒ君は生徒會長なんだもの。言い忘れてました、なんてことないわよね？」

ヴィクトリア王はハインリヒのおでこをツンとつつく。

あまりにもっぽい仕草に、ハインリヒは思わずうつむいてしまう。

「くぅ……しかし王陛下に授業なんて……出來るわけない……」

「それなら心配無用よ」

自信満々にを張るヴィクトリア王。

「私はロムルス王國の現王として、國の歴史、社の場での貴族の禮式、他國を含む國際事の授業をするつもりなのよ」

話を聞いていた周りの生徒達から「王様の授業、いいなぁ……」と聲がれる。

「そういった知識において、私より詳しく授業を出來る人って……夫か大臣くらいじゃないかしら？　それでもハインリヒ君は、私に授業は出來ないと思うのかしら？」

ヴィクトリア王からのトドメの一言で、ハインリヒは完全に黙り込んでしまう。

しばらく黙り込んでいたかと思うと、ゆっくりと口を開く。

「分かりました……分かりましたよ！　好きにして結構です!!」

悔しそうに言葉を絞り出すハインリヒ。

それを聞いて、ワッと盛りあがる下級クラスの生徒達。

そして、誰よりも嬉しそうなウルリカ様。

「やったー！　嬉しいのじゃー!!　待ちに待った授業なのじゃ～!!」

ピョーンと飛びあがって、ヴィクトリア王にギュッと抱きつく。

「ありがとうなのじゃ！　ヴィクトリア先生!!」

「はうぅんっ……ウルリカちゃん、可すぎるわ……！」

ウルリカ様の可らしさに、ヴィクトリア王はメロメロだ。

先ほどまでのゾクリとさせる雰囲気は、一どこへいったのやら。

はしゃぎ回るウルリカ様に、オリヴィアはそっと鞄を手渡す。

「よかったですねウルリカ様、今日が本當の初登校ですね！」

「うむ、その通りじゃな！　本當の初登校なのじゃ!!」

こうして、無事に“本當の初登校”を迎えることが出來た、ウルリカ様なのであった。