《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》十九話
「か」
「「か?」」
「かわいい! なにこれ、すっごいかわいいじゃん!」
普通の兎より大きいだとか、一本角が生えてるだとか、そんな事はどうでもいい。とにかくかわいい! モフモフしてる!
「おいカイト君、相手は魔だ。気を抜くな」
「うっ、これ魔なのか」
つまり俺は、今からこのかわいい生きと戦わないといけないのか。
俺が憂鬱な気分になっていると、突然ホーンラビットの目が真っ赤に染まり、口から鋭い牙をむき出し、今にも突進してきそうな程の前傾姿勢になった。口の端からはよだれが垂れている。
え、怖っ! なにコイツ。こんなんかわいくも何ともないわ!
いや、でもモフモフは健在か……いや、ないな。
「まずは私が戦うから、カイト君はマリーの傍でしっかりと見ていてくれ」
「あ、ああ。分かった」
百聞は一見に如かずとも言うし、ここはフーリの戦いをしっかり見せて貰おう。
「カイトさん、私から離れないで下さいね」
俺を気遣ってくれるマリーが逞しく見える。
と、その時。前傾姿勢をとっていたホーンラビットが、角を前に突き出す形で、フーリ目掛けて一直線に飛び掛かっていった。
「まず基本は、相手のきをよく見る事だ」
それをフーリは右に軽くステップして躱し。
「常に相手を視界の中にれておくんだ。相手を見失うと、死角からの攻撃への対処を迫られるからな」
再び飛び掛かってきたホーンラビットの攻撃を、またもフーリは軽く躱す。
「そして、大振りの攻撃後は隙が生じやすい。相手も自分も、な!」
躱し様に剣を一閃。それだけでホーンラビットの頭は、からさよならバイバイする事となる。
「そして急所への一撃。相手が格下なら、これで大戦闘は終わる。同格以上でもやる事は同じ。相手のきをよく見る。攻撃を躱す、または防ぐ。そして隙をついて攻撃。どうだ、分かったか?」
……なんというか、アレだな。
ふと隣を見ると、マリーも同じことを思ったのか、苦笑いをしていた。
「言いたい事は分かるけど「そんな簡単に出來れば苦労はしない」って言いたくなったんだが」
「擬音説明じゃなかった分、大分マシですけどね」
擬音説明って。流石にフーリもそんな事は。
「かなり丁寧に説明した筈だから、分かりやすかっただろう?」
え? 今のって要點だけを説明した訳じゃなかったの?
しかし、フーリの期待に満ちた眼差しを見ると、もっと丁寧に説明してくれとは言えず。
「そ、そうだな。すごく分かりやすかった!」
そう言うしかないだろう。
「そうかそうか。やはり分かりやすかったか。では、次はカイト君に実際に戦って貰おう。安心しろ。何かあっても、私達がすぐフォロー出來る様にしておくから、思いっきり戦ってみてくれ」
いや、いきなり実戦って、マジですか?
「頑張って下さいカイトさん。私達が……いえ、私が全力でフォローします」
マリーの呟きは、ギリギリ俺に聞こえるぐらい小さかった。
「それで、だ。魔を倒したら、素材になりそうな部位を剝ぎ取っておくんだ。ホーンラビットは、角と皮が素材になる。後は魔石と魔核もギルドが買い取ってくれるな。いつもは持ちがかさばるから、皮はある程度取ったらあとは殘して放っておくんだが、今日はカイト君がいるから、死も全部回収しておこう。も売れるからな。カイト君、お願い出來るだろうか?」
「ああ、それは任せてくれ」
本來はこれが俺の役割だからな。
言いながら、俺は目の前のホーンラビットの死をストレージに収納した。
「今回魔核は出なかったが、極稀に魔核も出てくるから、もし見つけたら必ず回収した方がいい。魔核は高く売れるからな」
「そうなのか?」
「魔核は魔導を作るのに必須ですからね。によりますけど、最低でも金貨一枚はくだりません」
金貨一枚! ……って、どのぐらいだ?
「カイトさん、銀貨十枚で金貨一枚分です」
余程顔に出ていたのだろうか。マリーが補足説明してくれた。
なるほど、銀貨十枚分。それってアレだな。俺がこの世界で最初に渡された全財産。魔核一つでそんなにするのか。
「ちなみに魔石は?」
「大銅貨一枚ぐらいだ」
安っ! 魔核と魔石でそこまで差があるのか。
「仕方ないさ。今の所、魔石は一部を除いて、魔力回復薬の材料になるぐらいだから、そこまで使い道はないんだ。各屬の魔石になると話は変わるが」
「屬の魔石?」
それってアレか? 昨日合した火の魔石みたいな。ああいうのは価値があるって事?
「カイトさん、私の杖の先端にもついてますよ。この青いのが水の魔石です。各屬の魔石は、それぞれ対応した屬の魔法を強化してくれるんです」
「へえ。だから各屬の魔石は価値があるって事?」
「大きさや純度にもよりますけどね。握りこぶしぐらいの大きさで、それなりの純度があれば価値があります。ちなみにですけど、私が持ってる魔石は、不純がほとんど混じってない、高純度の魔石なんですよ」
……へえ、そうなのか。大きさと純度次第。
良い事聞いたな。
「ちなみに、魔石って販売とかしてるの?」
「はい、してますよ」
「そうなんだ。ちなみにいくらぐらいで?」
「各屬の魔石以外は、基本的に大銅貨二枚ぐらいです」
大銅貨二枚ぐらいか。安いな。
上手くんな魔石を手にれられれば、ない出費でんなスキルを覚えられるかもしれない。
「と、そろそろ休憩にしようか」
「そうだね。カイトさん、そろそろお晝にしましょう」
二人に言われ、もうそんな時間なのかと思った。
確かに、朝から解毒草採取を始めて、既に數時間は経っている。いい加減休憩した方がいいだろう。
「そうだな、ちょっと待っててくれ」
俺はストレージに収納してる木材から、三人分のイスと大きめのテーブルを一つ作って取り出し、そこに酒場で買ってきた晝食を並べていく。
「テーブルとイスか。いつの間に用意したんだ?」
「あー、街を出る前にちょっとね」
忘れてた。二人にはストレージの事、話してないんだった。まさか今作ったなんて言う訳にもいかず、曖昧に誤魔化してみた。
「本當に便利ですよね、アイテムボックスって」
「ああ、アイテムボックス一つでここまで違うとは」
幸いにも、二人はあまり気にした様子はない。
「はは、二人の役に立てたなら良かったよ」
「役にたったなんてものじゃありません! 依頼中に出來立てのオイ椎茸料理が食べられるなんて、夢の様です! カイトさん、ずうっと一緒のパーティでいましょうね!」
「おいマリー。それじゃあまるで、カイト君のアイテムボックスが目當てみたいじゃないか?」
フーリの顔はにやけており、マリーをからかおうとしているのがよく分かった。
「あ、いや! そうじゃなくて!」
「大丈夫。ちゃんと分かってるから」
確かに、最初にパーティにわれた時はアイテムボックス目當てなんだろうなと思っていた。
でも、昨日賢者の森で出會ってから今まで一緒に行してきて、なくとも今はそんな理由じゃない事はよく分かっている。
優しいのだ、マリーは。きっと俺よりも長い時間をマリーと共に過ごしてきたフーリは、俺なんかよりもよく理解しているに違いない。
「ははははっ。悪いマリー、冗談だ」
「もう! まったく姉さんは!」
そう返すマリーの表は、拗ねている様でらかく、俺は二人のそんなやり取りを見ながら、のんびりと晝食を済ませた。
「さて、念の為もう一度ゴブリンを探してみよう。途中でホーンラビットが出てきたら、その時はカイト君に戦ってみて貰おうと思う」
「分かった。その時は一杯頑張ってみるよ」
折角フーリが実戦を見せてくれたんだ。俺もそれに応えないとな。それに。
「頑張って下さいね、カイトさん!」
「ああ、そうだな」
マリーも応援してくれる事だし。
「萬が一ゴブリンが見つからなかった場合だが……仕方がない。その時は潔く諦めて帰ろう」
仕方がない、とフーリは言うが、出來る事なら見つかってしいものだ。なんせこれは、俺が初めてけた依頼だ。出來れば功させたい。そう思いながら、俺達は探索を再開した。
途中見つけた解毒草はきっちり回収しながら。
「そういえば」
俺は解毒草に鑑定をかけながら、目の前にストレージ畫面を映し出した。
さっきのホーンラビットの魔石は――と、あった。
魔石には、スキル「跳躍」と出ていた。
つまり、ホーンラビットの魔石から習得出來るスキルは「跳躍」という事になる。
……しいなぁ。もっと出てこないかなぁ、ホーンラビット。
そんな事を考えていると、近くの草むらから「ガサガサッ」という音が聞こえてきた。
もしかして、ホーンラビットか!?
「また來たか。さあカイト君、すぐに武の準備を」
俺はフーリに言われる前に、既に棒をストレージから取り出して構えていた。それを見て、フーリがしだけ驚いたのが分かった。
「流石に二回目ともなると、な」
「ふっ、頼もしい限りだ」
フーリが小さく笑いながら、俺と同じく剣を構え、草むらを注視する。と、その時だった。草むらから黒い影――ホーンラビットが飛び出してきたのは。
さあて、いっちょやりますか!
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