《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十一話

まずはホーンラビットの跳躍突進(命名 俺)を回避し、そのままホーンラビットに向けてストレージを展開。そして……。

出!」

巖を弾丸の様なスピードで出するイメージで取り出す。

すると予想通り、ストレージから巖が勢いよく飛び出してきて、ホーンラビットに直撃した。

斷末魔の聲すら上げる事も出來ず、潰れた塊へと姿を変えるホーンラビット。一瞬の出來事だった。まるで通事故にでもあったかのような。……う、頭が。

とはいえ、あまり気持ちのいい景じゃないな。次からは別の出しよう。

ホーンラビットの塊と魔石、そして巖をストレージに収納し、次の獲を狙う。

次はあそこにいるゴブリン達だ。

今の音で俺の存在に気付いたゴブリン達が、こっちに向かってきている。が、足が遅い為、時間がかかっているようだ。

「この隙に、今度はストレージを二面展開してみるか」

目の前にストレージを二つ橫並びで展開するイメージで使ってみた。だが、これがなかなか時間がかかる。

なので、ゴブリンの足が遅いのは俺にとっては好都合だった。

なんとか展開し終える頃には、ゴブリンは殘り五メートル程の場所まで來ていた。

「ギリギリ間に合ったな。今度も巖でいいか」

二つのストレージから巖を同時に出するイメージで。

出!」

両面から出された巖は、まっすぐゴブリンに向かって飛んでいく。

片方は見事に命中し、そのままゴブリンを塊へと変えたが、もう片方は命中する直前にゴブリンがコケてしまい、外れてしまった。

すぐに起き上がり、俺に飛び掛かってくるゴブリン。咄嗟に棒で攻撃をけ止め、右足でゴブリンを蹴り飛ばす。

地面を二、三度バウンドし、ゴロゴロと転がるゴブリン。

なんとか立ち上がるが、ダメージが結構ったのか、よろよろとしたきになっている。

「よし、今度はこれを」

一度ストレージを解除し、今度は目の前に展開。次は串が連続で出されるイメージを頭に思い描く。要はマシンガンみたいなものだ。

それをゴブリンに向かって。

出!」

思い描いたイメージ通りに出される木の串計五十本。

いくら材質が木でも、銃弾の様な速度で出されたそれは、い皮を持たないゴブリンぐらい軽々と貫通する。それを五十発もくらうという事は。

「ハチの巣、って言葉が一番しっくり來るな」

至る所に風を空けたゴブリンは、その場で音もなく絶命していた。

自分でやっておいてなんだが、オーバーキル過ぎるだろこれ。マリーのアイスアローといい勝負じゃないか?

あっちよりは小さいが、數ならこっちが多い。と、今はそんな事どうでもいいか。

「とりあえず二の死骸と魔石、あとは巖と串も回収しておかないと。勿ないし」

あーあー、あんなに散らばっちゃって。

回収が面倒だが、仕方ないか。さっさと済ませて次に行くとしよう。

そこから更に三十分程歩くと、さっきよりも多くの魔の気配が探知出來た。

パっと見の數と、気配探知に引っかかる數に違いがあるって事は、それだけを潛めている魔が多いという事だろう。

それが、俺という人間が訪れた事による警戒心からか、それとも別の理由なのかは分からないけど。

「まあ、やる事は変わらないか」

數が増えようが、隠れていようが関係ない。俺がやる事はさっきと同じ。ストレージを使った戦闘の訓練だ。

俺は茂みに潛む魔に向かって、再び石を投げつけた。

數時間後

「何とか同時に三面までなら同時に展開出來る様になったけど、これきっつ」

出のイメージは思ったより簡単だった。というより、この使い方は銃みたいなイメージで使えるから、漫畫なんかでよく見てた分、割とイメージしやすかったっていうのが本音だ。

問題はストレージの同時展開の方。こっちは本當に難しい。

ただ展開するだけなら意外と簡単だったけど、問題は好きな場所に展開するのと、きながら展開する事。

この二つは本當に難しい。

好きな場所に展開するといっても、どのぐらいの大きさで、どこに展開するかを二つ以上考えるとなると、なかなかどうして。

同じ場所に二重に展開したり、上手く展開出來たとしても、それまでに時間が掛かり、棒で毆り倒すが早かったりする。

要は、軽く脳のキャパオーバー気味になるのだ。

きながら展開は、自分の近くに展開したまま移するのは簡単なんだが、問題は一か所に固定したままの移

「視線が釘付けになるんだよな」

展開場所を見つめながらの移になるため、周りがあまり見えなくなるから、単純に考えて危ない。

何度か「気付いたら目の前にゴブリンがいる」という狀況に陥ってしまったぐらいだ。

幸い、ゴブリンなら咄嗟の行でも充分対応出來るようになってきた為、事無きを得ているが、これがもしオーガとかだったらかなり危険だ。

と、長々と考察してみたが、要するにだ。

「単純に、並列思考……マルチタスクってやつが出來ないからだろうな」

俺ってそんなに用な方じゃないし。どちらかというと一點集中型だ。

多分何度も続けていくに慣れるとは思うけど、これは時間が掛かりそうだな。

と、そんな事を考えている時だった。

気配探知に突然大きな気配が引っかかった。

それと同時に、背後から「ズシンッ」という重低音の足音の様な音が聞こえてきた。思わずそちらを振り返ると。

「ウガァァァァッ!」

一週間程前に見た巨人、オーガがそこに立っていた。

心なしか、前回見た時よりも一回りぐらい小ぶりな気がする。

「は? ……え、何で!? 何でオーガがいきなり!?」

明らかに不自然だった。なくとも今日は気配探知を切った記憶は一切ない。

いくら魔退治に集中していたとはいえ、こんな大きい魔がすぐ近くまで來ているなら、流石に気付く筈だ。

「一何で?」

「ガァァァァ!」

「っ!?」

っと、今はそんな事を考えてる場合じゃない! 咄嗟にを落とし、オーガが橫薙ぎに振るった金棒をギリギリの所で回避した。

數瞬遅れてやってくる風圧をけ、髪のが數本はらはらと宙を舞う。

危なっ! 直撃してたらタダじゃ済まなかったぞ。

地面を蹴り、跳躍スキルで一気にオーガと距離をとる。

さて、どうしたもんか。出來れば逃げたい所だけど、流石に無理かなぁ。隠れる場所も無いし。

跳躍を連続で使い続ければ逃げ切れるかもしれない。でも、もし逃げきれたとしても、街までオーガを連れて行く事になる。

Cランク以上の冒険者が討伐隊として招集されている以上、今街へコイツを連れて行くのはかなり危険だ。

だったら、ここで倒すしかない、か。

出來るだけ近づかないようにしたい所だけど……とりあえずストレージ展開。オーガの目を狙って串マシンガンを放ってみた。

これで上手く直撃してくれれば、あっさり倒せるかもしれない。だが。

いな」

何もない空間から突然飛んできた串にオーガは驚いていたが、金棒を目の前に構える事で急所へのダメージを防いでいた。

流石に金棒には負けるか。

しかもオーガの皮はそれなりの度を持っているのか、防ぎきれなかった串が何本か命中していたが、それでもオーガのを淺く突き刺すのが限界だったようだ。

「マジかよ。ならこれはどうだ?」

今度はオーガの頭上十メートルぐらいの位置にストレージを展開し、巖をオーガ目掛けて出した。

初めてゴブリンの特殊個を倒した時に使った戦法だ。これなら。

「っ!? ガァ!」

突然出來た影に驚いたオーガは、空を見上げるのと同時に金棒を振り上げて、落下してくる巖を砕いた。

金棒に砕かれた巖の破片が飛んでくるが、正面にストレージを展開してを守る。

名付けるなら「ストレージシールド!」 と、今はそんな事言ってる場合じゃない!

「このオーガ、強い!」

ストレージ戦法を二つも打ち破られた。この分だと、正面から巖を出した所で結果は同じだろう。

なら、魔法で……!?

「ウガァァ!」

そんな事を考えている時だった。今まで一切反撃してこなかったオーガが、突然雄たけびを上げながら突っ込んできた。

咄嗟に棒で迎え撃ち、オーガが振るった金棒と鍔迫り合いになる。

「ガァ!」

強化と剛力のおかげで何とか拮抗していたが、オーガの口から突然火の玉が俺に向かって飛び出してきて、その均衡はあっさりと崩れ去る。

「うわっ!」

的にを屈めてしまった俺は、オーガに蹴り飛ばされてしまい、地面を何度かバウンドしながら転がり、ししてから止まった。

「ぐっ!」

に走る痛みに、思わずき聲を上げてしまう。

しかし、そんな事関係ないとばかりに追撃を仕掛けてくるオーガ。

俺を叩きつぶそうと振り上げられた金棒が目に映る。

あ、これ死んだ。

は思う様にかない。棒でけ止める事も、転がって躱す事も出來ない。どうしようもない、詰み。

俺は死を覚悟して、両目を瞑った。

……だが、いつまで経っても金棒で叩き潰される事はなかった。

不思議に思い、両目を開けてみると。

「危ない所でしたね」

そこには例の仮面を付けた屋臺の店主が、オーガの攻撃を片手でけ止めたまま、俺の目の前に立っていた。

え? この人本當に人間?

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