《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十四話

次の日。

宿で朝食を済ませた俺は、今日もストレージを使った戦闘の訓練をする為に、冒険者ギルドに依頼をけに來た。

昨日ナナシさんから貰った魔導。アレを使えば、昨日考えた戦い方も実現できる事は分かった。早速訓練しないと。

エレナさんに依頼書を持って行き、注を済ませてからすぐに北の平原に向かう。

さて、今日もみっちり訓練するか。しでも強くならないとな。

その頃、賢者の森にて。

「これで終わりだぁ!」

真っ赤な瞳と金髪のロングヘアーが目を惹く――フレイアが、數匹のオーガを次々と切り伏せ、最後の一匹にとどめをさしていた。

息一つしていない事から、彼にとっては準備運程度にしかならなかった事が伺える。

「ふぅ、數だけは無駄に多い。マリー、そっちは終わりそうか?」

「うん、もう終わるよ!」

マリーと呼ばれたは、青くふわっとしたロングヘアーが特徴の、まださが殘る。その外見は「こんなに戦闘なんて出來るのか」と、し不安になりそうだ。

だが、彼の周りには數匹のオーガが氷漬けの狀態で沈黙していた。

その様は、まさに氷の彫像。

するとマリーは、手に持っていた短弓で氷の彫像を一つ抜くと、その彫像は「パリィィン」と、甲高い音をたてて々に砕け散った。

そして彫像を砕いた矢は、そのままられるように、二つ目、三つ目と、次々に彫像を砕いていき、やがて氷の彫像全てを完全に砕ききった。

「相変わらずだな。お前の魔法と弓の腕は、いつ見ても心する」

「えへへ、そうかな?」

指で頬を掻きながら、照れくさそうに応えるその様は、年相応にも見える。

「ああ。私はあまり魔法が得意ではないからな。お前の魔法は充分すごいさ」

「えー? 姉さんの火魔法も充分すごいと思うけどな。今回は森の中だから、あまり派手に使えなかったかもしれないけど」

「ふっ、そう言って貰えるのは嬉しいが、やはり魔法はお前の方がすごい。私は魔法よりも、剣で斬る方がに合ってる」

「姉さんの炎も充分すごいと思うんだけど」

「確かに炎は使い勝手がいいが、場所を選ぶ。森の中だとあまり派手には使えんのがな。それに、今はこれがあるから、やっぱり剣で斬ってる方が戦いやすいよ」

そう言ってフレイアは自分の右腕に付けたブレスレットを、自らの目線の高さまで持っていく。

「あ、それが例の魔導? 剛力が使える様になったのは、確かに大きいよね」

「そうだな。本當に、カイト君には謝しないとな」

「そうだね。帰ったら改めてお禮を言わないと」

二人がそんな會話をしている時だった。

突然「グギャァァァァァァ!」という、斷末魔のびの様な悲鳴が森の中に響き渡った。

「この聲、モーヒ殿がやったようだな」

「うん。流石はモーヒさん」

二人は互いに顔を見合わせると、悲鳴が聞こえた方に向かって歩き出した。

しすると、地面に仰向けに倒れた、オーガよりも一回り程小さい鬼の魔と、モヒカンヘアーが目立つ男、モーヒ・カンテルの姿が見えてきた。

「おう、二人共無事だったか。こっちは今終わった所だ」

モーヒは拳につけた棘付きのナックルのを振り払い、肩パッドへと戻している。

普段からに付けている肩パッドは、武の役割も果たしているらしい。

「ええ。しかし、オーガキングを単獨で撃破するとは。流石は拳聖モーヒ殿ですね」

「やめてくれ。その名で呼ばれると、むずくなってくるんだからよ」

モーヒはわざとらしく腕を掻く様な仕草をして見せ、むずさをアピールしている。

「でも、思ったよりあっさり終わりましたね」

「そうだな。そろそろ他の冒険者達も集まってくる頃だろうが。それにしても、あまりにも呆気なさすぎる」

モーヒは顎に手をやり、考え込む様な仕草をする。

実は、モーヒ達討伐隊がオーガキングを見つけたのは、ペコライを出発してから二日目の朝。

森の最深部にってすぐの事だった。

オーガキングは、配下のオーガを三十匹ほど従え、ペコライの方角に向かっている所だった。

キング発見の報せをけたモーヒは、すぐに討伐隊の全員を招集。戦闘態勢を整え、背後から奇襲を仕掛けた。

結果、初手でオーガキングに傷を與え、モーヒ以外のメンバーが各自オーガの相手をし、モーヒが単獨でキングの討伐を開始。

特に危なげなくオーガキングを討伐し、後はギルドに報告するだけなのだが、どうにも違和が拭えないでいる様だ。

「モーヒさん! 今の悲鳴、もうキングを倒したんですか?」

「ちょ、ちょっと! 待ってよヴォルフ!」

モーヒが考え込んでいると、そこに狼の獣人――人狼族のヴォルフとロザリーが、後ろから聲をかけて來た。

「おお、二人共無事だったか。キングなら今倒し終わった所だ」

ヴォルフ達に気付いたモーヒは、そこで思考を一度止めてヴォルフに応えた。

「やっぱりそうなんですね! 流石はモーヒさん! 俺も早くモーヒさんみたいになりたいっす!」

「もう、ヴォルフったら。モーヒさんの前だと素直になるんだから。普段からそうだったら私も苦労しないのに」

呆れ顔でヴォルフを睨み、溜息を吐くロザリー。それもその筈。ヴォルフという男は、モーヒの前では普段と違ってとても素直になるのだから。

それは、彼にとってモーヒは目標であり、最も尊敬する人だからだ。

自分が一番尊敬する人の前で、攻撃的な態度を取る者など、そうそういないだろう。

「ははは、相変わらず嬉しい事を言ってくれるなヴォルフ。だがな、馴染に苦労をかけるのは、あまり心しないな」

「うっ、それは」

痛い所を突かれたという顔をするヴォルフ。一応自覚はあったらしい。

「そうなんですよ。もっと言ってやって下さいモーヒさん!」

「あ、ロザリーてめぇ!」

慌ててロザリーの口を塞ごうとするヴォルフ。だが、それをロザリーは難なく避ける。

「殘念でした。何年馴染やってると思ってるの?」

ロザリーが右目の下瞼を人差し指で引っ張り、舌を出す――所謂アカンベーをしてヴォルフをからかう様な口調になる。

丁度その時。

「おーい!」「もう終わったのか?」「モーヒの拳は世界一!」

と、さっきのキングの悲鳴を聞きつけた討伐隊の面々が、次々と集まってきた。

一部変なのも混じっているようだが。

「ふむ、どうやら他の冒険者達も終わったようだな」

「そうですね。ひとますはこれで終わりといった所でしょうか?」

「そうだな。々引っかかるが、一応これでオーガキングの討伐は終わりだ」

「良かった。これで街に帰れるね、姉さん」

討伐隊のメンバー全員が集まり、互いにぞの無事を確認しあっている。

これで、オーガキングの討伐も終わり。

そう三人が安堵している時だった。突然モーヒのを、半明の球が包み込んだ。

「「「「――っ!?」」」」

突然の出來事に慌てる面々。

のモーヒも急いで出しようと球を毆りつけようとしたが、その手が球れるよりも早く、モーヒの姿がこの場から掻き消える。

「どうにも暑苦しい男がいたから、強制転移を使わせてもらったよ」

突如聞こえてきた聲に、全員がそちらを振り返ると、そこにはまだ年端もいかない年が一人立っていた。

賢者の森の最深部に、年が一人で立っている。その異質な景に、誰もが言葉を失う。黒髪黒目の年。だが、彼の額には、人間ではあり得ない、二本の角が生えていた。

「子供? いや、この異様なプレッシャー。貴様は一何者だ?」

一見ただの子供に見える年から発せられる、その異常なまでの圧力に、フレイアは警戒心を最大まで引き上げて年に問う。

「僕かい? 僕はオーガキングの更に上位の存在、オーガエンペラー。その変異種。名前は「シン」だよ」

「「「「っ!?」」」」

その言葉に、その場の誰もが言葉を失う。

オーガエンペラー。それは史実の中にのみ出てくる存在で、ここ數百年の間存在自が確認されていない魔

更にその変異種ともなれば、言葉を失うのも無理はない。

「さて、今回は全部で十四人か」

シンはそれだけ言うと、他の冒険者達を見回し。

「あの方が言うには、モーヒという男以外は突出した実力者はいないらしいね。確か特徴は、変わった髪型の暑苦しい男……もしかして、今強制転移させた男がモーヒだったの?」

「ああ、そうだ。だが、舐めて貰っては困るな。我々も……」

「ああ、そういうのいいから」

なんとか答えたフーリに、シンはヒラヒラと手を振って話を遮る。

「……はぁ、まいっか。モーヒの相手はまた今度って事で。それじゃあ」

そう言うと、シンは右手を握りしめ、一番近くにいた冒険者へと一気に距離を詰め。

「ばいばい」

冒険者の顔面に毆り掛かった。

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