《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十五話

とっさの事で全く反応出來なかった冒険者は、その頭蓋を吹き飛ばされ――。

「っく……お、重いっ!」

る事はなく、間に割ってったフレイアが、シンの拳を自らの剣でけ止めていた。

「おい! 私が時間を稼ぐ! 急いで街まで援軍を呼びに行け!」

「へえ、今のをけ止めるんだ? やるねえ、お姉さん」

「ぐっ」

更に力を籠めるシン。その力は、剛力の魔導を持つフレイアを明らかに上回っており、そのがわずかに地面にめり込み始めた。

「姉さん!」

「野郎! おい、俺達も加勢するぜ!」

ヴォルフがシンに毆り掛かり、マリーが氷の矢を飛ばして攻撃すると、シンはその場から飛び退き、再び全員を見渡す。

「へえ、しは強そうなのも混じってるじゃないか。々楽しませてくれよ」

そう楽し気に言うと、今度はヴォルフへと向かって毆り掛かるシン。

それを右手でいなす様にして回避するヴォルフ。

真正面からけ止めるのは危険だと判斷したようだ。

「さあ、ここは私達が食い止めます! あなたは早く街へ!」

ロザリーが腰にはめた鞭を手に取り、冒険者を庇う様に前に出る。

「あ、ああ、分かった! すぐに戻るから、死ぬなよ!」

その冒険者はそれだけ言うと、街へ向けて兎の如く駆けだした。

「彼の「逃げ足」なら、街まで十分もあれば著く筈。それまで、何としても食い止めないと」

走り去る冒険者を見送りながら、呟くマリー。シンとの死闘が今、始まる。

折角朝から冒険に出たのだが、今日は早めに切り上げて帰ってきた。

なんだか嫌な予がしたからだ。蟲の知らせとでも言うのだろうか? 突然ゾワッとした覚が全を駆け抜けたのだ。

まるで、自分の中から何かが抜け落ちるかの様な覚とでもいうのだろうか? こういう勘には素直に従った方が良いと、経験で分かる。

そのまま街の壁沿いを門に向かって歩いていると、賢者の森の方から一人の男が、ペコライに向かって凄い速さで駆け抜けていくのを目撃した。

それだけならそこまで問題はないのだが、その冒険者には見覚えがあった。確か討伐隊の一人だった筈だ。

そして今の狀況に、激しい既視じた。

これは理屈じゃない。気付いたら俺は森へ向かって駆け出していた。

ただの勘違いかもしれない。もしかしたら俺の記憶違いで、あの男は討伐隊とは全く関係ない人かもしれない。

それでも走る。勘違いなら別にいい。ただの笑い話になるだけだ。

でも、もし勘違いじゃなかったら?

そう考えると、自然と足に力がる。とにかく急いで賢者の森に行かないと。

「お待ちなさい、近衛海斗さん」

「うわぁ! びっくりしたっ!」

俺が全力で走っていると、突然隣を並走する形でナナシさんが現れたので、つい素で驚いてしまった。

いや、この人神出鬼沒過ぎるだろ。そもそもどこから出てきたんだよ。

「失禮、驚かせてしまいましたね」

「本當ですよ! 心臓に悪い」

「失敬失敬。あなたにアドバイスをと思いまして。このままでは大変な事になるかもしれないので」

「え、それってどういう? それにアドバイス?」

ていうか大変な事って、やっぱりみんなが危ないって事なんじゃ。

「すみません、急ぎますんで!」

折角會えたが、今はそれより優先する事がある。

何が出來るか分からないけど、一刻も早くみんなの所に向かわないと。

「ですから、お待ちなさい。そんな速度じゃ手遅れになりますよ」

「え?」

ナナシさんの口から出た言葉に、俺は思わず足を止めた。

やっぱりこの人、今何が起こってるのか全部知ってるんじゃないか? それかもしくは……。

「そんな怖い顔しないで下さい。私はこの件に決して関與していません。もし私が関與しているとしたなら、あなたにアドバイスなんてしに來るわけないでしょう? 私はただ、今何が起きているのかを知ってるだけです」

ナナシさんが関わってるんじゃないかと疑ったが、どうやら違うらしい。確かに、もしナナシさんがこの事態を引き起こしているのなら、このタイミングで俺に接してくる理由が無いか。

でも何が起こってるのかは知ってる。これは流石に怪しくないか?

……まあ今はそんな事気にしている余裕はないか。

「でも、それなら何で?」

「言ったでしょう、あなたにアドバイスしに來たと」

確かに言ってたけど。

「いいですか。スキルとはイメージ。そして、あなたは現代知識を持った日本人です。折角火魔法をお持ちなのに、ただ燃やすだけに使うなんて勿ないでしょう?」

まあ、確かに。火は何かを燃やす以外にも使い道があるけど……は!

「そうか、エンジンだ!」

「理解出來ましたか?」

「はい、ありがとうございます!」

何で今まで気付かなかったんだ。火が使えるならエンジンみたいな力としても使えるって事じゃないか!

そうと分かれば。

「まず、気配探知」

出來るだけ広範囲の気配を探る。対象は人間。

數十秒程経った時だった。

「いた、人の気配。このまま真っ直ぐか」

距離はここから大十キロぐらい。そこで、人の気配が十人以上、そして得の知れない気配が一つ。その気配がく度に、人の気配が一つずつ小さくなり、今にも消えてしまいそうになっている。

これは本當に不味そうだ。誰も死んでないといいけど。

「けど、場所さえ分かればこっちのもの! ナナシさん、ありがとうございました!」

「いえいえ、それでは私も一緒に……え?」

俺はストレージから活化の指を取り出して嵌める。

すると、全に力と魔力がみなぎり、が軽くなる。その狀態で両手を地面へと向けて。

「人間ロケット!」

両手から炎を噴するイメージで魔力を籠める。両手から吹き出す炎。それが推進力となって、一気に加速する。その速度は車なんか目じゃない程の速度。

一瞬でトップスピードまで持って行き、まっすぐに上空に飛び上がる。

空から見ると、目視で分かる程の禍々しい気配が、森の最深部付近で渦巻いている。

「あそこか、よし!」

今度は両手を後ろに向け、炎を噴する。

「いっけぇぇぇぇ!」

目指すはみんなのいるあの場所。障害がないから直線距離。しかもこのスピードだ。

一分もかからず辿り著くだろう。

俺は一心不にみんなの元を目指した。

「……えぇ、そういうつもりで言ったんじゃなかったんだけどなぁ」

ナナシさんが地上で何か喋っていた気がするが、この距離では聞き取れる筈もなかった。

「さあ、殘るは君達だけだ」

強い。

私とロザリーちゃんの魔法は、シンが展開している障壁に全て阻まれ、姉さんとヴォルフさんが接近戦を挑んでも、まるで後ろにも目があるんじゃないかと錯覚してしまう程的確に躱されてしまう。

そしてシンの攻撃は、剛力の魔道を持つ姉さんでも、一瞬だけけ止めるのがやっとな程の威力を持っている。

距離をとっても、近づいても隙が無い。

そんな狀態に、仲間たちは一人、また一人と倒れていき、とうとう私達四人だけとなってしまった。

まだ十分程しか経っていないのに、だ。

その上、シンのあの表。まだ余力を殘しているとみて間違いない。

既に私達は息も上がり、魔力もほとんど殘っておらず、満創痍の狀態。対してシンにはまだまだ余裕がある。勝てる見込みなんてほとんど無い。

「んー、もう終わり? 大した事なかったなぁ」

見え見えの挑発。普段なら聞き流す事も出來たのだろうけど。

「くそっ! この化けが!」

「ヴォルフ、ダメ!」

その挑発に乗ってしまったヴォルフさんは、ロザリーちゃんの制止も聞かずにそのままシンに突っ込んでいってしまった。

その攻撃をシンは躱さずに障壁で防ぎ、逆に隙だらけになったヴォルフさんのにカウンターを叩きこんだ。

「がはっ」

シンの一撃をモロにけ、ヴォルフさんは勢いよく吹き飛ばされ、大木に背中から叩きつけられてを吐き出した。

「ヴォルフ 」

ロザリーちゃんが急いでヴォルフさんに駆け寄る。

そんな二人を守る様に、私はシンの前に短弓を構えて立ち塞がる。

「へえ、あの二人を守るんだ? そんな事しても意味ないと思うよ? どうせ死ぬんだし」

「さあ、それはどうでしょう? まだ分かりませんよ」

私は一杯挑発する様に、ニヤリと笑みを浮かべた。そんな私が癇に障ったのか、シンの表がわずかに歪む。

「あのさあ、いい加減面倒なんだよね。そろそろ終わりにしたいんだよ!」

「そうか、なら終わりにしよう」

「っ 」

背後から聞こえた突然の聲に、シンが後ろを振り返る。

そこには上段に剣を構え、今にも振り下ろそうとしている姉さんの姿があった。

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