《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十六話

そう、私達はこの瞬間を待っていた。シンが隙を曬すこの一瞬を。いくらシンといえど、油斷しているこの狀態で、背後にまで障壁を張る余裕はない筈だ。

シンの背後には、剣に炎を纏わせた姉さんの姿がある。この一瞬の為に、私達三人で必死に隙を作った。

そう、全てはこの一撃の為!

シンは反的に躱そうとするが、そうはさせない! シンの周囲を氷で囲い、その逃げ道を塞ぐ。

いくら障壁で魔法を防ごうとも、その周囲に氷を張り巡らせる事ぐらいは出來る。

「いっけえ、姉さん!」

「はぁっ、炎 」

姉さんの渾炎が、シンを捉える、

間違いない。それは今まで見てきた中でも、最高の威力だった。

これなら絶対にシンを倒せた筈!

「何っ!?」

「君達なりに一杯知恵を振り絞ったんだろうけど、殘念でした。障壁は常時、全方位に展開出來るんだよね」

だが、煙が晴れたそこには、無傷で不敵な笑みを浮かべるシンの姿があった。

「ほら、お返しだよ」

隙だらけの姉さんに向かって拳を突き出すシン。

それを姉さんは辛うじて剣でけ止めたが、その凄まじい威力に吹き飛ばされ、途中で巖にぶつかって倒れ込んだ。

「さあ、殘るは君達魔法使いだけだ」

私とロザリーちゃんを見ながらシンが告げる。

既に蟲の息のヴォルフさん。何とか致命傷は避けたみたいだけど、既に戦える狀態にない姉さん。そして、ヴォルフさんに必死に治癒魔法をかけているロザリーちゃんと、唯一まだ戦える私。

でも、私一人でどうにか出來る相手じゃない事は、既に嫌という程理解している。

「くっ」

私は思わず一歩後退った。その行為に、何の意味も無い事なんて分かっていながら。

「さあ、これで終わりだ」

ゆっくりと近づいてくるシン。

脳裏に「死」という言葉が浮かんでくる。

「逃げろマリー! お前一人で勝てる相手じゃない!」

自分も重傷で、人を気にする余裕なんかない癖に、それでも私に逃げろという姉さん。

まったく、姉さんは昔からそうなんだから。

私は短弓の弦を引き、そこに氷で作った矢を構える。

「私は諦めません。最後まで戦います!」

シンに向けて氷の矢を數本放つが、それはやっぱり障壁によって防がれる。

「はあ、全く理解出來ない。どう足掻いても君に勝ち目はないのに。何故抵抗するんだい?」

シンの問いかけを無視し、殘る魔力を振り絞って放てるだけの魔法を放つ。

例えそれが無駄だとしても、私は攻撃の手を緩めない。

魔法に紛れさせて矢も放つが、それは全てシンの障壁に阻まれる。でも、それでも構わない。

……この気持ちを、魔なんかに理解できる筈がない。

小さい時から私を守ってくれていた姉さん。どんな時でも傍にいてくれた姉さん。その姉さんを守るためなら、私は例え勝ち目がなくても、どんな敵にだって立ち向かって見せる。

だって私達は。

「姉妹だから」

「マリー……バカ! もういいから、逃げるんだ!」

姉さんのび聲が聞こえてくるけど、それは聞けない。

私は絶対に逃げない!

「ごめんね、姉さん」

姉さんに一言謝る。多分、もう謝れなくなるから。

既に手持ちの矢は全て打ち盡くし、魔力も底をついた。殘るはこの杖ただ一つ。

「ふーん、あっそ。じゃ、さっさと死んじゃいなよ」

シンが私の目の前まで迫り、その拳を構えた。

死を覚悟し、せめて直撃は避けようと杖を構え、両目を瞑って歯を食いしばった。すると、私のこれまでの人生の記憶が走馬燈の様に流れてきた。

貴族家の四として生まれた自分。

どうせ將來は家を出る事になるからと、姉さんと始めた魔法と戦闘の訓練。

ペコライの街で冒険者になった時。初めて依頼を達した時。

そして、つい先日出會った不思議な人、カイトさん。

……ああ、やっぱり死ぬのは怖いな。

「オイ椎茸、一緒に食べたかったな」

そう呟いた時だった。

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 誰か止めて! け止めてぇ!」

聞き覚えがある聲が空から聞こえてきたと思ったら。

「は? へぶっ!」

シンの間の抜けた聲と「ドゴッ」という鈍い音が聞こえてきた。

慌てて目を開けると、そこにはシンの顔に、見事なドロップキックを放った狀態のカイトさんの姿があった。

「……え? 障壁は?」

私の口から出てきた言葉は、自分でも分かるぐらい間の抜けたものだった。

「いやいやいやいや、ミスった! 勢いつけ過ぎた!」

一分もかからないって言ったけど、その時點で気付くべきだった。

あの距離を一分もかからないって、一どんな速さだよ! なんか地上の景凄い速度で流れていってるし。

あ、ヤバい。人影が見えたけど、そんなのに構ってる余裕はない。このままじゃ皆の元に辿り著く前に人のミンチになってしまう! なんとかしないと……いや、無理だろこれ。

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 誰か止めて! け止めてぇ!」

どうにか制を整えようともがいたが、結果は頭と足の位置がれ替わっただけで、全く意味がなかった。

そしてそのまま地面に衝突……は、しなかった様だ。まず、なんだか妙なの壁みたいなを踏み、それが良いじのクッションになった。

次に、これまた良いじのらかさのボールみたいなを踏んだので、それを踏み臺に、跳躍スキルを使って一息に跳躍。

最後にクルクルと回転しながら地面に著地し、両手を上げてまっすぐ背筋をばして直立。

「十點!」

オリンピック選手も顔負けの著地蕓を披した。

いや、冗談めかしてみたけど、本気で危なかった。俺の、よく無事だったな。これも強化のおかげか?

「カイトさん!?」

そして、突如背後から聞き覚えのある聲が聞こえてきた。

「マリー! 無事だったのか!」

良かった、生きてた!

いや、よく見ると全泥だらけで、服もそこかしこが破れてが滲んでいる。足元はフラフラでおぼつかなく、息も上がっていて今にも倒れてしまいそうだ。

創痍、という言葉が頭に浮かんできたが、まさしくその通りだと思った。

「とにかく、コレを飲んで!」

俺はス慌ててトレージからポーションと魔力回復薬を取り出し、それをマリーへと差し出した。

一応街を出る前にも渡してあったが、この様子からするに、恐らく使ってしまったのだろう。

「あ、ありがとうございます。って、そうじゃなくて! 何でこんな所に來ちゃったんですか! 街で待っていて下さいって言ったのに!」

「え、いや、それは……みんなの事が心配で。それにナナシさんが「手遅れになる」なんて言うから」

「ナナシさん?」

あ、そうか。そういえばマリーはまだナナシさんの名前を知らないんだっけ?

「ほら、あの仮面の店主さん、覚えてるだろ? あの人だよ」

「ああ、あの人ですか。って、だからそうじゃなくて!」

えー、マリーが聞いてきたんじゃん。

「とにかく、ここは危険ですから、今……す、ぐ……」

「え? お、おい、マリー!?」

突然倒れ込んできたマリーを慌てて抱き留め、聲をかけた。

「す、すみません。上手く、力が、ら……なくて」

「そんな事いいから。ほら、ポーションだ」

ストレージから新しくポーションを取り出し、マリーの口元に持って行くと、弱々しいながらも、ちゃんと飲んでくれた。

「んくっ。はぁ。すみません、助かりました」

ポーションを飲んで幾分か調子が良くなったのか、マリーは俺の腕から離れ、一人で立ち上がった。

良かった、もう大丈夫みたいだな。

改めて周囲を見回してみて気付く。

そこら中に橫たわる討伐隊の面々。その全てが蟲の息の様だ。なんか一人見覚えのない年が混じっているけど。

しかも、よく見ると遠くにフーリが倒れているし、近くの大木の下には、一目で重傷だと分かるヴォルフと、ポーションをヴォルフの傷口にかけているロザリーさんの姿があった。

これを全て、オーガキングが……。

俺はストレージにってるポーションをありったけ取り出し、地面にまとめて置くと、マリーの方を向いた。

「これをみんなに。俺はオーガキングを探すから」

「え? いや、あの、カイトさん?」

マリーが何か言おうとしているが、恐らく俺を止めようとしているのだろう。

「止めないでくれ、マリー。みんなをこんな目にあわせたオーガキングを、俺は許せない!」

「いえ、そうじゃなくて」

一歩間違えば、みんな死んでたかもしれないんだ。このまま放っておく訳にはいかない!

「大丈夫、一応策もあるから」

「ですから、違うんです! オーガエンペラーは……シンはさっき、カイトさんが蹴り倒してしまったんです!」

「へ?」

我ながら隨分間の抜けた聲が出たと思う。

蹴り倒した? 俺が?

しかも、オーガキングじゃなくて、オーガエンペラー? あ、もしかして、さっきのいいじのクッションがオーガエンペラーだったりしたのか?

うわぁ、やらかしたかなぁコレは。いや、むしろお手柄か?

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