《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十七話

「……みんなにポーションを配ろうか」

「そうですね。急いでみんなを回復させて、態勢を整えましょう。せめてモーヒさんがいてくれれば」

そういえば、あの個の塊みたいなモーヒさんの姿がさっきから見えない事に気が付いた。

「マリー、モーヒさんはどこに?」

「それが、オーガエンペラー――シンの転移魔法でどこかに飛ばされてしまって。一どこに飛ばされたのか分からないんです」

マジか。それって結構不味いんじゃなかろうか?

「くっ、よくもやってくれたね!」

「「っ!?」」

突然響いた子供の聲に振り返ると、さっき見覚えが無いと思った年が、ヨロヨロと立ち上がっていた。

こ、こいつは!

「……誰?」

「君は何を聞いてたんだい? まあいい、君が誰であろうと、僕がやる事は変わらない。君もまとめて始末してあげるよ!」

言うと同時に俺との距離を一瞬で詰めた年が、右手を振り上げて毆り掛かってきた。それを反的に両腕を差させて防ぐ。

「危なっ!」

そのまま弾き返そうと思ったのだが。

「え? 重っ!」

この小さなのどこにそんな力があるのか分からないが、とんでもない力だ。

とにかく一度振り払おうと、右足で蹴り飛ばそうとしたが、俺の蹴りが當たる前に、年は慌ててその場から飛び退いた。

「え? お兄さん、僕の攻撃をけて反撃する余裕があるの?」

「はあ? 何言ってるんだ? それより! いきなり毆りかかってくるとは何事だ!」

どんな教育をけているんだ、この年は! 常識がないのか! 常識が!

そんな事を考えていると、マリーの慌てた聲が聞こえてくる。

「カイトさん、離れて! そいつがオーガエンペラーです!」

年に杖を構えたまま俺にそう言うマリーは、冗談を言っている風には見えなかった。

という事は……え、マジ? この年がオーガエンペラー? 噓だろ? どう見ても子供にしか見えないぞ。

「なあ、お前本當にオーガエンペラーなのか? 全然そんな風には見えないけど?」

ここには禍々しい気配をじて、文字通り飛んできたんだけど、この年からは全然そんなものをじない。何かの間違いでは?

「そうかい? だったら、これでどうかな?」

年がそう言って不敵な笑みを浮かべると、途端に周囲の空気が変わる。

……これだ、俺がじた禍々しい気配は。

近くでじて初めて分かる。これは想像以上に重い。

「理解したみたいだね。そう、僕こそがオーガエンペラー、その変異種だよ」

「……どうやらそのようで」

さて、どうするか。先手必勝で毆り掛かるか、それとも様子を見るか。

どっちにしても、一つだけ確かなのは。

「マリー、急いでみんなの回復を。俺が奴の相手をしている隙に」

俺が棒を取り出しながら言うと、マリーは顔を左右に振り。

「ダメです! 一人で敵う様な相手ではありません。せめて二人で戦いましょう!」

そうだな。確かにそれがいいのかもしれない。でもなぁ。

「敵さん、めっちゃ俺の事見てるし、今なら俺がコイツの相手をしている隙に、確実にみんなを回復させられると思うんだ。だから、俺が相手してる間に、みんなを回復させて、みんなで戦った方が勝率高いと思うけど」

「そ、それは……」

「ねえ、いつまで話してるの? お兄さん結構強そうだし、早く戦いたいんだけど」

どうやらあいつもそろそろ我慢の限界みたいだな。

「じゃあ、任せた!」

「あ、ちょっと! ……もう、死なないで下さいよ!」

マリーに任せると同時に、俺は地面を蹴ってオーガエンペラーとの距離を一気に詰める。

先手必勝! 棒を上段に構え、力一杯振り下ろす。

「あはっ。やっと來たね! 僕の名前はシン。お兄さんの名前は?」

「近衛海斗だ! よく覚えておくんだ、な!」

俺が振り下ろした棒と、オーガエンペラーの拳が正面からぶつかり合った。

さあ、ここが正念場だ。

「ロザリーちゃん、このポーションも使って」

私は両手に持てるだけポーションを持って、一番近くにいたロザリーちゃんとヴォルフさんに駆け寄った。

「あ、ありがとう、マリーちゃん」

私からポーションをけ取り、それをヴォルフさんの全にかけ、ロザリーちゃんは再び治癒を再開した。

両手から淡い緑を放出し、ヴォルフさんの全にそれを浸させていく。

使い手がないと言われている、治癒魔法だ。

「ありがとう、マリーちゃん。とりあえず、もう心配はない筈。多分すぐに目を覚ますと思う」

「そう、良かった」

今日だけで二本飲んだけど、カイトさんが分けてくれたポーションは、普通のポーションよりも効き目が強い。

「本當、すごい効き目よね。このポーション」

「うん、一どこで手にれたんだろう?」

こんなを持っているなんて、カイトさんは本當に謎が多い。

「さあ、マリーちゃんはフーリさんの所に行ってあげて。私は他の人達にポーションを配ってくるから。これを持って行けばいいんだよね?」

ロザリーちゃんが指差しているのは、さっきカイトさんが置いて行ったポーションの山。しかも、よく見たら魔力回復薬まで混ざっている。

本當に、どこで用意してきたんだろう?

「うん、じゃあそっちはお願い。私も姉さんを回復させたらすぐ合流するから」

でも、今はそんな事より、出來るだけ早くみんなを回復させないと。こうしている間も、カイトさんは戦ってるんだから。

私はロザリーちゃんと一旦別れ、し離れた所で倒れている姉さんに駆け寄り、ポーションを手渡した。

「姉さん、大丈夫? 遅くなってごめん」

「ああ、大丈夫だ。それより、とんでもない事になったな」

け取ったポーションを一息に飲み干した姉さんは、まだ完全に傷が癒えていないのか、足元がおぼついていない。でも、それでも一人で立ち上がれる程度には回復したみたいで安心した。

良かった。ヴォルフさんと姉さんが一番重癥だったから心配してたけど、この分なら心配無さそう。

それに、これなら他の人達もすぐに回復する筈。

「突然カイト君が空から降ってきた事にも驚いたが、この景にも驚かされる。まさかあのシンと互角に打ち合えるとはな」

「え?」

シンと互角?

その言葉に、私はカイトさんの方を振り返ってみた。

するとそこには、棒片手にシンと激しい接近戦を繰り広げている、カイトさんの姿があった。

「あはっ。すごいすごい! この僕とここまで打ち合える人間がいるなんて!」

「ああ、そうかい。こっちはさっきから必死だけどな!」

シンが拳を振り上げ、顔面目掛けて毆り掛かってくるが、棒を盾にする事でそれを防ぐと「バキッ」という音と共に、棒が真っ二つに割れてしまう。

あ! 俺の棒!

「あーらら、折れちゃった。やっぱりそんな武じゃ僕の攻撃には耐えられないか」

まるで分かり切っていた事だとでも言いたげなシン。

いやまあ、流石に俺も折れるんじゃないかなぁとは思ってたけど。でも、実際に折れるとショッだな。

「さあ、どうするのお兄さん? お兄さんの武、壊れちゃったけど」

すぐに追撃してこず、こうやって尋ねてくる辺り、シンにはまだ余裕がじられる。

くっそ、こっちは全然余裕なんてないっていうのに。

「どうするっって? こうするのさ」

俺はストレージで新たに棒を作り、それを取り出す。

素材さえあれば、棒なんていくらでも作れる。

たかが一本割られた程度どうという事はない。

「へえ、面白いね。アイテムボックスか。まさかそんな使い方してくるなんて」

何か勝手に勘違いしている事から、シンもストレージについては何も知らないらしい。

ならそれを最大限利用しなくては。

「それじゃあバトル続行と行こうか、お兄さん!」

シンが再び毆り掛かってきて、それを迎撃する俺。

さあ、どうやってシンを倒そうか。

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