《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十八話
シンとの戦闘は一進一退の攻防が続いた。
シンの拳を躱しては、俺が棒で毆り掛かる。それを防しては、シンが棒を割って攻撃してくる。それを腕でけ止めながら、新たな棒を作ってはそれで毆り返す。
俺もシンも一歩も引かない
と、その時だった。
「お待たせしました、カイトさん!」
「私達も加勢するぞ!」
背後から聞こえてくるマリーとフーリの聲。どうやら上手く時間を稼げたらしい。
俺とシンの周りを、さっきまで蟲の息だった討伐隊のメンバーが、各々自分の武を構えた狀態で取り囲んでいる。
「また君達か。君達程度じゃ束になっても僕に敵わないってまだ分からないの? 雑魚の分際で、僕とお兄さんの勝負に水を差さないでしいな」
いや、雑魚っていうけど、その人達みんな俺よりランクが高いベテラン冒険者だぞ?
「よくやった、ルーキー! 後は俺達に任せな!」
シンの後方からヴォルフの聲が聞こえてきた。そっちを見ると、さっきまで瀕死の狀態だったヴォルフがロザリーさんと共にシンを取り囲む冒険者のの中にいた。
「だーかーら! 君達じゃどう足掻いても僕には勝てないって! 何度も言わせないでよ全く」
「ああ、確かにさっきまでの私達じゃ、お前には勝てないだろうな。だが、今は違う。カイト君のおかげで、お前の攻略法も見えてきた。それに、直にペコライから増援も駆けつける」
「……何だって?」
フーリの自信たっぷりの笑みに、流石のシンも表を変えた。
さっきまで一方的な狀況だった相手が、こうも自信に満ちた表をしているのだから、それも仕方ないのだろう。
それにしてもフーリ、さっきの俺とシンの戦闘でもうシンの弱點を見つけたのか。流石は炎の姫。
「みんな、さっきも言った通り、奴は攻撃の瞬間には障壁を張れない! 奴の攻撃の瞬間を狙って、カウンターを叩き込め!」
「「「おうっ!」」」
フーリの攻略法は至ってシンプルなものだった。確かに、シンはさっきから俺の攻撃を躱したり防いだりしてはいるが、障壁で防がれた事はまだ一度もない。
その言葉に、他の冒険者達は気合をれる様に応え、シンに攻撃を開始しようとした。だが。
「……はぁ。勘違いも甚だしいとは、まさにこの事だね」
その呟きと共に周りの討伐隊のメンバーが、まるで見えない壁に押しのけられるように遠ざかっていく。
「な、何だこれは!?」
「何か見えないものに――お、押される!」
それはフーリとマリーも例外ではなく、他の冒険者同様、二人も遠ざかっていった。
何だ、一何が起こってる?
「まあ、こんなくだらない理由で、今後邪魔がっても面倒だし。結界を張らせて貰ったよ」
結界? そんなものも張れるのかこいつは。
慌てて周りを見渡すと、俺とシン以外はまるで見えない壁に阻まれるかのように、俺達に近寄って來れないでいた。
「ちっくしょう、何なんだよこれは! 奴に近づく事すら出來ねえじゃねえか!」
「落ち著いてヴォルフ! 今は焦っている場合じゃないわ!」
「炎!」
「カイトさん、待っていて下さい! 今この結界を破壊しますから」
「「「「おぉぉぉぉっ!」」」」
討伐隊のみんなが各々結界を破壊しようと攻撃しているが、殘念な事に結界はビクともしていない。
「無駄だよ。僕の障壁さえ破れなかった君達じゃ、この結界は破れない。大人しくそこで見ている事だね」
シンはまるで路傍の石ころでも見ているのではないかと思う程、討伐隊のメンバーに興味を示さなかった。
そして改めて俺に視線を向けると。
「待たせてごめんね、お兄さん! さあ、さっきの続きといこうじゃないか!」
シンは本當に楽しそうに、俺に話しかけてくる。
つまりシンにとって討伐隊のメンバーは、自分の遊びを邪魔する目障りな存在でしかなかったって事か?
「……そんなに期待されても、俺はそんなに強くはないぞ?」
「またまた。僕が気付かないとでも思ったの? お兄さん、まだ何か隠してるでしょ?」
シンの言葉に心ドキッとした。確かに俺にはまだ隠し玉がある。でも、アレをやるの、キツイんだよな。
頭も痛くなるし。
でもまあ、この狀況で出し惜しみする理由もないか。このままじゃ勝ち目は無いし。
俺はストレージから、活化以外の殘り二つの魔導「筋力強化」と「演算能力強化」の指を取り出し、それを右手にはめる。
途端にクリアになる思考。
空間魔法を使い、結界の空間をでじ、正確に把握する。
筋力強化を使い、全の膂力を増加。
細胞を活化させて再生能力を上げ、魔力と筋力を活化させる。
「あはっ。空気が変わったね。これでもっと面白くなり――っ!?」
「油斷するなよ。今の俺は、さっきまでとは比べにならないぞ」
正面にストレージを展開し、挨拶代わりに小石をシン目掛けて出し、その頬を薄く切り裂く。
頬を切り裂く。ただそれだけの行為に、シンは驚愕の表を浮かべていた。
「……お兄さん、今一何をしたの? 僕の空間把握能力でも、何が起きたのか理解出來なかったんだけど?」
「別に。挨拶代わりに小石を飛ばしただけさ」
俺が答えると、シンが驚愕に目を見開いた。
そして気が付くと、さっきまで結界を破ろうとして響いていた衝撃音が、いつの間にか止んでいた。
何故かは分からないが、丁度いい。俺は一度マリーの方に向き直り彼の名を呼ぶ。
「マリー」
「……え? あ、はい」
「安心してくれ、すぐに終わるから」
手短に一言、それだけを告げて、再びシンに向き直る。
「へえ、舐められたものだね。すぐに終わる、か」
「ああ、そうだ。すぐに終わる」
俺の言葉が気にらなかったのか、シンの顔に初めて不快のが浮かぶ。
「ああ、そうかい! だったら試してみなよ、人間風が!」
シンは地面を蹴り、俺との距離を一瞬で詰め、そのまま毆り掛かってきた。
毎度毎度蕓のない。
俺はそれを棒でけ流しながら弾き、シンの無防備な、その鳩尾に膝蹴りを叩き込む。
「がっ!」
息を詰まらせ、をくの字に曲げて苦しむシン。
だからといって、攻撃の手を緩めはしない。
「ストレージ多重展開」
一度距離を取り、シンの周りに合計十のストレージを展開する。
シンは未だに苦しんでいる。
「串マシンガン、出」
「――っ! しょ、障壁展開!」
俺の聲に反応し、シンは反的に障壁を張ったみたいだ。俺が出している串マシンガンは、その全てが障壁に阻まれている。
「あれが噂の障壁か。確かに厄介だな。攻撃が通らない。」
「くそっ! 何なんだこれは! 一どうやって攻撃しているんだ!」
シンが何かんでいるが、とりあえず無視しておく。
そういえば俺がここに突っ込んだ時、足に変ながあったけど、もしかしてアレも障壁だったのか?
だとしたら、俺は一回障壁を破ってるって事だよな?
「つまり、あの時の威力以上の攻撃を加えれば、ダメージは通るって事か」
あれ以上……さてどうするか。
あ、串の在庫が切れそうだ。木材から追加で二百本程木の串を作って、ついでに落ちてる串をストレージに回収、と。
「いい加減、舐めるなぁ!」
串マシンガンのれ打ちから抜け出し、俺に向かってシンが特攻して來たが、それを背面にストレージを展開し、その中にる事で躱す。
俺がこの指を貰ってから試した使い方。自分の収納だ。
「――なっ、消えた!?」
傍から見ると、俺が突然消えたように見えるのだろう。案の定、シンも焦って周囲を見回している。
そのまま上空にストレージを展開し、そこから自分を取り出し、空間魔法で足場を作ってシンを見下ろす。
「っ! そこか!」
俺の存在に気付いたシンは、両足をグッと踏み込み、力を溜めて一気に開放。俺に向かって跳躍してきた。
「あ、そうだ」
俺とシンの間にストレージを展開。そこから大巖を出してみる。
「なっ! こんな、ものでぇ!」
とっさの出來事だった筈なのに、シンは大巖を自らの拳で砕く事で回避していた。
「おお、すごいなアイツ。あ、落ちてった」
途中で加速を失い、そのまま地上まで落ちていくシン。
今のも躱すか……參ったな。出來ればコレは使いたくなかったんだけどな。
試しに結界を側から思いっきり毆りつけてみるが、結界はビクともしない。
ダメか。
「はっ、この結界はあの方から頂いた魔導で展開してるんだ。その程度の攻撃で破る事なんて不可能だよ!」
「あの方?」
あの方って一誰の事だ? シンに聞いてみるかとも思ったが、聞いた所で正直に答えるとは思えない。
これ以上は時間の無駄だな。
ストレージで水を水素と酸素に分解。それを結界に放出する。
結界の強度は充分な筈。それはシンの発言からも分かる。後は。
「皆さん! 今から大技を使うので結界から離れていて下さい!」
念の為、討伐隊のメンバーに結界から離れる様に忠告する。もしもの時の保険だ。
「はっ、何を言うかと思えば。大技? どんな技か知らないけど、この結界が破れるとでも?」
いや、これが決まったら本當にシャレにならない威力になるんだよ。お前は知らないだろうけど。
だが、化學が地球程発展していないこの世界で、水素発なんて言っても分かる筈もないか。
ただまあ、俺が今回使うのはただの水素。流石に水程の威力は出ない……と思う。
「皆さん! とにかく一度ここを離れましょう!」
俺の発言に、最初は訝し気な視線を向けていた討伐隊のメンバーだが、マリー達がみんなに聲をかけ、結界の周りからみんなが離れてくれた。
ありがとう、みんな。これで……やれる。
ストレージの水素と酸素は全て放出し終え、これで準備は整った。
地上で忌々し気な視線を俺に向けているシンに向かって、一言だけ聲をかける
「じゃあな、シン」
別れの言葉を。
俺はストレージ経由で結界の外に避難し、シンの目の前に火の玉を一つ出した。
その瞬間。
バァァァァンッ!
という重低音の発音が響き渡り、結界は一瞬にして炎に包まれ、次の瞬間結界はガラスを割ったような音と共に弾け飛んだ。
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