《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十九話
「何が結界は破れないだ。あっさり破れているじゃないか」
念の為みんなを結界から放しておいて正解だった。水素発の威力は俺の想像を遙かに超えていた。これじゃあシンは跡形も殘っていまい。
念の為気配探知を使ってみたが、シンの気配はじない。つまり。
「勝った、のか?」
そう実すると、途端に膝から力が抜け、思わずその場に餅をついてしまった。
とりあえず魔導の指は外してストレージへ。
「ふう、きつかった」
正直魔導が無かったら負けてたのは俺だ。それは間違いない。ナナシさんに魔導を貰ってて本當に良かった。
顔の汗を拭ってみると、俺の手が真っ赤に染まっている事に気が付いた。
「え? これ……え?」
思わずもう一度拭ってみた。するとまたしても真っ赤に染まる俺の手。そこで初めて、自分が鼻を流してるのに気付いた。
「あ、あれ? き、急に頭が」
理解したら、あとは早かった。暗転する視界。力が抜けていく手足。
あ、これ本當にダメなやつだ。ヤバい、死んだかも。
「カ、カイトさん!?」
マリーの悲鳴の様な聲が聞こえてきた直後、俺は意識を完全に手放した。
「――知らない天じょ……いや、知ってるわこの天井」
目を覚まして最初に目にした天井。それは俺がこの世界に來て毎日寢泊まりしていた部屋の天井だ。
そして、額に生ぬるい何か。それに気付き、とりあえず手に取ってみると。
「濡れタオル……いや、濡れ手ぬぐい?」
よく分からないが、布である事は間違いない。
濡れた布を持ったまま上半を起こし、辺りを見回してみると、思った通り俺が借りてる部屋で間違いなさそうだ。
という事は。
「ここは、賢者の息吹?」
確か俺は、シンとと死闘を繰り広げて、水素発で吹っ飛ばしたは良いものの、魔導の使い過ぎでそのままぶっ倒れた筈だ。
ぶっちゃけ死んでもおかしくないと思ってたのに、気が付いたら宿屋のベッドの上。
「どうなってんだ? もしかしてマリー達が運んでくれたとか?」
そんな事を考えていた時だった。
「そろそろタオル換しな――い、と……」
水を張った桶を両手に持ったマリーが、部屋にってきた。
あ、これやっぱりタオルで合ってたんだ。等とどうでも良い事を考えていると。
「カイトさん よかった、目が覚めたんですね!」
桶をその場で放り投げ、俺の傍まで駆け寄ってくるマリー。
放り投げられた桶は、すぐ後ろにいた人の顔面に直撃……しそうな所をギリギリ回避された。が、中の水はそうはいかない。
いやいや、マリーさんや? 水がった桶を放り投げると、中の水は零れるんですよ?
後ろにいるフーリさんにもかかってしまいますよ?
ほらほら、めっちゃ怒ってるって。般若みたいな顔してるもん。
「マリー」
「はい、何ですか?」
未だに自分が何をしたのか理解していない様子のマリー。
そんなマリーに、俺は出來るだけ優しい笑顔を作り。
「後ろ、見てごらん」
「え? うし……ろは見ません!」
言い切った!?
いやいや、今ならまだきっと間に合うって! 謝ろう、ね?
「ほう? つまりびしょ濡れにした姉に対し、お前は謝罪の一言もない、と? そうかそうか。カイト君、目覚めたばかりの所すまないが、マリーを借りていくぞ」
「え? いや、待って姉さん! 冗談! 冗談だから!」
マリーが必死に抵抗するが、それを意に介した風もなく、ズルズルと引きずっていくフーリ。
「マリー、骨は拾ってやるから」
「人を勝手に殺さないで下さい!」
フーリが扉を開け、部屋から出て行く寸前。
「おっと、そうだ。カイト君、すまないが部屋でし待っていてくれ。々話したい事があるんでな」
「ん? ああ、分かった」
それだけ言うと、フーリはマリーを連れ、部屋から出て行ってしまった。
その十數秒後。
「この愚昧がぁ!」
「申し訳ありませんでした!」
フーリの怒聲とマリーの謝罪が隣の部屋から響いてきた。
うわぁ、マリー絶対土下座してるよこれ。
こりゃ、しばらくかかりそうだな。じゃあ、その間に。
「雑巾ってあったかな?」
零れた水を拭こうと部屋の中を探してみたが、結局見つからなかった。仕方ないのでストレージで紙を作って拭き上げ、全て終わった頃に二人が戻ってきて申し訳なさそうに謝ってきた。
ちなみにマリーのおでこが赤くなっていたので、土下座をしたのは間違いなさそうだ。
「さて。カイト君、目が覚めたようで何よりだ。の合はどうだ?」
「そうだなぁ。多怠いのと、軽い頭痛がするぐらいで、他は大した事ないな」
現在俺の部屋で、フーリは部屋に置いてある椅子に座り、マリーは床に正座している。
マリー曰く「反省を態度で示す為です」だそうだ。小學生かな?
「そうか。それなら良かった。三日も眠り続けていたから、みんな心配していたんだぞ」
「三日!?」
俺あれから三日も寢てたの? 道理で頭が痛い筈だ。絶対寢過ぎだ。
「ああ、三日だ。あのオーガエンペラー討伐から、君はずっと眠り続けていたんだ」
「本當に心配したんですよ。突然大発が起こったと思ったら、カイトさんが倒れちゃうんですもん。聲をかけても何の反応も無いし」
あー、まあ実際自分でも死んだかもって思ったしな。むしろよく生きてたよな俺。
「そうか、三日か。ごめんな、心配かけたみたいで。ところで、シンの事だけど」
「ん? ああ、そうか。そうだな、それも含めて、一つずつ順を追って話していこうか」
そう言って、フーリはふうっと一息吐き。
「まずはシンだが、奴は君のおかげで無事討伐された」
「本當か? よかった」
一応気配探知で確認はしたんだけど、間違いなく倒せたか気になってたんだ。
でも、そうか。倒したのか俺。
「だが驚いたぞ。まさかあのシンを一人で倒してしまうなんて」
「そうそう、私達が束になって掛かっても倒せなかったのに」
「え? そうかな? たまたま運が良かっただけだって。偶然俺とあいつの相がよかっただけ」
「運か。……いや、そうだな。今はそういう事にしておこうか」
我ながら苦しい言い訳だと思ったが、とりあえず納得してくれたらしい。
でも、まあ。二人にはそのストレージの事を話さないといけないだろう。一緒にパーティを組んでいる以上、いつかは言い訳出來なくなるだろうし。
「でも、いくら相が良いからといっても、こんな無茶はしないで下さいね」
「マリー」
わずかにだが、マリーの聲が涙ぐんでいるのに気付いた。
まあ確かに「死なないで下さい」って言われてたのに、三日も目を覚まさなかったんだ。死ぬかもしれないと思われても不思議じゃない。
生きてたから、とか。そんな事は関係ないな。
「本當にごめん、マリー。次からは出來るだけ無茶はしないから」
「絶対じゃないんですね?」
うっ、痛い所を突かれた。でも、正直今回みたいな狀況になったら自信はない。
多分多の無茶はしてしまう気がする。
「でも、そうですね。しょうがないので、今回はそれで許してあげます。でも、本當に無茶はしないで下さいね?」
「ああ、分かった。気を付けるよ」
とりあえずマリーに納得して貰ったので、今はこれで良しとしよう。
「もういいか? マリーの言う通り。カイト君も、これからは本當に無茶だけはしてくれるなよ?」
「ああ、分かってる」
毎回こんなに心配かける訳にはいかないからな。あの魔導は出來るだけ使わない様にしよう。確かに強力なスキルだけど、流石にに染みたわ。
「さて、話の続きだが、今回のカイト君の活躍を踏まえ、君の冒険者ランクをDランクに上げる事が正式に決定した」
「え? 俺Dランクになるの? まだ一週間やそこらしか経ってないのに?」
「一人でオーガエンペラーを討伐出來る様な人が、Fランクのままな訳ないじゃないですか。むしろもっと引き上げてもいいくらいだと思いますけどね」
ええ? でも本當にいいのだろうか? たかが一週間そこらしか活してない新人が、いきなりDランクだなんて。
妬みで刺されたりしない? なんか不安なんだが。
【書籍化・コミカライズ】誰にも愛されなかった醜穢令嬢が幸せになるまで〜嫁ぎ先は暴虐公爵と聞いていたのですが、実は優しく誠実なお方で気がつくと溺愛されていました〜【二章完】
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