《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》四十話

「まあカイト君の気持ちも分からなくはないが、逆に考えてみてしい」

「逆?」

「ああ、逆だ。単獨でオーガエンペラーを撃破する様な人間が、自分と同じランク、もしくは下のランクにいるとして、普通の冒険者はどう思うか、だ」

「どうって、そりゃあ」

……あ、普通に嫌だわ。プレッシャーだとかそんな次元の話じゃねえ。

自分の存在理由すら考えるかもしれん。

「分かったようだな。そういう事だから、素直に昇級しておくんだな」

「まあ、そういう事なら」

気は引けるけど、仕方ないか。

「後は、そうだな。気を失ったカイト君をここまで運んで下さったモーヒ殿には、今度お禮を言っておくと良い」

「モーヒさんが俺を?」

なるほど。俺をここまで運んでくれたのはモーヒさんなのか。なら今度會った時にでもお禮を言っておかないとな。でも確かモーヒさんって、確か転移魔法でどこかに飛ばされたって言ってなかったっけ?

「ん? ああ、そういう事か。幸いモーヒ殿は北の平原に転移していたみたいでな。カイト君が倒れるのとれ替わりで戻ってこられたんだ」

そうだったのか。とりあえず、國外とかに飛ばされてなくて本當に良かった。

「さて、話は変わるが。カイト君、今食はあるかい?」

「え? ああ、そういえば腹が減ってきたかな」

フーリに言われて気付いたが、外は既に暗くなっており、窓からは月明かりが差し込んでいた。

「丁度いい。アミィもカイト君の事を心配していたし、顔を見せに行こうか『お兄ちゃん』」

……どうやら、アミィが俺を「お兄ちゃん」と呼び始めた事は既に知っているらしい。

まあここにはアミィもいる……ていうか、看板娘をしている宿なのだから、二人が知っていても不思議じゃない、か。

でも、そうか。アミィにも心配かけちゃったのか。だったら丁度いいし、顔を出しとくか。

「それいいね、姉さん! カイトさん、一緒に酒場に行きましょう! 実は私達も夕飯まだなんです!」

「え? あ、ああ。そう、だな?」

気の所為だろうか。なんだかマリーが妙に張り切ってる気がするんだが?

「まだ、ね。いつも酒場が閉まるギリギリまで待っていた癖に」

「も、もう姉さん! それは緒にしておいてよ!」

「はは、さっきのお返しだよ」

「もうっ!」

ん? 待ってたって……もしかして、俺が目を覚ますかもしれないと思って、メシをギリギリまで待ってたって事か?

「そんな。気にせず食べれば良かったのに」

いつ目覚めるかも分からないのに、わざわざ待たなくても。

「だって、約束したじゃないですか」

「約束?」

「帰ったら、一緒にオイ椎茸を食べましょうねって」

……そんな事の為に、わざわざ待っててくれたって事か? 目覚めるかさえ分からない俺を?

「おかげでこの三日間、オイ椎茸を一切食べてないんですよ。そろそろ斷癥狀が出そうです」

「き、斷癥狀?」

何か不穏な単語が聞こえてきたんですけど?

「ちなみに、それはどういう癥狀?」

的には、夜中にオイ椎茸を求めて起き出したり、手足が震えたりですね」

「えぇ……そんな大げさな」

ちらっとフーリの方を見ると。

「昨日は三回だったな」

「ああ、お腹空いたなぁ! 早く酒場でオイ椎茸を食べたい気分だなぁ!」

三回とは、恐らく三回起き出した、という意味だろう。フーリの疲れた顔を見るに、毎回止めるのはフーリなのだと、何となく理解出來てしまった。

だからこそ、俺には一刻も早くマリーにオイ椎茸を食べさせる、という義務がある。

「本當ですか!? ならすぐに行きましょう! この時間ならまだギリギリ大丈夫な筈です!」

俺の手を両手で摑み、グイグイ引っ張るマリー。そのまま酒場まで連行されそうな勢いだ。

「さあ、ぐずぐずしてると酒場が閉まっちゃいますよ!」

「分かった。分かったから!」

いや、まあ、別にいいけどね。マリーってたまにこういうフランクさを見せる時があるんだよな。

「さあ、姉さんも! 急ぐよ!」

「そんなに慌てなくても、別に酒場は逃げないぞ」

「逃げるよ! 時間という名の敵がいるんだから!」

どうやらマリーは本當に限界の様だ。今日はいつにも増してオイ椎茸に執著している。

そんなマリーにフーリはやれやれと溜息を吐きながら、だがどこか嬉しそうに俺達の後を著いて來た。

「アミィちゃん! オイ椎茸料理のフルコース三人分!」

酒場に著くなり、マリーはアミィに向かっていきなり注文をれていた。本當に、オイ椎茸の事になるとやたら積極的になるよな。

ていうか、この宿にそんなものあるのか? 初めて聞くんだけど。

「マリーさん、そんなウチにはありません!」

「え、無いの!?」

どうやら無いらしい。

やっぱりな。聞いた事ないと思ったんだ。

「當たり前です。ウチはただの酒場なんですよ。オイ椎茸専門店じゃないんですから――あっ!」

と、そこで初めて俺に気付いたのか、アミィは俺と目が合うと、何故かそのまま固まってしまった。

「おーい。大丈夫か、アミィ?」

幸い俺達以外の客の姿は見えないから、他の客の迷になるという事はなさそうだが。

あ、我に返ったみたいだ。

「お兄ちゃん! 目が覚めたんだね!」

満面の笑みを浮かべ、俺に駆け寄ってくるアミィ。

「ああ、ついさっきな。アミィにも心配をかけたみたいだな」

そのまま近づいてきたアミィの頭をでてやると、気持ちよさそうに目を瞑り、されるがままになっている。

アミィって、なんだか妹と似てる気がするんだよな。いや、格とか容姿は全然似てないんだけど。

何と言えばいいか。雰囲気というか、空気というか。言葉では言い表し辛いけど、とにかく何かが似てるんだ。

そんな事を考えながらも、俺の手はずっとアミィの頭をで続けている。

「あの、カイトさん。そろそろ座りませんか?」

「あ、ごめん。忘れる所だった」

「あ……」

俺がアミィの頭から手を離すと、名殘惜しそうなアミィの顔が目に映った。

いや、そんな顔をされたら、なんだか俺が悪い事したみたいじゃないか。

「まあ、今日はこのぐらいで我慢しておけ。カイト君はしばらく安靜にしないとダメだから、またチャンスはいくらでもある」

「そ、そうですね。今日は我慢します」

フーリとアミィの謎のやり取りは気になるが、今はそれ以上に気になる事が出來てしまった。

「なあフーリ。俺ってしばらく安靜なのか?」

「何を當たり前の事を言ってるんだ? 君は死にかけたんだ。いくら目を覚ましたといっても、しばらくは絶対安靜だ。當たり前だろう」

當たり前なのか。そっかぁ。

出來ればあの覚を忘れないに、ゴブリン退治でもしてかしたかったんだけど。

……いや、まてよ? しれっと抜け出せば、案外バレないんじゃ。

「カイトさん?」

「はい、安靜にしてます」

相変わらず勘のいいマリーだ。

まあ、確かにまだも怠いし、無理をしても良くないかもしれない。

それに、あまり無茶しないって約束もしたばっかりだし。

「さあ、いつまでも立ち話をしてないで、とりあえず座ろうか」

「そうだな。アミィ、注文をしたいんだけど」

「うん。ちょっと待っててね、お兄ちゃん!」

そう言ってアミィは店の奧に駆けて行った。本當に、あんなに小さいのによく働く子だ。普通アミィぐらいの年頃なら、まだ遊びたい盛りだろうに。親さんはその辺気にしないのだろうか?

……そういえばアミィの親さんってまだ見た事ないな。流石にアミィ一人で宿をやってるとは思えないし、普段はどこにいるんだろう?

そんな事を考えながら、俺達は近場の席に腰を下ろした。

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