《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》四十二話

「あはは。なんて、出來る訳が……え?」

頭を掻きながら曖昧な笑みを浮かべていたアミィは、目の前の景に気付いて言葉を失った。

それはお互いに髪飾りを褒め合っていたフーリとマリーも同様で、この場にいる誰もが、目の前の景をすぐには理解出來なかった。

だが「テーブルが燃えている」その事実に気付くと。

「はっ。け、消さないと!」

我に返ったアミィが、急いで消火しようとするが。

「任せてアミィちゃん! 水よ!」

杖を掲げて短く言葉を発し、燃え広がろうとしていた炎を、マリーがすぐに水魔法で消火した。

テーブルの周りは水浸しになったが、火事になるよりマシだろう。

「あ、ありがとうございます、マリーさん」

「どういたしまして。それよりも」

「ああ、そうだな。私も気になっていた」

二人の視線がアミィに集まる。

「いつから魔法が使える様になったんだ?」

「いや、それが私にもさっぱりで。いつもは魔法なんて発しないのに」

いつも? え、アミィっていつも魔法の練習してたのか? っと、今はそんな事気にしてる場合じゃないか。

いつもは発しない魔法が、今日は発した。正確には、俺が起きてから。

俺が寢ている間試していたか知らないが、もし試していたとしても、発しなかったのだろう。

「火魔法のスキルを習得した訳じゃないんだよね?」

「いえいえ、してませんよ! そもそもウチに魔導書を買う余裕なんてありませんし」

火魔法を習得した訳じゃない。

その魔導書というのは気になるが、今は置いておくとして。

魔法……というか、スキルを使う方法は、俺が知ってる限り二つある。

「では、一何故魔法が使えたんだ? アミィ、昨日までと今日で、何か変わった事はないか?」

「変わった事ですか? そうですね、特別変わった事は……」

一つは習得しているスキルを、イメージを固めて使う方法。

もう一つは、魔導に著けて使う方法。

これは俺が実際にシンと戦った時に使っていたから間違いない。ていうか、そのせいで死にかけたんだし。

「あ、そういえば。一つだけいつもと違いますね」

「何だ? どんな些細な事でもいいぞ」

つまり、火魔法を習得してないアミィが火魔法を使えた理由は消去法で一つしかない。

考えてみれば簡単な話だ。スキルも習得せずに魔法を使う方法。

それはつまり「魔導を使った」という事だ。

「お兄さんに貰った髪飾りをしてました」

「さあて、俺はそろそろ部屋に戻ろうかな! まだ本調子じゃないし!」

俺が席を立ち、その場からの離を試みるが。

「まあ待って下さいカイトさん。夜はこれからですよ」

「そうだぞカイト君。これからじっくり語り合おうじゃないか。主にあの髪飾りについて」

「……あ、これってもしかして、噂に聞く魔導ってやつ?」

マリーとフーリに両肩を摑まれ、俺は再び席に著かされた。二人共笑っているが、その笑顔がやたら怖い。だって目が笑ってないんだもん。

そういえばあの時、合した髪飾りには(魔)って出てた気がしたけど、あれって魔導の(魔)だったのか。

酔ってて全然考えてなかった。いやあ、參った參った。

「さあ、説明して貰おうか」

「アミィちゃんの髪飾り。あれ、魔導なんですか? だとしたら、どうやって手にれたんですか?」

詰め寄ってくる二人。どう説明しようか悩む俺。髪飾りを手に取り、珍しそうに眺めるアミィ。

俺の長い夜は、まだ始まったばかりだ!

……いや、こんな夜なら始まらなくて良かったわ。

暗い暗い森の中、月明かりに照らされた獣道を、仮面の男――ナナシは一人歩く。

シンッと靜まり返る賢者の森は、晝間とはまた違った、不気味な雰囲気が漂っている。

「さて、そろそろですね」

ナナシが獨り言を呟きながら歩いているのは、賢者の森の最深部付近。

オーガエンペラーのシンと、カイトが激戦を繰り広げた場所のすぐ近くだ。

「さて、著きましたね。ええ、分かってますよ。さっさと済ませます」

この場にはナナシ以外誰もいない。しかしナナシは、誰もいない虛空に向かって一人呟く。

まるで見えない何かがそこにいるかの様に。

「しかし、これまた派手にやりましたね。アレはどこでしょうか?」

そこは三日前に、カイトがシンを水素発で消し飛ばした場所。その心地だった。

そこで彼は何かを探し始める。

「ふむ、思ったよりも面倒ですね……お、そこにありましたか」

ナナシが視線を向けた先。そこには赤黒く、禍々しいを放つ魔石と、ドクドクと脈打つビー玉サイズの魔核があった。

「殘念でしたね。魔核さえ殘っていれば再生する。あなたの固有スキルはよく分かってますよ」

ナナシの言葉に、魔核の脈が一層激しくなった。まるでナナシの言葉に反応しているかの様に。

「あなた程度の力では、まだまだ再生に時間が掛かる事も、ね。ですが、それがあなたを見逃す理由にはなりません」

そう言うと同時に、ナナシの手に拳銃が一つ落ちてきた。カイトがストレージを使う時と同じ様に。

「それではシン、さようなら」

ナナシは別れの言葉を呟くと、迷いなく拳銃の引き金を引いた。「パン」という乾いた音と共に一発の銃弾が出され、魔核を打ち抜く。

々に砕ける魔核。それはどす黒い煙をあげて蒸発し、やがて完全に消え去った。

「これで、今度こそ終わりましたね。全く、世話が焼ける」

ナナシはそう言うが、シンに再生能力があるなど、カイト達が知る筈もない。加えてカイトは、魔導による限界を超えた戦いをした事で瀕死の狀態だった。

気付けなかったとしても、仕方が無い事だと言える。

「まあ、今はシンを倒すだけの力を発揮できただけ、良しとしましょう。さて、それでは帰ると……私も試してみましょうかね」

ナナシはそう呟くと、両手に魔力を集中し始めた。

「確か……人間ロケット、でしたっけ? ああ、合ってますか。では、人間ロケット」

ナナシは両手を地面に向け、手の平の先から炎を噴する。その推進力を利用し、一気に上空へと飛び上がった

「ふむ、これはなかなかどうして。やってみると結構面白いものですね」

空から賢者の森を見下ろしながら呟くナナシ。意外と面白かったのか、若干楽しそうだ。

「ええ、分かってますよ。長居は無用。すぐに帰ります」

またもナナシは虛空に向かって呟くと、そのままペコライの街へ向けて飛び去って行った。

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