《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》第二章 一話

私は両親の事が大好きだった。

仕事で帰りが遅いけど、帰ってくると必ず私の頭を「よしよし」とでてくれるパパ。

怒ると怖いけど、普段はとても優しい、料理上手のママ。

両親がいれば、他には何もいらない。

子供ながらに本気でそう思えるくらい、私は二人の事をしていた。

でも私の五歳の誕生日、そんなする両親が急死した。通事故だった。

あの日、私の誕生日ケーキを買いに行った帰り道、子供が急に車道に飛び出してきたのだ。慌ててパパがハンドルを切ったら、その先に停車していたトラックに運悪く突っ込んでしまった。

私は後部座席に座っていた為、運よく生き殘る事が出來たが、両親はダメだった。頭からを流し、ぐったりとしている両親。

それでも、緩慢なきで車を見回し「ひか……り、ひかり」と、か細い聲で私の名前を呼ぶパパとママ。

そして、私の姿を見つけると、その顔に安堵の笑顔を浮かべていた。

二人は私が無事だと知ると心底安心したように笑い、最後の力を振り絞る様に「ごめんね、幸せになってね」そう一言だけ言い殘し、そのまま息を引き取った。

その日私は、五歳の誕生日に両親を失い、心に深い傷を負い、一人ぼっちとなってしまった。

幸い父方の親戚に私を引き取ってくれるという人がいた為、天涯孤獨のにはならずに済んだが、當時の私にそんな事を考えている余裕など、當たり前だがなかった。

だって、五歳で突然する両親を失ってしまったのだもの。

そんな私が、ショックで心を閉ざしてしまったのは、當然の結果だったと言える。

新しい家族、家、環境をなかなかれる事が出來ず、いつしか私は誰とも喋ろうとしなくなってしまったのだ。

私を引き取ってくれた伯父さん達は、何とか私の心を開こうと々と喋りかけてくれたが、私はそれに応える事も出來なかった。

そんな気力もなかった。

そしていつしか「時間が心を癒してくれるだろう」と、伯父さん達は私に話しかける事をあまりしてこなくなっていき、私もそれを良しとしていた。

しかし、兄さんは違った。

私を引き取ってくれた伯父さん達には一人息子がいて、私にとっては義理の兄にあたる人だ。

兄さんは心を閉ざす私に、毎日懸命に話しかけてくれた。

今日は學校で何はあったとか、自分は何が好だとか、逆に私は何が好なのか? とか。

ちなみに私の好はハンバーグだ。

とにかく毎日毎日、兄さんは時間があればいつも私に話しかけてきた。

最初は何もじていなかったが、それが徐々に煩わしくじ始めた私は、一度文句を言った事があった。

自分で言うのもなんだが、結構キツイ事を言った自覚はある。

當時の兄さんは、し困った様な曖昧な笑みを浮かべて謝るばかりだった。

しだけ罪悪じたけど、これで話しかけて來なくなるだろう。

そう思っていたのに、あろう事か兄さんは、次の日からも懲りずに何度も何度も繰り返し話しかけてきたのだ

最初は呆れていた私だが、何度も話しかけられるに、しずつ、本當にしずつだが、私は兄さんに心を開いていった。

最初は一言二言、それが一文二文としずつ増えていき、気付いたら私は新しい両親とも普通に話せるまでに回復していた。

全ては兄さんのおかげだ。

そんな兄さんに、親を超えて慕のを抱くようになるのに、さほど時間はかからなかった。

幸い……幸いと言って良いの分からないが、兄はモテる方ではなかった為、彼などまともに出來た事はなかった。おかげで私は嫉妬に狂うなどとは無縁だった。

いつかこの想いを伝えよう。大學を卒業したら、きっと。そう心に決めていた。

そして、あと一年で大學生活も終わり。そんな年だった。

兄さんが行方不明になった。

家の近所の差點でトラックの衝突事故が起きて、兄さんの車が巻き込まれてしまったかもしれないと、近所のおばさんから連絡があった。

夕飯の支度をしていた私は、その連絡をけて心臓が止まるかと思った。

兄さんが事故にあった。

それを理解するのと同時に、私は夕飯を放り出し、急いで事故現場に向かった。

脳裏に浮かぶのは、十年以上前の景。私の両親の命を奪った事故の景だ。

もうあんな思いをするのは絶対に嫌だ! そんな思いと共に、しでも早く足をかす。兄さんの無事を確認する為に。

五分も経たず事故現場に辿り著くと、そこには絶景が広がっていた。

の後部が割れ砕け、原形を留めていないトラック。

前面が潰れ、エアバッグが飛びだしているトラック。

そして、その間に挾まれて、文字通り「ぺしゃんこ」に潰れる兄さんの車。

鳴り響くサイレンの音。

警戒線を引く警察。

事故を見に集まった野次馬の山。

今はその全てがどうでもいい。今はただ一つ。

「兄さん!!」

気が付くと、私は事故現場に向けて走り出していた。

一刻も早く兄さんの無事を確認したい。これは何かの間違いで、実はあの車は兄さんの車と同じ車種というだけかもしれない。

とにかく今は、一刻も早くあの車の元へ。

しかし、もうしで辿り著くという所で、誰かに行く手を阻まれた。事故処理をしていた警察だ。

「危ないから下がって!」

「通して下さい! 兄さんが……兄さんがあの中にいるかもしれないんです!」

「……お嬢さん、もしかしてあの中の誰かの親族の方ですか?」

「あの間に挾まれているのは、兄さん――兄の車かもしれないんです!」

私は間に挾まれた車を指差しながら訴えた。

とにかく今は一刻も早く兄さんの安否を確認したいのに、この男は退こうとしない。

「そうですか……。大変申し上げにくいのですが――はい、こちら小林です、どうぞ……何ですって? それは本當ですか?」

私の邪魔をしていた警察が、突然イヤホンに向かって何か話し始めた。

「そうですか、分かりました。一応形式上、扱いは行方不明という事になりますかね。この狀況では、生存は絶的でしょうが。はい、それでは」

通話をやめ、警察――小林といったか。小林さんが再び私に視線を向けてきた……その瞬間、言い様のない悪寒が私の全を駆け巡った。

何か嫌な予がする。この男の言葉に耳を貸しては――。

「お嬢さん。失禮ですが、あなたのお兄さん、もしかして「近衛海斗」という名前じゃありませんか?」

その瞬間、世界の全てが止まってしまったかの様な錯覚を覚えた。

確かに私の兄さんの名前は近衛海斗だ。

私が今の家に引き取られてから、ずっと一緒にいてくれた、する人の名前だ。間違いようもない。

でも、何故この男がその名前を?

「……その顔、どうやら間違いない様ですね。大変申し上げにくいのですが、あの車は近衛海斗さんの車で――」

「いや! それ以上言わないで!」

信じたくない! 信じられない!

だって、だってあんな、原型も留めない程に潰れてる。あの中にいて、生きているなんて到底思えない。

いや、まだよ。まだ死んだって決まった訳じゃない。兄さんはきっと生きている。

そうだ。事故の衝撃とかで、兄さんはきっと車外に投げ出されてしまったに違いない!

それなら、まだ可能はある。この目で兄さんの安否を確認するまで、私は絶対に諦めない!

けど、この男が次に口にした言葉は、私の想像を遙かに超えるものだった。

「それが妙なんですよ。運転席にも、それどころか車、それに車外のどこを探しても、近衛海斗さんの姿が見當たらないんです」

「……え?」

兄さんが、いない?

重癥だとか、その……死んだとかじゃなくて?

「運転席に殘された大量の痕から、誰かが――恐らく近衛海斗さんが乗ってたのは間違いない筈なんですが」

意味が分からない。兄さんがどこにもいない? それじゃあ兄さんは一どこに行ってしまったのか。

まさか、神隠しにでもあったとでもいうの?

分からない、分からない、分からない。

「――っ! お嬢さん、しっかり!」

小林さんの聲が聞こえてくるが、そんな事はどうでもいい。

気付くと私は全から力が抜け、その場に倒れ込んでいた。そしてそのまま夜の闇に意識を奪われるかの様に、私の意識は段々と遠ざかっていった。

「えっと……こういう時、何て言うんだっけ? 確か「知らない天井だ」だったかな?」

兄さんの影響で、オタク文化というれ続けてきた私は、ついそんな事を考えてしまう程度には染まっていた。

でも、今はそんな事どうでもいい。

私が目を覚ますと、そこは自宅の自室ではなかった。真っ白な天井、ベッド。六畳一間程の広さの部屋に床頭臺とテレビが一つ。

まさに「病室」といった部屋だった。

という事はつまり、ここはどこかの病院の個室だろうか?

「でも、私何で病院に?」

イマイチ働かない頭をフル回転させ、狀況を整理する。

確か私は自宅で夕飯の支度をしていて、近所のおばさんから近くで事故があったと連絡がきて、それに兄さんが巻き込まれてしまったかもしれないと聞いて……そうだ。

段々と思い出してきた。

確か私は、事故現場で々と信じられない事が続いて、それで。

そう、それで確か、兄さんの車には誰も乗ってなかったって話になった筈。

あの時は気が転していてショックをけたけど、今になって考えると、これは私にとっての希だ。

誰も車に乗っていない。それはつまり、兄さんはまだ生きている可能があるという事だ。

もしかしたら無駄かもしれない。

こうしている今この瞬間にも、兄さんのが事故現場で発見されているかもしれない。そしたら全て終わりだ。こんな世界に未練などない。

その時は、潔く綺麗に終わろう。

でも、もしまだ行方不明扱いのままなら。わずかでもその可能があるなら。それなら私はその可能に殘りの人生の全てを賭けてもいい。

私にはもう兄さんしかいないのだから。

私を引き取ってくれた伯父さん達も、一年前に二人共病気で亡くなった。恩を返す相手は、兄さん以外もういない。

だったら、私の殘りの人生全てを賭けてでも兄さんを探し出してみせる。その為にも。

「こんにちは、失禮しますよ……おや、もう目を覚まされましたか」

「どうも」

まずはこの小林という男に詳しい話を聞く必要がある。

私――近衛は、小林という男に向き直った。

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