《乙ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?》16話 マフィアの殲滅作戦

「これより、スラム街に巣食っていたマフィアを殲滅する。相手はただのチンピラだが、油斷はだ。一人たりとも逃すことは許さない。必ず皆殺しにするのだ!」

お父様が部下達に命令を下した。

アディントン侯爵家の騎士達は、訓練により高い練度を誇っている。

荒くれ者相手だろうと、遅れを取ることなどあり得ない。

「「「「はっ!」」」」

騎士達が元気よくそう返事をする。

そしてその隣には、カイン達がいた。

彼らは自ら志願し、戦いに參加したのである。

「あれ? 姉上は……?」

「どうした? フレッドよ。イザベラなら、屋敷で待っているはずだろうが」

「いえ、姉上なら絶対に付いてくると思ったので……」

「馬鹿を言うでない。イザベラはそんなことをするような娘ではなかろう」

「え、えぇ……」

フレッドとお父様が何やら話し込んでいる。

実は私も戦いに志願した。

え?

バッドエンドを回避するために頑張っているくせに、わざわざ自分から危険な戦いにを投じるのかって?

それとこれとは話が別だ。

あのバッドエンドは、いざあの局面になってしまっては生き延びることが難しい。

毒使いのフレッドに、能力強化の魔法をる騎士見習いのカイン。

さらにはエドワード殿下や氷魔法士のオスカーまでいては、いくら何でも逃げようがない。

それに比べて、今日の相手はただのマフィア。

地球の覚で言えばマフィアは十分に怖い相手だが、この世界だとそうでもない。

魔法や剣に秀でているなら、魔法師団や騎士団に所屬する方がよっぽど稼げるからだ。

マフィアの中にもそれなりに強い者はいるが、たかが知れている。

魔法を使える私の敵ではない。

「(ふふふ。お父様もフレッドも、私に気づいていないようね)」

「(しっ! イザベラ嬢、靜かに。気付かれるぜ)」

「(ごめんなさい、カイン。でも、ワクワクしない?)」

「(それは否定できないけどよ……。せめて、俺達の傍を離れるなよ)」

「(もちろんよ! 私がみんなを守るわ!)」

「(逆だよ! 俺達がイザベラ嬢を守るんだ!)」

私はカインとそんな話をする。

「では、作戦開始!」

お父様の號令と共に、騎士達は一斉に走り出した。

主戦力の彼らが目指すのは、事前に調査済みのマフィアのメイン拠點。

さらにいくつかの戦力に分けて、それぞれが各地の拠點を襲撃する。

「ぎゃあぁぁー!?」

「助けてくれぇぇぇ!!」

あちこちで悲鳴が上がる。

マフィアは抵抗しているが、圧倒的な數の差の前には無力に等しい。

あっという間に制圧され、制圧されたマフィアは捕虜として捕らえられていった。

「よし。俺達も頑張るぞ!」

「ええ。カインの活躍に期待しているわよ」

騎士達が各地に分散した今、聲を出してもバレることはない。

私はカイン達と共に、小さな拠點に向かう。

「おらぁっ! 年貢の納め時だぜ!!」

カインが拠點の扉を蹴破ると、そこには屈強な男が三人立っていた。

「ひいっ! き、騎士がここにも來たっ!」

「ちっ! 騎士なんかと戦ってられるか!」

「逃げるぞ、野郎共! ……ん? いや、待て!!」

すぐに退卻の姿勢にった彼らであったが、私達の姿を見て態度を変えた。

「へへへ。ビビらせやがって。お前ら、最近調子に乗ってるガキ共じゃねえか。騎士のマネごとか?」

「そんなんじゃないさ。俺達はお前らをぶっ潰しに來たんだよ」

「そうよ。大人しく降伏してちょうだい」

「……舐めた口を利くガキだ。無視してもいいが、増援を呼ばれると厄介だな。全員ぶっ殺して、口封じしてやるよ」

リーダー格の男の言葉に、他の二人も同意を示すようにニヤリと笑った。

「上等だ! やってみろよ!!」

カインは剣を構えると、一気に斬りかかった。

剣の腕だけなら、カインは私よりも上だ。

彼には強化魔法の適があり、大人顔負けの剣技をる。

その一撃をけ止めようとした男の右腕は、呆気なく切斷される。

「ぐああぁぁっ!?」

「こいつ……!」

腕を失った男は激痛に悶える。

もう一人の男はすぐに攻撃に移ろうとするが、その前にカインが間合いを詰めていた。

「遅いぜっ!!」

「うおっ!? ぐはっ……」

袈裟懸けに斬られた男は、そのまま地面に倒れ伏す。

これで殘るは一人。

そう思った瞬間、背後から鋭い風切り音が聞こえた。

「危ない、カインッ!!」

「なにぃ!?」

咄嵯に振り向いたカインは、剣で攻撃を弾いた。

「へへへ。俺様の【ウインドカッター】を避けるとは、中々やるじゃないか」

魔法士か。

まさか、マフィアなんかに魔法士がいるとは想定外だ。

さすがのカインも、一人前の魔法士を相手にするのは分が悪い。

「カイン兄! 援護は任せろ! 【ファイアボール】!」

マックスの放った火球は、魔法士に直撃するかに見えた。

だが、それはあっさりと避けられてしまう。

「甘ぇよ!」

「くっ!」

「あたしもいくわよっ! 【アイスランス】!」

「【ウッドスピア】……!」

マリーとドロシーがすかさず援護する。

それぞれ、ちゃんと魔法の鍛錬を積んできた甲斐があった。

正直なところまだ半人前だけど、こうして援護するだけなら十分過ぎるほどである。

「スキ有りっ!」

エリックが男の背後に回り込み、短剣を突き刺そうとする。

しかし、男はギリギリで反応した。

魔法で生み出した風の刃で、短剣を防ぐ。

「このガキ、なかなかいいきをしやがる。……だが、まだまだだな」

魔法士の男がエリックの服を摑む。

「お前! エリックを離せ!!」

「おおっと! 俺に攻撃したら、こいつの命はねぇぞ?」

距離を詰めようとしていたカインは、慌てて足を止める。

「おい、お前。人質なんて卑怯だと思わないのかよ?」

「ハッ! 戦いに卑怯もクソもあるかよ。騎士の真似事なんざしやがって、弱蟲野郎が」

「くっ……。どうすればいいんだ……」

カインは悔しげに歯噛みしている。

私達も、迂闊にはけなかった。

下手にけばエリックが殺される。

だが、だからと言ってこのままではジリ貧だ。

(……ん? そう言えば、『ドララ』のサイドストーリーで、こんな展開があったような)

なぜ今まで忘れていたのだろう。

エリック、マックス、マリー、ドロシー。

これらの名は、『ドララ』にも登場していた。

ただし、セリフはない。

あくまで、カインの過去回想のみでの登場だ。

彼ら四人は、全員がマフィアに殺される。

マフィアに弟分達を殺されたカインは、立派な騎士となって必ずや悪を討とうと決意するのだ。

そして、レッドバース子爵家の養子となり、王立學園に學し、ルートによってはヒロインのアリシアとに落ちるのである。

時として行き過ぎとも思える彼の正義は、こうした事が関係しているのだ。

「みんなを殺させるわけにはいかない。【アクア・プリズン】」

「もごっ!?」

私は魔法を発させた。

水の牢獄に閉じ込められた男は、パニックに陥っている。

そりゃそうだ。

突然息ができなくなって、冷靜でいられる者なんて滅多にいないだろう。

「ふう……。助かりました。イザベラ様」

エリックが男の拘束から解放され、こちらに戻ってくる。

そうこうしている間に、男は窒息して倒れ込んだ。

私は水魔法を解除する。

「おっかねー魔法だな……。イザベラ嬢は怒らせないようにしないと……」

「ふふん。凄いでしょ? ……と言いたいところだけど、対策法はいくつもあるわよ」

「マジか?」

「ええ。後で教えてあげるわ。とりあえず、この三人は拘束して騎士達に引き渡しましょう」

今回の作戦において、マフィアの生死は不問とされている。

だが、生き殘りや隠れ拠點を暴くために、無理のない範囲で生け捕りにせよとの命令もけていたのだ。

「ほらよっと。これでよし」

「あら? 他の拠點でも、続々とマフィアの連中を捕まえているみたいね」

「ああ。これなら、俺も安心してレッドバース子爵家の養子になれるってもんだぜ」

「そうね。元気に頑張るのよ」

私は彼を応援する。

こうして、マフィアの殲滅作戦は無事に終わったのだった。

……私がこっそりと作戦に參加していたのがバレてお父様にこっぴどく叱られたのは、また別の話だ。

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