《乙ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?》18話 プレゼント
私が著替えようとしていたところ、エドワード殿下が部屋にってきた。
彼は顔を真っ赤にして部屋を出て行った。
まあ、年頃の乙の著替えを覗いたのだから當然と言えば當然の反応だろう。
でも、ノックもせずにってくるというのはどうなんだろうか。
もうし配慮があってもいいように思う。
そんなことを考えながら、私は服を著替え終える。
とりあえず屋敷の応接室に行くとしよう。
普段のエドワード殿下は、そこで待ってくれているのだけれど。
なぜ今日に限っていきなり私の部屋に來たのだろう?
「エドワード殿下。お待たせしました」
「い、イザベラ! 先ほどは失禮をした! まさか著替え中だとは思わなかったのだ!」
「未婚の淑の著替え中に踏み込んでくるなんて、無作法にも程があると思いますけど?」
「ぐっ……。そ、それはすまなかったと思っている……」
私の言葉に、エドワード殿下は苦蟲を噛み潰したような表を浮かべる。
ここまで強く言われるとは思ってはいなかったようだ。
個人的なとしては、別に減るものではないし構わない。
でも、未婚のが婚約者でもない男にを曬したということが広まると、外聞が悪い。
私はアディントン侯爵家の令嬢として政略結婚をけれる覚悟をしているし、それが貴族の娘として生まれた者の義務だと考えている。
貴族社會に私の悪評が流れる事態は避けたい。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。
このままではいけないと思い、私は口を開く。
「えーっと、エドワード殿下? 今日はどうして私の部屋に? 何か用があったのではないですか?」
「あ、ああ。そうだな。今日はお前と一緒に街を視察しようと思ったのだ」
「街に視察ですか……。それって、他の方と一緒でもいいんですよね?」
「もちろんだ! ……ただ、俺はイザベラと行きたかったんだ!」
エドワード殿下のその言葉に、私はし考え込む。
これは、デートのおいということなのだろうか。
彼とあまり親しくなり過ぎると、『ドララ』と同じく婚約者になってしまう可能が高まる。
それ自は構わないと言えば構わないのだが、問題は學園學後に登場する主人公アリシアさんの存在だ。
彼から見た私は、王子と婚約している悪役令嬢。
なんやかんやあり、悪役令嬢イザベラは追放されたり処刑されたりするのだ。
予知夢においては、婚約を破棄されたその場で殺されてしまった。
この時間軸では、何としてもバッドエンドを避けたい。
そのためにも、エドワード殿下との付き合いは慎重にならざるを得ないのだ。
私は改めてエドワード殿下を見る。
金髪碧眼の男子で、剣も得意で魔法も使えるというハイスペック王子様だ。
「では、二人で出かけましょうか。もちろん、遠巻きに護衛の方々は付いてきますけど」
「あ、ああ! それでいい!」
こうして、私たちは街へと繰り出すことになった。
街へ出た私たちを待っていたのは、大勢の人々からの視線だった。
ポーションを市井に大量流通させた功労者のイザベラ・アディントンと、この國の王子であるエドワード・ラ・イースが歩いているのだ。
注目が集まるのも當然と言えるだろう。
しかし、私はそれを気にしないことにした。
「ねえ、エドワード殿下。あれは何でしょう?」
「ん? どれだ?」
「ほら、あの屋臺です」
「ふむ……。なんだ、よくわからないを売っているな」
私は屋臺を指差して尋ねるが、エドワード殿下はよくわからなかったようだ。
まあ、確かに何を売っているのかパッと見では判斷できないじの品揃えではある。
でも、こういうものこそが隠れた名店と言うべきなのだ。
私は、ワクワクしながら屋臺へと向かう。
「ちょっといいかしら。これって、どんな商品なの?」
「おう、嬢ちゃん! それはウチの新作でよ。今朝、完したばっかりの自信作さ!」
そう言って店主は、り輝くクワを差し出してきた。
『ドララ』では見たことがないアイテムだ。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「きれいなクワね。でも、それ以外は普通のクワに見えるわよ? 一、どう使うのかしら?」
「はっはっは。見た目じゃ分からねぇよ。こうやって、魔力を注ぎ込むんだよ」
店主は、手に持ったクワに魔力を込める。
すると、クワの輝きが増した。
「こうすりゃ、手に馴染んで通常以上の効率で畑を耕すことができるんだ」
「ほう。それはすごいな。俺もやってみていいだろうか」
「ああ、構わんよ」
「では、失禮するぞ」
エドワード殿下は、興味深げにクワを手に取った。
そして、同じように魔力を込め始める。
「おお! これはすごいな!」
「だろ? 俺の考えた農だからな。効果は保証済みだぜ!」
エドワード殿下はしたように聲を上げた。
それに気を良くしたらしい店主は、鼻高々とを張る。
「うむ。気にった。買わせてもらおう」
エドワード殿下は即決でクワを購した。
金貨數枚というかなりの値段だったが、彼が躊躇する様子はない。
さすがは王子様といったところだね。
「毎度ありー。……ところで兄さん、そのクワは自分で使うのかい?」
エドワード殿下は、代金を支払うとクワを懐にれた。
そこで、店主がニヤリと笑みを浮かべる。
「いや、違う。これは……イザベラ、君に贈ろうと思う」
「え? ……いえ、そんなの悪いです」
私は慌てて首を橫に振った。
エドワード殿下からプレゼントを貰うこと自は嬉しい。
このクワがあれば、私の畑仕事も捗るだろうし。
でも、彼に借りを作ってしまうと後々が厄介だ。
「遠慮するな。俺は、イザベラの役に立ちたいんだ」
「でも……」
「そうだぜ、嬢ちゃん! せっかくだし、もらっておきな!」
店主まで後押ししてくる始末だ。
私は、困り果ててしまう。
結局は押し負けて、クワを貰うことになってしまった。
突っぱね続けても、それはそれで王族への不敬になりかねないしね。
エドワード殿下の取り扱いは非常に難しい。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
「ああ。どんどん使ってくれると嬉しい」
「はい、分かりました」
こうして私は、エドワード殿下からの贈りを手にれた。
それにしても、想い人に対するプレゼントがクワっているのはどうなんだ?
へ贈るようなものじゃないよなあ。
まあ、私に限って言えばそれで正解なんだけど。
エドワード殿下も、『ドララ』における設定からはずいぶんとズレてきている。
この変化が、バッドエンド回避に向けていい方向に働くのか否か。
これからも張を持って注視していかなければならない。
私はそんなことを考えつつ、引き続きエドワード殿下と街の散策を行ったのだった。
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