《乙ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?》25話 シルフォード伯爵領の経営狀況
「私が見ているのが、イザベラ殿自ではない? どういう意味でしょう?」
「そのままの意味ですよ。つまり、オスカーさんの本當の目的は、私の持つ『ポーション生の技』や『魔法』でしょう?」
私は目を細めて言う。
私が開発した『魔乏病用ポーション』は、難病に苦しんでいた人達を救った。
『強壯ポーション』は元々あったものだけれど、私のは特に効力が高いと評判だ。
それを支えているのは、私の魔法。
土魔法や水魔法を自在にることにより、効率的にポーションの材料を栽培することができている。
もちろん、雇いれた人達の頑張りもあるけどね。
そして『ドララ』の知識により、ベストな調合比率や魔力を注ぐタイミングが分かる。
「…………」
図星を突かれたのか、オスカーが押し黙った。
「別に責めているわけではありません。むしろ、褒めています。自分の目的のために、他人の力を利用する。実に合理的で素晴らしい考えだと思いますわ。まあ、だからといって簡単に利用されるつもりもありませんけど」
私はバッドエンドを回避するため、いろいろと頑張ってきた。
エドワード殿下、フレッド、カイン。
彼らは皆、大なり小なり私に好意を向けてくれている。
それに応じないのは、バッドエンドを回避するという私の目的のためだ。
ただでさえ、彼らとのフラグが立している狀況なのだ。
そこにオスカーまで加わってしまえば、もはや収拾がつかなくなってしまう。
私は誰とも付き合わない。
誰のものにもならない。
本來のヒロインであるアリシアさんの邪魔はしない。
そして、バッドエンドを何としても回避する。
そんな決意をにめた私は、オスカーを真っ直ぐ見據えた。
「ですので、申し訳ございませんが、婚約の話はなかったことにしてください」
「しかし……。このシルフォード伯爵領には、あなたのような新しい力がないと、立ち行かなくなりつつあるのです……」
オスカーが暗い表をしてそう言う。
そのあたりの事も、私は調査済みであった。
「農業の収穫高が芳しく無く、工蕓品などの特産品もなく、稅収がない。領地の経営狀況は苦しいと聞き及んでおります」
私は淡々と事実を告げる。
「えぇ。正直、我が家は財政的に厳しい狀況です。このままでは、次代……私の代で爵位を返上せねばならなくなるかもしれません」
オスカーが苦々しい顔で答えた。
「シルフォード伯爵家には、ご自慢の氷魔法があるではありませんか」
「氷魔法など、大したものではありません。冷たく、寒く、暗い魔法です。できることと言えば、せいぜい庭園を氷のオブジェで飾るぐらいでしょうか。領民の生活をかにするようなものは何も作れません」
オスカーが自的な言葉を口にする。
氷魔法を軽んじるのは、夜會の時から変わっていないな。
あんなに綺麗なのに。
でも、確かに飾り付けるだけではお腹は膨れない。
「氷魔法があれば戦闘にも役立つのでは……」
実際、予知夢における私は彼の氷魔法に拘束され、それによってエドワード殿下にとどめを刺されてしまった。
「今は戦の世ではありませんから。數代前に戦功を評価されて伯爵位を授かったのはよいのですが、この平穏な世では氷魔法など無用の長なのです……」
「…………」
彼の言う通り、ここ最近の國際勢は安定している。
各地に火種がないことはないのだが、それが大きく燃え上がることはない。
戦闘能力が必要になる局面があるとすれば、魔獣と戦うときだろうか。
しかしそれも、訓練された兵士達による剣・槍・弓などで十分に対処可能だ。
氷魔法でしか討伐できない魔獣というのは、聞いたことがない。
「ですから、あなたに白羽の矢を立てたんです。あなたの持つ技があれば、領に新たな産業が生まれ、収が増えるはずです。どうか、お願いします。私の婚約者になって頂けませんか?」
オスカーが懇願するような口調で言う。
完全に、私の人格は無視してるよね。
私を妻にすることによる実利しか見ていない。
「お斷り致します」
私は即答した。
「なぜですか!?」
オスカーが驚愕の聲を上げる。
「私が婚約を結ぶ相手は自分で決めたい。ただそれだけのことです」
「それはつまり、私に魅力をじていないということですか?」
オスカーが悲しげな顔をする。
「いいえ、オスカーさんはとても魅力的な男だと思います。ですが、だからこそ、私なんかよりももっと相応しいがきっといるはずだと、そう思っただけです」
オスカーは本當に魅力的だと思う。
銀髪で眼鏡を掛けたインテリ系のイケメンだ。
腰もらかく、分も高い。
でも、だからと言って私が彼と結婚したいと思うかは別の話だ。
「そのような気休めの言葉は不要です! どうか……どうか再考を!」
オスカーが必死の形相で訴える。
「ありがとうございます。ですが、やはり私は結婚する人は自分で選びたいと思います。ですので、申し訳ございませんが……」
私はオスカーに対して頭を下げた。
「そう……ですか。分かりました。シルフォード伯爵家の存続については、何とか他の手段を考えてみます……」
オスカーは悲壯な顔でそう言う。
私と結婚できなかったからといって、すぐに伯爵家が取り潰しとなるなんてことはない。
そもそも、爵位剝奪の的な話などまだ噂にもなっていない。
彼が一人で焦っているだけだ。
とはいえ、自分の未來にとんでもない不幸が待っているかもしれないと危懼して、焦る気持ちは分かる。
だって、バッドエンドを回避しようとしている私も同じような立場だからね。
あれ?
そう言えば、『ドララ』でも爵位返上云々の話があったような……。
ヒロインのアリシアがオスカーを選んだ場合は、なんだかんだでその問題は解決する。
でも、アリシアが他の攻略対象を選んだ場合は、問題が棚上げされたままとなる。
もしかしたら、予知夢におけるオスカーの暴走は、爵位沒収の焦りから生まれたものだったのか……?
今となっては、真相を確かめる手段はないけど。
「では、私はこれで……。街の視察は、ご自由にどうぞ……」
オスカーはふらつきながらこの場を立ち去ろうとする。
だが、私はそれを引き止めた。
「お待ちくださいませ。まだ、私にはお話したいことがあるのです」
これこそが、今回シルフォード伯爵領を訪れた理由だ。
さあ、ここが踏ん張りどころである。
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