《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》13 鑑定石
エミリーと共に帰宅したロイド。
普段ならこの時間はフィンクもエミリーもそれぞれ親に著いてく時間である。
とは言えエミリーがここにいる以上シルビアは早めに夕飯の用意をしているとは思うが。
「……んん?」
だが、帰ってみると仕事をしているはずのルーガスがフィンクやシルビア、ローゼとともに居間にいた。
「どうしたのお父さん!もうお仕事終わったの?!」
「それより大事な用があるんだエミリー。ロイドもこっちに來なさい」
一緒に遊べる?!とばかりに嬉しそうな表を浮かべたエミリーに苦笑い気味に2人を呼ぶルーガス。
橫にいるフィンクは珍しくそわそわしているし、シルビアもどこか期待したような表だ。
仕事に生真面目なルーガスが中斷するとは珍しいし、落ち著きのない2人にロイドは何事かと首を傾げつつ足をばした。
「……何これ?」
近寄ってみると、50センチ四方程の鉄のような陶のようななんとも言えない材質の板が置かれている。
「やっと依頼していたものが屆いてな。早速使ってみたい。……そうだな、隨分待たせてしまったようだし、まずはフィンクからやってみるといい」
「ありがとうございます父上」
その板に一瞥を向けて言うルーガスに、待ちきれない様子のフィンク。
それでも大聲でーーエミリーのようにばないあたりは流石か。
事態を摑めないロイドとエミリーに、シルビアがふふっと笑みをこぼしつつ口を開く。
「2人とも。これは鑑定石といって、魔力量や魔法適度が分かるものなの」
「……あぁ、これが鑑定石か」
ロイドがこちらの世界に來て手にした知識の中には鑑定石も含まれていた。
実を見るのは初めてであり、かなり希なではあるのは確かだが、ウィンディア家の権威なら手はそこまで困難ではないと推察していた。
それなのにルーガスが仕事を中斷してまで大仰に扱う事や、手配に苦労したような口振りに違和をじる。
すると、シルビアの話は続きがあった。
「そうよ。でもこれはすこし特別で、スキルについての報も見れるの」
「……え?スキルを?え、ほんとに?」
思わず聞き返すロイド。
橫のエミリーも目を丸くして鑑定石を見ていた。
スキル。
千人に一人程の確率で所持者が生まれるとされる先天の技能であるが、実際にそれを所持している者はもっと多く居るとされている。
ではなぜそう言われているか。
それはスキルを所持している事を自分で把握出來ていない者の方が多いからだ。
何かしらの要因でスキルに気付き、またはそのきっかけを摑み、試行錯誤してスキルを扱うに至るのが一般的である。
そのまま気付かずにいる事も珍しくない。
それを「あなたはこんなスキルがありますよ」と教えてくれる存在があるなど聞いた事もない。
「ああ、これはエイルリア王國の國寶の1つにあたるでな。陛下に無理を言って貸して頂いた」
いつも通り言葉數なくさらっと説明するルーガス。
だが、容は驚嘆の一言だ。
「ふふっ、意外かも知れないけど、こう見えてルーガスは陛下と仲が良いのよ?」
「えぇええっ?!王様とっ?!」
「そうだな。まぁ今は関係ない事だ」
驚愕の聲を上げるエミリー。
だが、エミリーがばなければロイドがんでいたのではないかと思う位にロイドも驚いていた。
しかし當の本人は気にした様子もなくフィンクに目をやる。
「そんなことより、待たせたなフィンク。では鑑定石に魔力を込めてみろ」
「はい、父上」
自らの君主でもある王に対して隨分ぞんざいな扱いに思えるルーガスの態度だが、基本的には真面目なフィンクは珍しくツッコミをれる事なく頷く。
余程待ちわびていたのだろう。
フィンクは待ってましたと鑑定石に手を向ける。
いつも年不相応な余裕と微笑みの持ち主であるフィンクが、滅多に見せない14歳の年の表を浮かべている。
これにはルーガスもシルビアもどこか微笑ましそうに目を細めていた。
しばし魔力を注いでいると、石版にまるで自らの底から浮かび上がるようにゆっくりと文字が現れていく。
しかし、鑑定石を起するにはかなりの魔力を必要とするようで、フィンクは額に汗を浮かべている。
「ふむ……失念していたな。これは古代の魔裝置で、燃費が悪いと言っていた。よく起させたフィンク、よくやった」
「ふぅ……ありがとうございます父上」
フィンクはルーガスの労いに応えつつ、浮かび上がっていく文字から目を離せない。
そしてとうとう文字が完全に浮かび上がった。
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魔力量  700/1450
魔法適 風100 水70 火20 土10  55
スキル 風魔法適
==========
ロイドとしては凄まじくシンプルな表記すぎて基準が分からないが、スキルが表示されているのは確かだった。
シルビアはそれを見て「まぁ、すごいわねフィンク」と驚き、ルーガスもし目を瞠っている。
「あの、母上。これはどの程度のものなのでしょうか?」
ロイドと同じくフィンクも判斷に困ったのだろう、聲を上げたシルビアに問いかけた。
シルビアは今思い出してます、といった風に人差し指を顎に當てて、數秒。
「ん〜〜……たしか魔力量は大人の平均で1000ちょっとよ。子供の平均は確か5〜600だったしから」
つまりフィンクはすでに人の平均を超える魔力量を保持していると言う事になる。
親2人が驚くのも無理はない。
「魔法適は平均が50だわ。60以上あればその人の得意魔法と呼んで差し支えないわね。ふふっ、フィンクの場合、スキルの”風魔法適”の恩恵で100なんでしょうね」
「うむ。ウィンディア家の言い伝えでは先祖が風の霊と契約したという。それにより子孫は風魔法の適を持って生まれるとな」
この魔法の適は魔法を行使する上で重要な要素となる。
魔法を発させる過程として、まず詠唱や魔法陣を用いて「魔法の形」を作る。
そこに魔力をその屬に合わせた魔力――「屬魔力」に変換して注ぎ込む事で魔法の発に至る。
そして、魔力を屬魔力に変換する際の変換効率が魔法適に大きく関わるのだ。
今回の場合だと、フィンクは風屬魔力に魔力を変換する際にロスはほぼなく、また限りなくスムーズに行える事になる。
逆に、土や火の屬魔力に魔力を変換しようと思えば、風屬魔力の10倍近いロスが発生してしまい、また変換速度も著しく低下する。
「大人顔負けの魔力量に風と水の高い適、さらに獨自で編み出した氷魔法……親の贔屓目抜きで神と呼ばれるのも頷けるな」
想像以上の結果を見せしめたフィンクに、ルーガスはまるで獨白のように褒めるのであった。
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