「これは驚いた…」

「はぁ、はぁ…今日のための隠し球だったしな……どんなもんじゃい」

ルーガスが珍しく瞠目していた。

息も絶え絶えながらも悪戯が功したように人の悪い笑顔で誇る息子を。

風を纏い衝撃を起こす剣撃も最近考えた技であった。

ロイドは強化が使えない為、どうしても威力が足りない。

これはそれを補う為のものだ。

剣撃に合わせて圧した風を指向を持たせて解放する事で威力を上げる技である。

やっと息を整えたロイドが、口元を緩めたまま話す。

「今日で丁度一ヶ月だからね。ちょっと驚かせてやろーかなって々考えてみたんだよ。まぁ父さんも手加減してる上に隠し球として見せなかった技だからこその結果なのは分かってるけどさ」

「いや、大したものだ。正直見くびっていた。たった一ヶ月でここまで魔を使いこなしたこともそうだが、技の考案にその組み立てもな」

ルーガスは本心からの賛辭を送る。

魔の使いこなし方は魔適がある以上、この長も理解出來なくはない。

だが、それを用いて欠點を補う技の考案、戦闘の組み立てはとてもこの年齢で考えたとは思えないものだったのだ。

「ロイドはたまに年不相応な一面を見せるな」

  思わずギクっとするロイドだが、ルーガスは気付かずに言葉を重ねる。

「だが、ないとは思うが慢心するな。攻撃力や攻撃の幅は間違いなく上がったが、基本の能力は低い」

「うん。それも補う技を練習中なんだよね。今日の実戦には間に合わなかったけど、あとちょっとで形になりそーなんだ」

そういうと、ロイドは風をに纏い始めた。

「せっかくだし見てくれない？改善點とかあれば言ってしい」

を覆う風はそのままに駆け出したロイド。

その足の下に風を圧し、解放する。

すると、発的な速度で移した。

さらに、風の刃を複數放ち、それをブーメランのように自分に向けて導させる。

その風の刃をロイドは強化なしとは思えない速度で短剣を振って叩き落とした。

腕に纏った風で腕をかす方向に風をかす事で剣を振るう速度を底上げしているのである。

さらに最後の風の刃をあえてでける姿勢を見せるロイド。

だが、を覆う風がそれをけ流すようにから逸らす。 

そうして再び足の下で風を圧、解放してバックステップの要領でルーガスの近くに戻ってきた。

風の発やけ流し、腕のきのフォローといった細かい調整を要する技を拙い技で行った結果か、腕や足には大小の細かい傷がついていた。

「つぅっ……くそ、やっぱ難しいなこれ。まぁとりあえずこんなじなんだけど」

「ふむ。なるほど、風による移速度と捌きの速度向上に、防能の向上か。考えたな」

「これらとさっきの風を纏う技で強化に対抗出來ないかと思って」

「ふむ、悪くはない。だが、防については威力の弱い攻撃にしか効果は薄そうだな」

「うーん、やっぱりそうだよね……攻撃に使ってた風を圧して放つやつを防に使って攻撃を打ち返そうとも思ったんだけど、あれ集中力いるし攻撃箇所にピンポイントで合わせるのが難しくて。今はは保留にしてる」

「そこは今後の魔力作や魔に慣れていく事で改善出來るかもな。答えに急がず々じっくりやってみろ」

「そーだね、そうする」

淡々とアドバイスをしながらも、ルーガスは心驚愕でいっぱいだった。

今はまだ荒く拙い為、技も戦闘の中で使える程のものではないとは言え、方向としては面白い。

もしこれが完すれば強化と同等かそれ以上の能を見せる事だろう。

しかし、何よりも恐ろしいのは魔という技の脅威だ。

ルーガスはこれまで、魔とは魔法を組み合わせた技のように思っていた。

ルーガスはこれまでの魔を思い浮かべる。

風の刃は魔法の”風刃”に似ていた。

また、先程見せた風を圧して放つ技は魔法の”風砲”に、風の鎧は魔法の”風鎧”に似ている。

だが、風できを補強する技も足下で風を弾けさせて加速する技も魔法にはない。

(……もしかしたら、魔法とは魔を部分的に模倣した技なのかも知れないな)

風の魔法使いとして最高峰の男はそう思った。

それほど魔の汎用は高い。

自分の意思をそのまま風に伝え、手足のようにかす事が出來る。

このアドバンテージは大きい。

魔法であれば、詠唱の時點で、あるいは遅くても発してしまえばどんな魔法が來るか予測出來る。

上位者ともなれば発に條件を上書きする事で威力の向上や予想外のきをさせる事も可能だが、技の質や特徴そのものを大きく逸する事は出來ない。

それに対し、魔は発してしまえば意思ひとつで質も特徴も異なるきに変化出來るのだ。

これでは予測など出來るはずもなく、防や回避も困難になるし、予測に合わせて追撃をれるといったカウンターなどが立しにくくなる。

そして何より、魔法では網羅出來ないきや質を再現出來る。

そんなことを考えていると、ふとロイドが思い出したように言う。

「あ、それと慢心するなだっけ？あり得ないから安心してくれ。父さんや母さん、兄さんも姉さんも強すぎて、慢心する度なんて俺にはないね」

「……そうか、それなら良い」

(町では恥さらしなどと呼ばれているらしいが、この調子ならそう遠くないない未來には払拭されるだろうな……)

今はまだ魔法をした上で魔法を行使する一般的な魔法使いにも勝てないだろうが、魔がすればそれらとは一線を畫す戦闘能力を見せることになるだろう。

そうすればそのような汚名も自然と消えるに違いない。

そう考えるルーガスの頬は、本人も気付いていなかったが優しく緩んでいたのであった。