避けられるとは思っていなかったゼームズは驚愕の表で固まる。

さらに言えば風を纏う彼がまるで知らない誰かのようにさえ思え、認識の差に軽いパニックを起こしていた。

そんな靜かな空間で誰もが注目しているロイドはと言うと、火魔法とか使えるのかよ！と心で悪態をつきつつ、躊躇している場合ではないと決心して魔力を短剣に注ぐ。

実は結構慌てていた。

注いだ魔力は短剣を通して風へと伝わり、風の魔として現される。

その風をほとんど短剣に纏わせ、殘り僅かを足元で破裂させて再び高速移を行いゼームズに迫る。

「くっそが…！」

呆けていたゼームズだが、高速で向かって短剣を振り上げているくるロイドに、躱すには距離や速度から考えて厳しそうだと判斷し、防の選択をとった。

剣をの前に構える。だが、その表は確かに怯えのようなものが見えていた。

これ以上火魔法を撃たせてたまるか！と焦るロイドの表が、今のゼームズにはとても威圧のある表に見えてしまう。

ゼームズは確実に気圧されていた。

 そして、ロイドはその防に構わず短剣を剣に思い切り叩きつけた。

剣に當たる瞬間に纏った風を前方に指向を持たせて解放、炸裂させる。

「うわあぁっ？！」

その予想外に大きな衝撃に耐えられず、ゼームズは剣を手放しつつ後方に投げ出された。

けもとれず背中でスライディングするようにして吹き飛ぶ。

「ってぇ…！な、なんなんだ今の…？！」

何が起きたか分からず混する頭でどうにかを起こすゼームズだが、起き上がった瞬間に目の前にある刃にを直させた。

ロイドはゼームズを吹き飛ばした後すぐについ追駆し短剣を突きつけていたのだ。

「はぁ、はぁ…」

「ひっ…！」

高速移によるへの負擔により顔を微かに歪めるロイド。

それを見たゼームズはどう捉えたのか、とうとう誰が見ても分かる程に怯えたような表を見せた。 

ゼームズはいつもいじめたいた弱いはずのロイドが何故こんなに強くなったのか、魔法は何故使えるのか、なぜこんなことをになっているのか、と々な思いがりれて完全に混していた。

一方、ロイド的にはよくある勝負あった！の狀態だと思っていたのだが、誰も止めようとしない事でどうすれば良いか迷っていた。

実際、ロイドの認識は正しく勝負はついたと捉えても良いのだが、観客達も驚きから聲を掛ける事を忘れていたのだ。

しばし悩んだロイドは、とりあえずトドメを刺しときゃ勝ちかな、と短剣に再び風を纏わせ始める。

短剣の周りが空気の度が増し、さらにそこに込められた魔力により短剣の周りの景が歪んで見えた。

ロイドは戦闘中だと意外と短慮だった。

「うぇっ？！え、あ、ひ、火よっ、う、撃てっ」

勝負がつき、負けてしまったと思っていたゼームズ。

だがトドメを刺そうとしてくる様子にマジかこいつ？！と大慌てで火球を放とうと詠唱しようとするが、慌てすぎて上手く口も回らず、また屬魔力への変換も遅々としたものでしかない。

「やらせるか！」

「ひぃっ！」

しかしロイドは火魔法を撃たれるのではと慌てる。

だが、よし、あとはぶん毆るだけだ、と短剣を振りかざしたロイド。

もはやゼームズは反撃を諦めてを小さくし、腕で頭を庇うように丸くなった。

なんともけない姿ととれる狀態だが、恐怖心からそこまで考える余裕はないようである。

そして、ここに來て呆けていた冒険者がはっとしてき出す。

冒険者達もまさか追撃するとは思ってもおらず、あいつ意外ととんでもねえやつだ！と慄きつつも、さすがに大怪我の予に慌てて止めようと何人かが駆け出そうとする。

が、さすがに間に合わない。

「そこまでっ！！」

あわやスプラッタかと思われたが、短剣が振り下ろされる事はなかった。　ロイドからしてもゼームズからしてもーーそれぞれ違う意味でーー待っていた言葉が鋭く訓練所に響き渡る。

  慌てていた冒険者達も冷水を浴びせられたように一瞬で落ち著いた。

その聞き慣れた聲に嫌な予を覚えつつ、聲の方向に目を向け、一様にうげっ！という表を浮かべた。

そんな中、ラピスだけは嬉しそうな表を浮かべて、思わずといったじに聲を上げる。

「お、お父さんっ！」

「おうラピス。來てたのか、珍しいな」

  そう、聲の主はウィンディア領冒険者ギルド長だった。

「おめぇら、さっさと止めてやれよ。あのガキがスプラッタになっちまうだろーが」

「す、すんません、ディアモンドさん…」

ラピスと話していた時とは一転してギロっと冒険者達を睨みつけつつ説教をするギルド長ディアモンド。

睨まれた冒険者達は小さくなって謝罪を口にする。

ロイドはというと、短剣に纏わせた風を散らして鞘にしまい、ディアモンドを見ていた。

ルーガスに負けず劣らずな大柄な格、ラピスと同じ金髪は彼と比べるとしくすんでいるが、彼にはむしろ似合っているように思えた。

蒼い瞳は鋭い目つきによりやはりラピスとは逆の印象を與えている。

まさに歴戦の將といった風格をじさせる男だ。そこにいるだけで空気が引き締まるような覚を覚える。

そして視線に気付いてかそれとも用事があってか、ディアモンドの視線がこちらへと向く。

「おい、ゼームズ。それとロイド。ちょっと來い」

「は、はいっ！」

「え？あ、すぐに」

 張した様子で返事をするゼームズと、なんで名前知ってんの？と疑問に思いつつも返事をするロイド。

駆け寄ってきた２人は怒られるのか？と戦々恐々と高い位置にあるディアモンドの顔を見上げようとして、ふと視界がっていることに気付きーー

――ごごんっ！！

「いっ？！」

「ってぇっ！？」

まぁもちろん怒られた。

視界に星が飛び、衝撃は頭のみならず腰や足にまで響くほどだ。

張も禮儀もなくその場に頭を押さえて蹲る２人。

「喧嘩両敗だ。まぁ子供の喧嘩という事でこれで許してやる」

前世ならパワハラや待、モンスターペアレントやらがどうたらだぞ！とか俺は一方的な喧嘩売られただけなのに！と未だ星が飛びまくる視界で痛みで言葉が纏まらない悪態を心の中でつくロイド。　しかし言葉にして反撃する余裕と度は勿論ない。

「まぁともあれーー」

 そんな言葉に蹲るロイドは痛みを堪えながらディアモンドを見上げる。

すると、どこか優しげに口元を綻ばせたディアモンドがロイドを真っ直ぐに見ていた。

 　目を合わせて數拍、ディアモンドは全を見渡すように顔を上げ、言葉を繋ぐ。

「この勝負、ロイドの勝ちとするっ！！」

 ロイドのトドメを靜止した時の聲を上回る聲が訓練所に響き、一呼吸。

ディアモンドの聲に負けないほどの歓聲が訓練所に湧き上がった。