《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》42 破壊魔法
俯いてしまい、何も言葉を発さないまま時間が流れる。
周りから自らの顔を隠すように俯くラピス。しかし橫に立つロイドには表が見えた。
(――恐怖、か?)
そう、ロイドの目にはラピスが怖がっているように思えた。
(てか考えてみれば、そんなモロに強そうな名前のスキル持っててここまで知られてないってのも違和あるわな。…意図的に隠してたんかな)
さらに言えば必要以上に隠し事をするタイプの子には思えない。
となれば、何か事があったのだろうと考えた方が納得出來る。
(んで、魔法を使うのか魔法自を怖がってて、それが"破壊"魔法で、この子の格からして……うーん)
「昔誰か傷つけたりしちまったんか?」
びくっと震えるラピスに、驚いたような表でこちらを見る年長者組。
まぁそんなとこだよな、と心呟きながら言葉を続ける。
「……あたしじゃこの魔法は使いこなせないの…周りにいる人が怪我しちゃうの……」
絞り出すような聲で呟くラピス。
辛さに耐えるかものように、太のズボンの布をぎゅっと握りしめる。
後頭部をガリガリと掻きながらラルフは俯いたラピスに聞こえないよう嘆息し、アイコンタクトでドラグに「俺がやろうか?」と問い掛ける。
だが、ドラグは首を橫に振る。
「ラピス。気持ちは分かるが、いつまでも自分のスキルから逃げていてはダメだ。向き合い、使いこなせ」
「……」
ぐっ、と歯を噛み締めて黙り込むラピス。
重たい沈黙が流れる。
そこでエミリーがドラグに向かって問い掛ける。
「ドラグさん、そもそも破壊魔法ってどういう魔法なんですか?」
「ん?あぁ、簡単に言えば込めた魔力の分だけだろうが魔法だろうが無條件で破壊する魔法だ。人族では本來適正のない、魔族特有の魔法だから、まぁ知らないのも無理はない」
「んじゃつまり、込める魔力がそのまま破壊力になると?」
エミリーに続くように質問を重ねるロイドに、ドラグは頷く。
「基本的にはそうだ」
「なるほどね。――なーラピス」
 ロイドに呼ばれたラピスは目を強く瞑る。まるで続けられる言葉を恐れて目を背けるかのように。
「なら撃って問題なくね?誰も怪我しねーよそんなもん」
「――……え?」
 そして気軽な口調で続けられた言葉に、ラピスはゆっくりと目を開くと、そのままロイドに目を向ける。
「要はラピスの破壊魔法以上の魔力を込めた魔法で防げばいいんだろ?簡単じゃねーか」
極論ではあるが、その通りである。
もし防も出來ないような魔法なのであれば魔族との戦爭の際に人族が勝つ事など出來なかっただろう。
そして勿論、この事はラピスもドラグやディアモンドから何度も言われて知っている事でもある。
 だがーー
「怖く、ないの?」
「全然。ネタが割れてなきゃ怪我もしたかも知れんけど、知ってりゃ大した事ないし」
本當に何事もないかのように答えるロイド。
しかし、実際のところはかなり大した事はある。
普通の魔法ーー例えば火魔法を挙げるなら、魔力を火に変換し、対象にぶつける。
すると、火という質に則った形で対象にダメージを與える。
つまり、無理やり言えば焼く事による破壊だ。
そこには熱に強い質だったり、燃焼するまでの過程だったりという、言わば"無駄な過程"がる事になる。
それに対して破壊魔法は魔力量がそのまま破壊力になる上に、無條件で対象を破壊する。
つまり、無駄な過程はない。
これがいかに破格な條件か。それはロイドも察してはいる。
それを敢えてなんともない言い方をしてはいる。が、事実問題ないとも思っていた。
ロイドは暴な言い方ではあるが、破壊魔法への苦手意識の低下に繋がればと思っている。
ついでに遠回しに「びびって隠すより教えてくれた方が良い」という意味も込めていた。
そして、それにいち早く気付いたエミリーが言葉を続ける。
「そうね。なくとも今後私達はラピスの魔法では傷つく事はないわね」
「知ってれば、傷つかない…?」
 エミリーの言葉でラピスも気付いたようで、目を瞠って獨り言のように呟く。
「だな。それともあれか?俺が”恥さらし”だから防げるか不安とか?」
「そっ!そんな事はないよっ!」
今度は力強い聲で否定するラピスに、ロイドはふっと微笑む。
珍しいロイドの表にラピスはし頬を染めるが、そんなラピスに構わずロイドは微笑んだまま勵ますように優しい口調で言う。
「だったら大丈夫。昔の事は知らん。でも隠さず向き合えば誰も怪我なんてしない。今それを証明するから、さくっとアジトを壊してやってやれ」
「ロイドくん…」
「それにさ、お年を召した方達には重労働させるのは心苦しいだろ?」
「ロイドくん、帰ったら本屋に寄りなさいねぇ」
「その後は道場だぞロイド」
優しく微笑んだまま、ロイドは固まった。
振り返らずとも分かる2つの圧力に、ロイドは固まったまま冷や汗を流す。
「……ラピス、記憶を破壊する破壊魔法とかねえかな?」
「…ぷっ、あははっ!な、ないよそんな魔法!あっても使いませーん」
「あぁ?!実はあって隠してるんじゃないだろーな!頼むから助けてラピスさん!アトスより強い殺気が2つもあてられてなんか寒いんだよ!ほら見てこの鳥!」
「うわホントだわ。気持ち悪いわよロイド」
「ロイドくんの自業自得だもん!しーらない!」
本當にびっしりと出ている鳥にラピスはさらに可笑しそうに笑う。
そこにエミリーも加わり、青筋を浮かべた大人2人に睨まれ必死に逃げようとするロイドに子2人がケラケラ笑う様子が出來上がる。
それを見てドラグは安堵したように肩をすくめ微笑む。 それに気付いたラピスが、ドラグの元に足を運び、目の前に立ち止まった。
「師匠、やってみます」
「……あぁ、頼んだぞ」
ドラグは微笑んだままラピスの頭をでて言う。
ドラグとベルがこそこそと「あいつが笑ってんの久々見た…!」「珍しい事もあるもんだねぇ…変なことが起きなきゃいいけど。槍が降ったり」「あり得るかも知れん…S級魔とかしてくんじゃないか?」などと話す。
しっかり聞こえていたドラグは青筋を浮かべつつもどうにか無視。
「はい、頑張ります!」
一方聞こえていないラピスは意を決したように告げる。
その言葉をけ取り、ドラグは道を譲るようにラピスの後ろへと歩く。
ドラグが退いた事でアジトの扉の一番前に立ったラピスは、ちらっとロイドへと振り返る。
ロイドが気付いて微笑むとラピスも微笑みを返し、そして前に向き直った。
瞳を閉じて集中していく。
避けてきたこの魔法だが、スキルの影響なのかスムーズに魔力変換が行われていく。
むしろ、こんなにも扱い易いものだったかと驚く程だ。
(そっか…逃げたり怯えたりしないで、ちゃんと向き合えばちゃんと使えるんだ……)
魔法は屬魔力へ変換した魔力を詠唱または魔方陣などでを用いて魔法となる。
簡単に言えばそれだけだが、屬魔力変換、詠唱や魔法陣により魔法の形、威力や発の指向の調整など集中力や処理能力等は勿論必要になる。
だが、これらの発させる為の式に処理能力云々だけでは実際のところ不足しているのだ。
そして、その不足分を補完するのはイメージだ。
 
例えばバットをスイングする際、これくらいで振り下ろそう、という脳処理はあっても実際のきは覚的なイメージに頼る部分も多いだろう。
そして、忌避からそのイメージをする事に怯えて出來ずにいたラピスでは魔法の構が不十分だった。
その結果、制に支障をきたすのは當然と言える。
しかし、今は違う。
(みんなは傷つかない、前だけを破壊する。…なんだか、ちゃんと出來る気がする…)
魔族の魔法の為報がなく、さらに習得を避けてきた為ラピスが使える破壊魔法は1つだけだ。
その為、父親ディアモンドによる指示で常に魔法陣を刻まれた服を著用しており、その魔法陣を使えば良い為、詠唱は必要ない。
変換した魔力をその魔法陣に注ぎ込み、魔法を形していく。
「……破壊魔法――『無帰』」
 ラピスの前に、全てを呑み込むような黒い球が生まれた。
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