《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》43 師の背中

発生した黒い球はみるみる大していく。

それに伴い、威圧にも似た魔力の圧力が後ろで見守る者達を叩いた。

その圧力に咄嗟に防魔法を発するベルとエミリー。ラルフも剣を抜き、『強化』を発する。

だが、ドラグとロイドは微だにせずただそれを見ていた。

 ラルフが2人を急かすように見るが、ドラグもロイドも肩をすくめるだけで魔法を使う気はないようだ。

さらには、必要ないとでも言うように笑ってみせる。

ラルフはそんな2人をしばし見ていたが、やがて諦めたように溜息をつき、『強化』を解除して剣を納めた。そして、それを見ていたエミリーとベルも魔法を解除する。

「まったく、頑固なやつだな」

「大丈夫ですって。失敗するように見えませんし」

ラルフは頭をかきながら、ロイドは肩をすくめ、2人は隣に立ってラピスに目線を向けている。

そしてその視線の先にいるラピス。その小さいながらもき通る聲が響く。

「――いけ」

その聲に合わせるように『無帰』は振り下ろすような角度でアジトへとき出す。

速度こそ大したものではないが、その全てを飲み込むような黒い球にれた建は、れた先から消滅していく。

それに伴い『無帰』も積を減らしていく。

なるほど、とロイドはそれを眺めながら対消滅という言葉が頭に浮かんだ。

そして、あっと言う間に建を消滅させ、そのまま地面に衝突する。

すると、ベルとエミリーが何かに気付いて魔法の準備を始めた。

遅れて気付いたドラグとラルフも魔法を発させんとく。

「ロイド、あんたも短剣を抜いときなさい!地下で魔力が高まってるわ!」

事前に用意されていたという魔法陣による魔法が発されようとしているのだろう。

恐らく『無帰』により破壊されていく巖盤や迫り來る魔力に気付いて反撃に発しようとしているのだろう。

確かにすでにだいぶ小さくなっている黒い球を見る限り、強力な魔法を行使されれば消滅させるのは困難だろう。

そう思い、短剣を抜いて風に魔力を注いでいく。

 だが、それらを遮るように紡がれた言葉が響き渡った。

「――『無帰』っ!」

再び発生した黒い球が小さくなった最初の『無帰』にぶつかる。

すると2つの黒い球が混じり合わさり、最初のそれを上回る巨大な『無帰』になった。

その一拍の後、地下から魔力の波と赤いが溢れ出した。

「うおっ…!」

余波だけでが焼かれるような熱量に顔を顰めるロイド。

その火魔法を遮るように巨大な黒い球が立ち塞がるが、凄まじい速度で小さくなっていく。

相応に火魔法の威力も大幅に削られているが、どうやらこの削り合いは火魔法が優勢そうだ。

ロイドは援護すべく風を束ねて放った。また、その風より若干早くベルから雷魔法が、エミリーから風魔法が放たれる。

そしてついに『無帰』を食い破った赤い。それに風と雷が衝突した。

――ドガァアアアン!!

耳を劈く轟音と激しい衝撃を撒き散らし、雙方の魔法が弾け飛んだ。

やっとゲイン達の魔法を防ぎ切ったと思わず一息つくロイド。

「っ!危ない!」

「え?」

だが、その油斷をつくように飛來するのは先程より規模は小さいものの同じ火魔法と思われる赤い

敵も打ち破られるのを見越して二段構えの魔法を用意していたようだ。

完全に虛を突かれた一撃は、真っ直ぐにアジトを破壊した者ーーラピスへと向かっていく。

「くっ!」

ロイドは慌てて魔法や魔を発しようとするが、間に合わない。

ベル、エミリーも打ち破る程の魔法を組むには厳しいタイミングである。

「くそっ!」

「きゃっ!?」

そう即座に判斷したロイドはすぐに駆け出してラピスの腕を摑み、後方へと引っ張る。

そしてれ替わるようにラピスを後方、ドラグの方へと放り投げる。 

「っく!」

ロイドは短剣を突き出して風を放つ。しかし、咄嗟のため威力に欠けるそれは一瞬の抵抗も許さず掻き消される。

「ロイドっ!」

ぶエミリーの聲を耳に、眼前に迫った赤いにロイドは飲み込まれていく。

「いやぁ、お前も男だな。かっこいいじゃねーか」

 ――事はなかった。

一瞬で眼前に現れたラルフが、背中越しに賛辭の言葉を放りつつ、手に持つ剣を振り下ろした。

――ズパンッ!!

たった一振りの剣。それは短くも鋭い音と共に赤いを斬り飛ばした。

迫る熱気も噓のように消し飛び、遅れて巻き起こった汗ばんだを風が冷やしてくれる。

「まぁあとはこんくらいは斬れるようになれよ。魔法…じゃなかったな、魔だけだと咄嗟の対応には困るからな」

いやこんくらいとか言うレベルじゃねーよ、とかそもそも”魔法斬り”でもないのにスパスパ斬れてたまるかとか、とか思わず浮かんだ言葉達。

だが、口から出たのは全く違う言葉で。

「ありがとうございます。先生に教えてもらってたら出來るようになりますかね?」

あまりに頼りになる背中に、圧倒的な力に、憧れるなと言う方が無理な話であった。

こうやって守れる力がしい、と心の底から思ってしまう。

「おー、筋も良いし出來るだろ。どっかで強化の魔でもあれば尚良しだけどな」

顔だけ振り返って笑うラルフに、ロイドはつられるように笑い返す。

「ははっ、ならどっかで拾ってきますね」

「おー、そうしろ。この山脈のどっかにでも落ちてるだろ」

軽い口調で今はなき技を習得するなんて話す師弟。

ドラグが後ろでそんな犬か貓みたいに、とか呟く。

「それより、やっとお出ましだ。さくっと終わらせて帰るぞ」

「了解っす」

隨分と見晴らしが良くなったアジトの跡地。

そこに殘る大きなから這い出てくるのは、黒いローブを纏う男――エリオット。それに続くはラルフを上回るような巨軀に、真紅の髪が目を引く男――ゲインだ。

「よォ、やってくれたなテメェら!皆殺しにしてやらァ!!」

空気を破裂させたかのような大きな聲に、ロイドは思わず顔を顰める。

その聲が五月蝿いと言わんばかりに後ろから雷魔法と風魔法がゲインに飛來しーー轟音を上げて直撃した。

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