《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》44 ベル無雙
「……これ、さくっと終わらせちゃいましたかね?」
あまりに唐突かつ無慈悲な攻撃に、ロイドは思わず呟く。
が、ラルフは剣を構えたまま、目線を外そうとしない。
「だと楽なんだけどな。忘れたか?あいつのスキル」
「はっはァ!効かねェな!」
ラルフの言葉を証明するように、無傷のゲインがそこには居た。
ロイドは『魔力分解』の効果がここまでとは、と息を呑む。
「やっぱりダメだねぇ。剣神、ゲインはあんたに任せたよ」
「最初からそのつもりだ。なんならローブのやつもついでに斬ってもいいぜ」
「あいつは私のストレス発散相手だよ。とるんじゃないよ」
「じゃあ僕は座って待つとするよ」
「おい待てこら、お前は子供の護衛な。サボんな」
作戦會議、と言うには気の抜けた會話をするラルフ達。
だが敵の前だけあってきは素早く、即座に配置についた。
 
ラルフとベルがゲイン達の前に並び、ドラグはロイドを抱えてラピスとエミリーの居る所まで下がる。
「先生、早めに終わらせちゃって下さいね」
「おー、ちょっと待ってろよ」
下がった場所から応援ともつかない言葉を送るロイドに、ラルフはやはり軽い口調で返した。
「あァ?」
それが癇に障ったのか、ゲインはこめかみに青筋を浮かべた。
目線はラルフに固定されており、どうやら標的が決まったようだ。
「剣神、テメェ…」
「よぉ、久しぶりの再會のとこ悪いが、子供達は日が沈む前に帰してやりたいんだ。巻いてくから覚悟しとけ」
「なめてんのか!くたばりやがれェ!」
その言葉についにキレたらしいゲイン。手に持つ大剣を振りかぶりながらラルフへと突っ込んでいく。
それを援護しようと無數の『火球』をゲインを迂回するように放つエリオット。だが、それらは橫から雷魔法に貫かれて消失する。
「”壁”ん時は世話んなったねぇ。今度は逃しゃしないよ」
「……『萬雷』か…」
  余波のように放電現象を発生している中に悠然と立つ傑。
エリオットは張をじさせつつも退く事なくしっかりとベルに相対する。
「あんたも萬雷萬雷うるさいよ。今は本屋の店主してんだからね」
「そんな本屋行きたくないんだが…」
そう返しつつエリオットはローブの上から背負っていた盾を構えた。
”壁”の時には持っていなかったそれに、ベルは鼻を鳴らす。
「ふん、なんだい?私対策って訳かい?」
「そうだ」
「ふーん……”雷よ、貫け、『雷槍』”」
 ベルは面白そうに口角を上げ、小手調べに雷魔法初級『雷槍』を放つ。
雷速で迫る鋭い槍に、しかし素早く構えられた盾にぶつかった雷の槍は、あまりにあっさりと弾けて消えてしまった。
(手応えが無さすぎるねぇ…耐どうこうじゃなく、無効化されてるじかね)
その様子から盾の特に當たりをつけるベル。
そこに、いつの間にか詠唱していた様子のエリオットが魔法を放つ。
「『炎砲』!」
「ちっ…」
 ベルはそれを舌打ちしつつ橫飛びになって躱した。
こちらの魔法発の直後をしっかりと狙ってきている。
確実に防ぎ、隙をつく攻撃。
なんとも基本的な対策だが、しかしだからこそ手堅く崩しにくい。
迂闊に攻めれば手痛いカウンターをもらいかねないし、防魔法が間に合わないので範囲魔法などが撃ち込まれれば回避は出來ないだろう。
「さて、どうしようかねぇ」
さらには思考している間に追撃がない。調子に乗って攻めて來ようものならこちらもカウンターでも叩き込もうと思っていたが、どうやらカウンターに徹するつもりらしい。
「こりゃ面倒だねぇ…仕方ない」
本當に面倒そうに溜息をつくベル。
だが、短期決戦で済ませると豪語していた師弟達の會話もある。
ラルフが終わらせた時に下っ端のエリオットといつまでも戦っているのはなんかすっごく腹立つ。というプライドもあり、ベルはこの戦いの方針を決める。
「何回もするのは疲れるんだけどねぇ…」
そう獨り言を呟きつつ、魔力を練り上げるベル。
その圧力にエリオットはおろか、後方にいるロイドやエミリー、ラピスも思わず息を呑む。
「”雷よ、天の怒りよ、萬の紫となりて全てを貫け、降り注げーー『萬雷』」
彼の代名詞であるオリジナル上級魔法ーー萬雷。
前世ではかつて神の怒りとされていた現象を、ベルは己の魔力のみで再現する。
 天より降り注ぐ極大の雷。それがまるで雨がのように絶え間無く落ちる。
「來たかっ!」
その絶大な猛威にさらされたエリオットは、盾を上に構えて小さくなり、必死に耐えるしか出來ない。
それでも無効化の盾は雷撃自はどうにか防いでいる。
「ぐっ…!」
だが、伝わる凄まじい衝撃までは無効化出來ないようだ。
エリオットは歯をくいしばり、汗を滝のように流して踏ん張っているのがやっとといった様子だ。
 「あれま、反撃は來ないみたいだねぇ。いいのかい?萬雷を撃ってる間は隙だらけだってのに」
「……っ!!」
その様子を嘲笑うように言うベル。
だが、エリオットは言葉を返す余裕すらないようだ。
「すげぇゴリ押しだな…」
 その様子にロイドは思わず呟く。
「そうね。と言ってもあんなバカげた威力の魔法に耐えている魔法の盾の方がすごいわよ。普通ならとっくに跡形もないわ」
「そうだな。ゴリ押しは間違いないが、それを粘る相手も大したものだ」
エミリー、ドラグも続いて想を述べる。
だが、とドラグは言葉を続けた。
「確かにベルは圧倒的な破壊力で敵を圧倒する傾向はあるが、本來『萬雷』は対多數の魔法。それをいくらコントロールして集中させているとは言え1人の相手に使うのはあまりに非効率だ」
そう言われてよく見ると、確かにほとんどの雷がエリオットに命中しているが、いくつかはその周りの地面や木々に降り注いでいた。
「『萬雷』は魔力を相當使うし、魔力が盡きた瞬間に反撃をけてしまえば防もままならない。このまま粘られたら負けるぞ」
「……なるほど」
ドラグは、淡々と最悪の予想を告げる。
それを聞き、心配そうな表を浮かべるロイドとラピス。
現にエリオットは辛そうな表を浮かべて耐えているとは言え、無傷な上に魔力自は消費していない。
剣士などと違い魔法師は力より魔力の殘量が重要である。
その視點で見れば、ぱっと見て押されているエリオットだが、刻一刻と魔力が目減りするベルよりエリオットの方が有利と言えるだろう。
「……」
だが、エミリーはじっとエリオットの方を見詰めている。
「……いいえ、違うわ。この勝負、そろそろ終わるわ」
「え?」
獨り言のように呟くエミリーに、ロイドは思わず聞き返す。
だが、エミリーの返事を遮るように。
先にベルの聲が響いた。
「……”雷よ、墮ちた紫よ、集いて咲け、『雷華』”」
 その瞬間、エリオットが立つ地面を起點に、兇悪ながらもしい雷の華が咲いた。
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