《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》47 魔導

「あぁぁぁぁ……しばらく何もしたくない…」

「まぁ、その魔王來るんだけどね」

スタンピードを終息させた一同はウィンディア領へと戻っていた。

ちなみに帰る前にカインに顔を見せに行ったのだが、無言で毆られた。解せぬ。

その後に一言、心配させるなという言葉にロイドびっくり。

マジか、俺のこと心配してくれるヤツがいるとは、と口にしたらもう一発毆られた。

だって兄ですら心配してないと豪語するし、合流した親達にも言われたし。

親友だって本當に心配してたの?って軽い調子だし。

とは言え、ロイドにとってのもう1人親友が心配したというならばと素直に謝罪しておいた。次から気をつける、と誠意を込めて。

なのに返ってきた言葉はクレアやエミリーと似たもので、信用ならんの一言。もうね、こいつら俺にどうしろと。

ともあれ結局はしばしくだらない雑談に花を咲かせた。

いい加減に政務に戻ってくれと涙目で言うクロンが來るまで話した。むしろクロンが涙を流すまで話した。

その後、悪ノリが過ぎたとカインと共にクロンに謝った後、やっとさっき戻ってきたのである。

「でも、魔王のやつも結構疲れてたんだよな?」

「そうだね。魔さえ出てこなかったら勝てたと斷言出來る程にはね」

「なら數日は大丈夫だな」

「ま、そうだろうね」

なんせこちらにはレオンとアリアが居るのだ。

魔王から見ても簡単な相手ではない。向こうも全快になるまで出ては來ないだろう。

そう言うまでもなく理解しているロイドとフィンクが橫並びに寢転がって話す。

「それにしても、みんなして休みか。たまには良いもんだな」

「だね。冒険者達には謝だよ」

普段でさえもフェブル山脈の見張りとして數人は立っているし、農業や狩猟だったりとき回る住民は當然居る。

が、今はそれら全てを冒険者が代わりに行っていた。

いわく、來たついでにウィンディアの連中に恩を作っておこう、というものらしい。

最も、そうだとしても力的すぎる程に働く彼らからは、言葉にした以上のものがじられた。

「おまけに魔力まで分けてもらうし、いたせり盡せりだわ」

「それが正直一番助かったよね」

冒険者達の中で『魔力譲渡』が使える者達が、ウィンディアでも魔力の減った者を優先して魔力を渡していったのだ。

特に減っていた新世代組――ロイドやフィンク達はその恩恵は心底ありがたかった。

「まぁまだ全快じゃないから、大人しくしておこうね」

「兄さんこそ。アリアに手合わせとか言って飛び出していくなよ?」

「安心しなよ。それもうやったから」

「なんていらねぇ頼もしさだ……」

軽口を叩きつつ、全力でだらける2人。

それぞれのベッドに大の字に転がる2人は、が繋がらないまでも仲の良い兄弟そのものだった。

「そういや久々だな、兄さんと同じ部屋で寢るの」

「そうだね。ロイドが小さい頃は面倒見るがてら一緒だったんだけどね」

「噓つけ。兄さんだって面倒見られてた年頃だろーがよ」

「そうだったかな?あ、そういえばあの頃はエミリーも來てたよね」

「あー、だったな。の子だからって仲間外れにするなーっつって。今の姉さんが言うとこ想像したらウケるよな」

「ふふ、今でも心では思ってるかも知れないよ?」

「ははっ、そん時は全力で笑ってやろ」

そんな事を話していると、ガチャリと扉が開いた。え?という表のロイドと、まるで読んでいたかのように笑うフィンク。

そして姿を表すのは、やはりというべきかエミリーだった。

「………俺は死ぬのか?」

「ふふ、気配探知が甘いよロイド」

「こんなだらけモードで分かるわけねーだろ……」

小聲で話す2人に、ふらりふらりとエミリーが近寄る。

そして、ロイドのベッドの橫に立ち、

「……ん?」

「あぁ、そっちのパターンか」

もそもぞとロイドの布団の中に。

「お、おい?そんな超インファイトある?」

「何言ってるんだい?昔はよくあったろ、寢ぼけてるんだよ」

「はぁ?……あぁ」

そういえばちょくちょく寢ぼけた姉さんがり込んできてたな、とロイドは思い出す。

「ふふ、ロイド。やっぱり今でも仲間外れな嫌みたいだよ?ほら、全力で笑いなよ」

「無茶言うなよ兄さん……」

揶揄うフィンクにロイドはお手上げといった表で返す。

実際、あまり余裕がなかったりする。

昔は単に姉弟といったじに接していたが、最近はそうもいかない。それに、実際が繋がっていないのだから尚のことだ。

そんなロイドに追い討ちをかけるように、エミリーがロイドの板に顔をすり寄せる。

普段は凜とした彼の小的な仕草は、ギャップも相まって実に心臓によろしくなかった。

「先輩っ!出來たみたいですよ!早く來てくださいっ!……ん?」

ロイドの心臓に休息はやらねぇ、とばかりに今度は勢いよく扉を開けてってくるのはクレアだ。

そしてすぐに布団の膨らみに気づく。

「……先輩」

「まぁ待て。前にも言ったよな?姉さん、寢ぼけてんだよ」

以前にも同じシチュエーションはあった。

それを伝えるロイドの表は引き攣っているが。

「別に怒ってませんよ」

「……そうか」

にっこり笑うクレア。噓ではないのだろう。が、妙に威圧があるような。

「はい、私もお邪魔しますから」

「へ? っておいおいっ?!」

「しー、です。エミリーさん起きちゃいますよ?」

そう言いつつ、クレアはエミリーの反対側に回り込んでもぞもぞ。そしてぎゅっ。

「ふふ、羨ましいよロイド」

「……兄さん、覚えてとけよ」

揶揄うようなフィンクに苦し紛れな捨て臺詞しか吐けない。これが休息?心臓がやばいですけど?

そこで再びドアノブが回る。がちゃり、という音と共に現れたのはレオンだ。

「おいクソガキ、いつまで寢て……」

バタン。

ガチャリ。

「もう、何なのよレオンったら。ねえロイド、そろそろ起きて來なさ……」

バタン。

ガチャリ。

「おいロイド、寢坊も程々にしとけよー。って起きてんじゃねぇか、何してん……」

バタン。

ガチャリ。

「ロイド、フィンク。そろそろ起き………ロイド、兄の橫で晝からというのはだな」

「ち、違う!おい起きろ2人とも!とんでもねー誤解を父にされてしまってるぞこれ!」

「誤解なのかい?」

「兄さん?!」

あーもうやだこのウィンディアの男ども!とウィンディアの次男のび聲が響き、しばらくしてやっとロイド達は呼ばれた先へと足を運んだのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「これが魔導ってヤツか」

「そうらしいの。えらく加工しにくかったが、まぁ良いもんが出來たはずじゃ」

ウィンディア領鍛冶屋のロゼットから手渡されたのは、2本の短刀だ。

黒一のそれは、鋼鉄に見られる沢はほとんどなく、金屬というよりどこか巖のような質にも見える。

「短刀か、懐かしい覚だなこりゃ。ありがと、ロゼットさん。てか結構重いんだな」

「お前もでかくなったしな。昔よりは重くした方が良いだろうよ」

ここ數年は短剣は使っていなかったが、元々は短剣二刀流…母シルビアの戦い方を真似て使っていた。

しかし近距離戦闘とを鍛えるに従い、ロイドの力に耐えられる武が無くなっていったのだ。

シルビアが自の持つ業の短剣をプレゼントしてくれようとした事もあったが、使う使わないはともかく魔法師である彼の近距離戦闘武となれば命綱となる代

ましてやそれほどの業の代わりなんてそうそう見つかるものではない。母が持つべきだと考えたロイドは、そう簡単にけ取る訳にはいかなかった。

結局、師と同じく武を手放す方向に進んだのである。

しかし今こうして握る短剣に違和よりも懐かしさを抱く。

それに、握る覚もどこか似通っており、おそらくはロゼットが握りの部分を調整して拵えてくれたのだろうと改めてロイドは頭を下げた。

「ほれ、レオンさん。アンタのがこれだよ」

これといって特筆することもない形狀の剣だ。

はロイドの短剣と同じであり、レオンを知る者からすればどうにも頼りなく見えてしまう剣と言っても良い。

そんな視線が集まる中、レオンはその柄を握り、魔力をし流しながら剣を軽く振るう。

「良い剣だ、禮を言う」

「お眼鏡にかなったんなら何よりじゃい」

しかしレオンとしては満足らしく、剣を確かめるように振るい続けている。

その剣速は段々と増していき、あっという間に視認できる域を超えた。が、剣が壊れる様子はない。

「うわ、嬉しそ」

「そりゃね。最近は脳筋よろしく素手だったけど、あれで生粋の剣士だったからね、あいつ」

その様子をロイドとアリアが微笑ましく眺める。

それに珍しく気付いた様子もなく、レオンはそのまま領の向こうーーフェブル山脈へと視線をやり、そしてルーガスへと移す。

「試し斬り、しても良いか」

「どうぞ師匠」

「師匠はやめろと……まぁいい」

お決まりのやりとりよりも、試したい気持ちが勝ったらしい。

レオンは剣を右手に握り、腰あたりに構える。

その一瞬、空気がひやりと引き締まった気がした。

まるで神社や人気のない山奧のような、どこか神聖さすらじる気配。

剣を握るレオンという、アリアを除けば見慣れない姿のはずなのに、あたかも昔からそれを見ていたかのような違和の無さ。

確かにそれは、かつて『剣神』と呼ばれた男の姿だった。

その姿に目を瞠る面々を他所に、レオンは剣を居合いのようなきで振り抜いた。

豪ッ、と巻き起こる一陣の風。

直後、山脈の一部が斬れた。

「てっ、てっ、ててて敵襲だぁー!!」

「とんでもねぇのが來るぞ!構えろてめぇらあっ!」

「山が、山が吹っ飛んだぞ!化けが來るぞ!」

「魔王か?!魔王だよな!?魔王が來るぞー!」

ウィンディア領の外で見張りをしていた冒険者は大パニック。

目の前で見守っていたロイド達も呆然。

剣を振り抜いた姿はひとつの蕓ともとれる完されたもの。

それは武に関わる者であれば思わず目を奪われるほど。

その殘心を解くレオンに、ハッとしたようにロイド達は我にかえり、そして言う。

「………と、取り上げろぉっ!」

「持たすな危険っ!」

「ちょ、あんたそれ離しなさいっ!」

我に返ったロイド、グラン、アリアまでもが慌ててレオンの剣を取り上げようと摑みかかる。

が、レオンさんどうやら気にったらしく、その人外の握力で決して離さない。

「くっ、こいつめっちゃ握りしめてやがる!」

「うそ、なにこれ?!接著されてんじゃねぇのか?!」

「こらレオン!ペイっしなさい!良い子だから!」

「離せ、これは俺のだ」

「子供か!」

しばしの爭いが起きたが、しかし冷靜に考えて魔王との戦いでは有利に働くのだ。それまでは持っていて損はない。それまでは。

戦いが終わったら絶対回収せねば、と意気込む面々をさておき、ルーガスが口を開く。

「ロイド、お前も試し斬りをしたらどうだ?」

「ん?あぁ、そうだな」

言われて短剣を握る。とは言え師ほどの馬鹿力はなく、振るっただけで耐えられないから分かる、という程人間辭めてない。

何を斬るか、と考えるロイドに、2人の年が一歩進み出た。

「よーしロイド、俺の地魔が斬れるかな?」

「重さも変わってるんだよね?のこなしも確かめたいんじゃないかい?」

グランとフィンクだ。

どこか好戦的な2人の笑みに、ロイドはつられたように同種の笑みを浮かべる。

「いいね、やるか」

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