《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》49 フライング

「だあぁぁぁっ!疲れたっ!」

「ほんとにね。手合わせ程度にムキになりすぎだよロイド」

「……よく真顔で言えるよな兄さん」

今朝の繰り返しのような景だった。

ロイドとフィンクは試し斬りという名の手合わせを終えて、再び休憩をとるよう言われたのだ。

ちなみに賭けのこともあり勝負自はどんどん白熱していった。だが、いい加減に魔王戦前にやりすぎだとクレア、エミリーに怒られて切り上げる事となった。

もちろん冒険者達あらもブーイングの嵐だったが、それをエミリーがひと睨みで鎮火。

「やっぱウィンディアのは怖い」とぼやく観衆達に、シルビアの睨みも追加されてついに冒険者達はその場から逃げ出していたが。

ちなみにウィンディア勢も楽しんでいたのか不満げだったが、それをクレアのひと睨みで鎮火。

もうっ、と頬を膨らせるクレアに名だたる強者達も申し訳なさそうに頬をかいていた。

レオンといい、どうにもクレアは目上に好かれやすいな、とロイドは思う。

その様子に次世代は安泰だな、と妙な納得をする親世代がいたりしたのだが、それはともかく。

それから解散となって各々が楽しげに勝負について話したりしながら帰路についたのだが、様子のおかしい頬を朱に染めたアリアをレオンが不思議そうにしていたりした。

その様子に陣などは微笑ましそうにしており、首を傾げるロイドやフィンクを呆れた目で見ていたグランがいたりしたのも、まぁさておきである。

「しかし、レオンさんの剣士スタイルか。もしかすると魔王戦も優位になるかもね」

「かもなー。なんなら周りが気をつけとかねーと被害が出そうだけど」

「ふふ、確かにね」

なんせ山脈の一部を斬り飛ばしたのだ。

戦いの後、魔王よりレオンに斬り殺された者の方が多いなんて事もあり得かねないと、2人は苦笑いを浮かべる。

「てかさすがにちょっと寢ようかな。マジで疲れた。兄さんはしゃぎすぎ」

「はしゃぐ弟につられたかな。困った弟だよ」

「マジか無敵かよこいつ」

軽口を叩きつつ目を閉じる。

あっと言う間に意識が遠退き、やっぱ疲れてたんだなと他人事な想を最後にロイドは眠りについた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「んぁ………」

ふと目を覚ますと、周囲はほんのり朱混じりなが差し込み、寢る前よりも薄暗くなっていた。

どうやら夕方近くまで寢てたようで、ロイドは布団の中でびをしようと腕を頭上へと持ち上げる。

「……あれ?」

しかし何かに引っかかって腕がかない。しかも両腕ともだ。

「…………」

ちらり、と視線を下――両腕の方にかすと、これまた今朝の繰り返しのような景があった。

両腕にそれぞれしがみつくクレアとエミリーに、さすがのロイドも言葉を失う。

フェブル山脈でレオンと修行していた時は睡眠中に魔に襲われようとも即座に反撃していたというのに、布団にられても反応はおろか睡とは。

ロイドは勘が衰えたか?と苦笑い。それだけ疲れていたのか、それともこの2人だからこそ無意識にれてしまったのか。

橫に視線をやれば、兄フィンクも穏やかな寢息をたてていた。珍しくロイドの方が早く起きたようで、まだ兄も睡らしい。

しかしロイドの目は覚めてしまった。當然だ、びっくりしすぎて心臓が痛いんだもの。

「……抜け出すか」

起こさないように抜け出そうとするロイド。ゆっくりと腕を引き抜こうとして、

「ダメです。ゆっくりした方が良いですよ、先輩」

ぎゅ、とクレアに腕を摑まれた。

「っ、…………起こしたか?」

悲鳴を上げなかった自分を褒めつつ、冷靜を裝って小聲で話しかける。

そんなロイドを見かすような、どこか悪戯っけのある笑顔でクレアは橫に首を振る。

「ずっと起きてましたよ。……えへへ、幸せでした」

ついに言葉に詰まる。

なんて返しゃいいんだこんなん、となんだか投げやりにすらなりそうな心持ちでロイドはの力を抜いた。

「……姉さんは、寢てるのか」

「エミリーさんも疲れてたみたいで休んでましたが……まぁいつものお寢ぼけさんモードでした。ほんとかわいいですよね、あれ」

「そうかもな、ガキの頃からだから慣れてはいるけど。…。クレアは疲れてないのか?」

「疲れてるからこうして充電してるんですよ?」

「………あ、そ」

「はいっ」

なんだろう、何故か口の中が甘い気がする。

その上クレアが嬉しそうにくっついてくるもんだから余計に糖度がーー

「……先輩、逃げなくなりましたねぇ」

「逃がす気はあったのか」

「あ、なんですかその呆れた顔っ。ありますよ?……魔王を倒すまでは、ですけど」

「あー、そーゆー事ね」

クレアの言葉の意味を悟り、ロイドは肩をすくめる。

やる事がーー師の本懐を遂げる為に、そしてそれをロイド自が強くんでいる事をクレアは當然知っている。

そして日本に居た頃から、これをやると決めたロイドが他に目もくれず一直線な事も。

だからこそ、魔王を倒すまで告げた好意の言葉の返事は聞かないーーアプローチは當然しますけどね、とはクレアの談ーーが、そうして見逃すのもあとしだと言う事だ。

そんな事を思い、それから何かを考えるように虛空に視線をやってから、數秒。

反対側、エミリーに視線をやる。

「……姉さん、いつから起きてた?」

「……………うるさいわよ」

反応からしてし前に起きていたらしい彼

どうやらくにけないようで、だんだんと直させていくのだから気付かないはずがない。

またやってしまったのか、とばかりに己の寢ぼけ癖と狀況による恥ずかしさから赤い顔を隠すように顔をロイドの腕に押し當てるようにして伏せる。

「……エミリー、無理せず出れば良くないか?」

「うっさい」

見るのも哀れなほどにを固くするエミリーに見かねて言うも、エミリーはかない。

むしろ出てたまるかとばかりに腕におでこをぐりぐりと押し付ける。

「あとは魔王を燃やすだけでしょ。ちょっとフライングよ」

「フライングの意味違くねーか?」

「違うかどうかはアンタ次第じゃない」

「あー、そーゆー事ね」

了承するなら同じ事だろと男前ともとれるエミリーの発言。その姉らしさにロイドは小さく笑う。

先程のクレアの時と同じくお手上げとばかりに黙らされるロイド。それからちらりと橫を見る。兄、寢てる。

ふむ、とロイドは小さく息を吐いた。

「……まぁ今かよって話だし、フライングな話なんだが」

そう言いつつ、ロイドは2人に摑まれた腕をするりと抜く。

するとそれを責めるようにバッと2人の顔が跳ね上がり、2人の顔がよく見えた。

銀糸のような細くき通るような銀髪に、魅られそうな紅い瞳。

濡れたような艶のある黒髪と、黒曜石のようなしい黒い瞳。

なんで元日本人の方が異世界ぽい容姿なんだ、とロイドはよく思ったもんだと思い返しながら、2人の整った顔を眺める。

そして自由を取り戻した両腕で、2人を軽く抱きしめた。

「ちょ、ちょちょっとロイド?!」

「せせせせ先輩っ?!」

「俺、実は2人とも好きになっちまったんだよ。だから魔王戦終わるまで待ってくれんかな。ちゃんと選ぶから」

揺極まりない2人を無視して、さらりと言ってのけた。

エミリーとクレアの大きな瞳がさらに見開かれる。

「いやまぁ、最低な事言ってんなーとは思うけど、まぁそこは2人とも可いすぎるのが悪いっつー事で。お互い様だよな?」

苦笑い気味に、どこか開き直った容を口にする。

「ほんとは魔王戦後に、ちゃんと選び終わってから言うつもりだったんだけどな。1日に何度もこんな可い事されちゃ口から飛び出るって。反省してくれよ?」

ふざけるような口調ながらし気まずげな表のロイドは、そこまで言うとひとつ溜息。

「さてと、なかなかクズな発言をした自覚はある。てなワケで毆りたいなら今から1分だけ無抵抗でれます。よーいどん」

そのまま罰をれたように目を閉じる。頼む、どうか魔法での制裁は勘弁してくれ、死にかねない、と心で祈る。

ちなみに一分の制限は當然命の為だ。それ以上はマジで死ぬ。

だがしかし、來るべき衝撃はない。魔法発の前兆たる魔力の高まりもない。

そー、と目を開くロイド。

「あ、あんたね……可い可い言い過ぎなのよ…」

「……切り替え早いのは先輩らしいですけど、こっちは保たないんですけど」

そこには顔を真っ赤にして睨みつけてくる2人が。とは言えし涙目で制からして上目遣い。當然、可さが勝つ。

あーもうやだこの2人、と荒ぶりそうな本能を片っ端から空間魔でポイポーイしながらロイドは無言で耐える。

「て、てゆーかロイド、私のこと、す、すす好きなの?」

「………ウソとかじゃないですよね?」

「こんなウソつくやつおる?好きだよ、2人とも。だから困ってるんだけどな……」

てか今更だけどこれ2人まとめて言うことじゃなかったな。うわマジでやらかした、アホだ俺。と心で本気でへこむロイドの前で、エミリーとクレアは目を合わせる。

「………えっと…あの、お二方…?」

本當に自分で言うのもあれだが、ケンカとかにならないでしい。単純に2人には仲良くしてしいし、あと何より被害がえげつなさそう。

だがそんなロイドの心配を他所に、2人は示し合わせたようにへにゃりと表を緩めた。

「えへへ、よろしくです、エミリーさん」

「こちらこそよ。……あとそのさん付けがついたり消えたりするの何なのよ」

「気分ですよぉ」

緒不安定に見えるから統一しなさいよ」

終いには何やら和やかに會話を始めた。その表はついつられてしまう程に緩んでいるが。

達からすれば、あの分かりやすく分かりにくい、摑みどころのないロイドが本音を言葉にしてくれたのだ。

彼らしくさらっとした告白だったが、その眼は疑いすら抱かせない真っ直ぐさがあった。

言葉と裏腹なその眼もなんだか彼らしく、湧き上がる嬉しさが止まらない。

対して本気でついていけなくなってきたロイドは、無意識のうちに助けを求めて頼りになる兄を見る。いや実際恥ずかしくて頼れないけど。

だがロイドの目には予想外な景が。

助けてほしいけど起きててしくない頼れる兄、フィンクがいない。え、まさか出て行った?いつの間に?

いや違う、よくよく見れば魔力の殘滓……空間魔のそれをじる。うわこれアリアが空間魔で逃したのか。

ロイド、エミリー、クレア級の真橫で上級魔の行使とは。伝説ともいえる英雄の超絶技巧をこんな無駄遣いするなよ。てか狀況知られるって事だよね。覗き見でもしてんの?なんて下世話な英雄だよ。 ととりとめのない思考に呑まれつつあったが、ふと二対の視線に気付いたそちらを向く。

「どうしました、先輩?」

「いや……まぁ、いい。とりあえず、そんなワケで今は戻ってくれねーか?魔王ぶっ飛ばしたらちゃんと言うからさ」

「……?あんた、まさか分かってないの?」

「さすが先輩です。変なとこ鈍いです」

「ん?」

目を丸くするロイドに、2人は呆れた表だ。

「先輩、この國って一夫多妻もオッケーらしいですよ?」

「ちなみに人もしてるから、今すぐにでも結婚出來るわよ」

「……………へ?」

ロイドらしくなく、本気で思考が止まった。ポカン、とただただ呆ける。

「うふふ、先輩と両想い……えへへ、やばいです、嬉しすぎますっ!」

「ロイドと、付き合えるのよね。……どうしよ、幸せすぎるわ」

そんなロイドに構わず、クレアとエミリーは幸せいっぱいといった笑顔でロイドにくっつく。

されるがままなロイドだが、しばらくしてやっと理解か追いついた。

選べなくて苦心していたのだが、こうもあっさりと、しかも予想外な落ち著き方をしてしまったのだ。

思わず肩をすくめて、力が抜けたように苦笑い。

「……それじゃ、2倍頑張って2人とも幸せにしねーとな」

「何言ってるんですか?」

「皆んなで頑張るのよ、バカ」

「わお、2人とも男前」

幸せそうな笑顔の2人に、ロイドもつられたように似たような笑顔を浮かべるのであった。

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