《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》50.最終決戦開幕

「クソガキ、魔力は戻ったのか」

「楽勝。ジジイこそ歳だし回復間に合わんかったんじゃねーの?」

「馬鹿が。お前より早く回復したに決まってるだろうが」

「はいはい。ほらアンタ達、じゃれてる場合じゃないわよ」

「そうですよ先輩。じゃれるのは後にしてください」

「ほんと飽きもせずにじゃれちゃって……レオンもロイドも、今くらい空気読みなさいよ」

「「じゃれてない!」」

「頼もしいガキ達だなぁおい」

「俺の子供で師匠の弟子とその未來の嫁だからな。當然だ」

「えっ、あいつらついにくっついたんかよ?」

「いや知らんが……時間の問題だろう」

「そうよぉ。エミリーも最近は頑張ってるんだから」

「へぇ……ロイドのやつモテてんなぁ。まぁ分からなくてもねぇか」

「ふん、どいつもこいつもが足りてないねぇ」

「全くだ。こっちは冒険者共に指示で追われているというのに」

「あんた遅いねぇ。魔法師の指示はもう完了したよ」

「お前だけドラグをこきつかったくせに隨分偉そうだな……」

「ほんとそれ。人遣い荒い。もう疲れた。帰って寢たい」

「「今からが本番だぞ!」」

「なぁなぁフィンク、ロイドのやつら雰囲気違くねぇか?」

「気付いたかい?さすがだねグラン。あれは間違いなく一歩進んだと思うよ」

「え?いや、あれ一歩どころじゃなくねぇか?多分ゴールしてるだろ」

「え?そうかい?あの鈍がそこまで進むとは思えないけど」

「フィンク、あんたもなんだかんだ鈍いからな」

「?!」

「おいおい……なんで揃いも揃って雑談してんだよあいつらは」

「こ、こっちはの震えが止まらねぇってのによ……」

「あれだ、頭おかしいんだよきっと」

「間違いねぇ。強くなる為に常識と普通のを捨てたんだろ多分」

そんな會話が行われるのはウィンディア領近くのフェブル山脈麓。

分厚い雲が空を覆う灰の世界。

ウィンディアの戦士達と王都の冒険者や魔法師に、帝國の鋭が集っていた。

そしてそれらが対峙する先。

フェブル山脈、連なる山々の中でしばかり標高が低い山――レオンが斬り飛ばしたーーから、悍ましい魔力が這い出るかのように近付いてきている。

「そろそろ程範囲だな」

「やっぱりぞろぞろ連れてきたわねぇ……」

その集団の先頭に立つ2人、レオンとアリアが呟いた。それを拾い、ディアモンドとベルか聲を張る。

「もう程範囲なのか、全くとんでもないな。……おい冒険者どもぉ!魔の大群が來るぞ!魔王から距離をとりつつ魔が逃げないよう包囲!先頭集団かられたやつらを狩り盡くせぇっ!」

「魔法師!あんたら魔法部隊はでかいの構えときな!合図のあとに魔を狙ってぶちかますんだよ!魔王には辭めときな、無駄打ちになりかねないからねぇ!」

「「「おおおおぉっ!!」」」

「「「っしゃぁあっ!!」」」

レオンとアリアの後ろに続くウィンディアの戦士達。

それらから距離をとって包囲するように散開気味に待ち構える冒険者や魔法師達は、いよいよかと戦意を高める。

そして、ついに山頂からその姿を目視出來るに至った。

「………きやがった…」

先日のスタンピードほどはなくとも、山を黒く染める魔の群れ。

數千は居る魔はウィンディアの面々からしても見慣れない魔が多く、魔國でかき集めたものだと分かる。

そしてその先頭。

黒い竜の額に乗って腰を下ろしている一際悍ましい魔力。

「魔王もいるな」

「後方に控えて、先に魔だけ送り込んでこっちを消耗させるかと思ったけどな」

「やつとて、それが大して意味がないと分かっているのだろう」

先頭からさらに前に一歩出る2人は、じわりと魔力を高めていく。

黒い剣を構える師と、黒い短剣2本を構える弟子だ。

が、ふと1人――ロイドが振り返った。

「お?そーいや開戦の音頭はいらねーの?最終戦だろこれ、援軍達のテンション上げといた方がいいんじゃ?」

「あー、そうね。地味に大事だものねぇ、あれ」

アリアが忘れていたとばかりに手のひらにぽんと拳を乗せた。

「相手も見えてるし、一発やるとしましょう。レオン、やりなさい」

「卻下だ」

「ぷっ、口下手だもんなジジイ」

「貴様よりはマシだ」

「はいはい。んじゃロイドやりなさい」

「嫌だ。アリアがやってくれよ、向いてそーじゃん」

「そうだな、確かにアリアは向いている」

「あんた達、こんな時だけ息ぴったりなの腹立つわね……」

「うるさいぞ目立ちたがり屋」

「いよっ!英雄の良いとこ見てみたいっ!」

テンション真逆ながらも結果的に煽る2人に大きなため息で怒気を吐き捨て、アリアは振り返る。

若干こめかみに青筋が浮いているあたり、吐き捨てきれなかったようだが。

そして、息を軽く吸う。

「アンタ達、いよいよ最後の戦いよ!見えてるわよね、人類の敵、魔王とその下っ端どもが!こいつら全員倒さないと、人類に未來はない!そうなれば、アンタ達の大事な人が死ぬわ!

嫌でしょう?!れられる訳がないわよね?!嫌なら意地でも倒しなさい!勝ちなさい!

人族の歴史を終わらせず當たり前の毎日を守るのは、たった今!この時なのよ!

私とレオンも古代からこの時の為にここにいるわ!魔王を倒す為に!必ず勝つ!だからアンタ達も負けんじゃないわよ!

さぁ準備はいい?!出來てないとか言うんじゃないわよ!?」

「おいおい、これ音頭?怒ってないこれ?」

「お前のせいだクソガキ。アリアは切り替え下手なんだ」

「うっさいわよアンタ達」

小聲で締まらない會話をしているものの、アリアの聲は戦士達に十分火をつける事に功していた。

怒號ともとれるような咆哮が戦士達から上がる。

なんせ古代の英雄のリーダーの聲なのだ。

すでにアリアの存在は周知のことであるし、そうでなくとも、苛立ちの口調はともかくその言葉には確かな力と意志の宿っていた。

の言葉は心の底から想い続けた宿願でもあるのだ。長い長い時間でも風化どころか研ぎ澄まされた想いは、どんな口調であろうと強い力を宿している。

それをけ取れないような戦士がここに立っているはずもない。

同志でもあり、偉大な先駆者でもある彼のその言葉によって魂をい立たせていた。

「はは、気合い十分ってところか。さて、人類よーー々楽しませてみなよ」

そして響く、ふと聞けば軽やかにも聞こえる聲。

しかし、それに込められた悍ましい魔力に乗り、その聲は全ての者に等しく屆けられた。

思わず怯んでしまいそうな寒気とともに響く聲に、湧き上がる闘志の炎が弱まりかけ、

「うるっっせぇええ!!楽しめるなら楽しんでみろやバーカ!」

寒気ごと吹き飛ばす聲によって留まった。

「お前こそこの前みたいに逃げるんなら今のに逃げとけよ!降りてきたら生きて帰れねーと思えよ魔王!」

まるで、いやまさに子供のケンカの啖呵のような言葉は、しかし不思議と気持ちを昂らせた。

「クソガキ丸出しな啖呵だな」

「ふふ。ま、嫌いじゃないわよ?」

先頭に立って高まり続ける魔力を束ねながら吠える年、ロイドは短剣二刀を差させるようにの左右に引き絞る。

それに合わせるように、レオンが剣を振りかぶり、アリアが両手を翳す。

「さしあたり、挨拶代わりぃっ!!」

「はぁっ!」

「『震天・穿』!」

英雄の剣士から放たれた剣閃はその延長戦にある魔を等しくまとめて斬り捨てた。

まさに死神の鎌と言わんばかりのそれは、しかし恐怖より闘志を掻き立てた。

英雄の魔師にのよる不可視の衝撃波は魔の群れの先頭、數百にも及ぶ魔が弾け飛ぶ。

圧倒的な破壊力を有する古代魔の真髄は畏怖と羨を生み、戦士達の道標となる。

そして英雄と共に立つ年の空間魔を込めた二つの剣閃は、真っ直ぐに魔王へと。

それはしかし魔王の小さな跳躍によって回避される。

「ギャォオオオァアアッ?!」

だが、魔王の乗っていた黒竜の頭部はまるで豆腐のように真っ二つにしていった。

開幕數秒のこと。3人は魔に甚大な被害を與え、最上位の魔を討ち取ったのだ。

どこからか聲がれる。

「す、すげぇ……おいこれ、いけるんじゃないか」

「あぁ!勝てる、勝てるぞ!」

それは伝播し、熱を孕む渦となる。

「いいね、やってくれる。いけ、お前達」

その熱い渦は、不気味な聲にもそれに従い咆哮をあげる魔の群れにも怯む事は無い。

「師匠達に遅れはとれん。俺達も行くぞ」

「久々のガチの死闘だ!気ぃ引き締めろよてめぇらあ!」

「何偉そうに仕切ってんだい、言われるまでもないよ」

「ふふ、いくわよぉ」

「先輩、さっさと終わらせましょうね」

「焼き盡くせばいいのよね、シンプルだわ」

「おーよ、暴れてやろーや」

散開するように山を駆け降りてくる魔達。王國の歴史において最大級のスタンピードである黒い津波の如き魔の侵攻。

それらを無視して真っ直ぐに中央の魔王へと駆ける英雄の背を、ウィンディアの面々が追うように駆け出した。

その先頭。レオンは鋭い眼で薄く笑い見下ろす魔王だけを見據えて吠える。

「長い因縁、晴らさせてもらう!」

かくして、人と魔の最終決戦の幕が上がった。

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