《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》51 昔と今の差
「またお前達か。やっと出てきたというのに昔と変わらない顔を相手にするとは」
「當たり前だろう」
「昔からアンタを倒すのが私達の役目だからね」
魔王の前に群がる魔の群れも、先頭を走るレオンにとっては紙も同然だった。
あっという間に魔王と距離を詰める。
「確かに、お前が剣を持つと昔を思い出す。先日の戦いでは忘れてきたのか?」
「そんなところだ。今回は真っ二つにしてやる」
ミサイルを思わせる突撃の勢いそのままに、レオンは腰に下げる剣を抜き放つ。
居合いが出來る形狀ではない普通の剣だが、しかしレオンの突撃の勢いも相まって神速の域へと至る剣撃。
「ほう」
だが、その剣が振り抜かれる事はなかった。
魔王がレオンの剣を持つ右腕を左手で止めたからだ。
「昔よりも隨分と強くなっているな」
「當たり前じゃない」
心したような魔王の言葉は、しかし余裕をじさせる。
その傲慢が見える聲の返答は、レオンのによって死角になって見えなかったアリアによるもの。
「『斬空』!」
「おっと」
空間魔でも破壊力に長けた魔を挨拶代わりに放つも、それを魔王はひょいとバックステップで躱す。
それにより摑まれていた右腕の自由を取り戻したレオンは剣を振り抜いた。
距離など関係ないとばかりに剣の延長に飛ぶ剣撃だが、それは魔王が軽く屈むだけで回避された。
「2人とも強くなっているね。だが……」
「昔話は後にしとけ!」
距離が開いたことで間を測り直すように構えるレオンとアリアの上空より、魔王へと聲と風の魔が落ちてきた。
それを見上げて払い退けようと右手を持ち上げる魔王の足元に、小さな蒼い火種が燈る。
「ん?」
その蒼い燈りに気付いた瞬間、上空から迫る風の刃が自ら散。
そしてその風の刃を構していた空気――ロイドが意図的に掻き集めた『酸素』が蒼い火種へと屆き、発するように燃焼を加速させた。
結果、蒼い発が魔王を包み込む。超高溫の発は、しかも発の瞬時に構された氷の壁により威力を逃すことなく魔王を叩いた。
頑丈さにおいて右に出る者はいないとされる地の上位竜であろうとも四散してしまいそうな撃。
それを見事命中させたロイド、エミリー、フィンクの三兄弟に、しかし油斷の表はない。
「ちょっとは効いたかしら」
「だといいけど、その程度ならレオンさん達で片付けてそうだよね」
「だろーな。よし、畳み掛けるか。クレア頼む」
「任せてください。いきますよ」
予想していたのか返事の途中には発している『魔力増幅』により、全能にも似た魔力の昂りをじるロイド達。
高まる力をそのまま魔へと変えて、今も散らぬ炎へと放り込む。
「『斬空』!」
「『蒼炎』!」
「『氷華・剣』」
不可視の斬撃、蒼い炎、氷の剣群の一斉放。
吹き飛ぶ炎に代わり、とてつもない衝撃が魔王を襲う。
さらには、一拍遅れて空間を圧することで対象を押し潰す空間魔『集天』と、距離を無視した剣撃が先の衝撃によって巻き起こった砂煙ごと魔王を吹き飛ばした。
「わぁ、すごい威力だね」
「なんが私達の攻撃、前座みたいなってない?」
「良いとこどりの大人達だよなー、大人気ねーわぁ」
「ちょっとあんた達、味方なのよね?」
「ほっとけ。構えろ」
何故かとんでくる味方からの冷たい視線に頬をひくつかせるアリアと、慣れているとばかりに無視するレオン。
そんな5人の前に、唐突に魔王が姿を現す。
「っ、空間魔?!」
「時魔だよ」
いきなりの事につい息を呑んで後ろへ跳び退がるエミリーだが、跳んだ先――エミリーの背後から屆く聲にエミリーは顔を青くして慌てて振り向く。
そこには無造作に右手を振り上げている魔王。エミリーは自らの危機を直した上に、その瞳を見て、思わずを直させてしまう。
「知ってるっつの」
だが、その魔王のさらに後ろをとったロイドの風魔によって、エミリーは背中を押されるようにして魔王から引き剝がされる。
それと同時に魔王の背中に向けて、彼の中で発速度が最も早い風魔法を連発した。
風の弾丸の嵐。
だが、ほぼゼロ距離で放ったというのに風は屆くことなく、またフッと姿を消す。
「ちっ!」
「君も時魔が使えるみたいだけど、まだまだ未のようだね」
姿を見失い、魔力探知をしつつ周囲を見回すロイドの背後から冷たい聲が響く。
「え、何張り合ってんの?こんな子供にムキになんなよ」
「はは、面白い子だね」
振り返りながら跳んで距離をとるロイドに、今度はくことなく可笑しそうに笑う魔王。
その魔王の周囲に、不可視の壁がそびえ立つ。目に見えないそれは、しかし込められた魔力の多さによってむしろ強い圧迫があった。
アリアによる空間魔の檻だ。
囲まれた魔王の頭上――唯一壁のない面に、レオンが跳び上がっていた。
「はっ!」
短い裂帛の気合いと共に振り下ろされた剣撃は、戦い始めて最も魔力の乗った一撃だった。
もはや見えない斬撃ではなく可視化される程の度により、銀の剣閃となって魔王へと降り注ぐ。
しかし、その銀閃は漆黒の球へと吸い込まれていった。
「破壊魔か。面倒くせ」
「時と破壊ね。直接、間接問わず高能な魔持ちだね」
そんな聲と同時に、破壊魔に二條の風が叩き込まれた。
レオンを追うように跳んだロイドとフィンクによるものだ。
2人が示し合わせたように風魔法を使ったのは魔力の大小に影響される破壊魔を前に、威力ではなく使い慣れた魔力の変換効率が高い魔を選んだのだ。
ロスのない魔は威力は別として包される魔力量は多い。結果、見込み通りどうにか破壊魔法を食い破った風。 それを心したように見上げる魔王の目に、もはや眩しさをじる程の銀を剣に込めて振り上げるレオンが映る。
「はあっ!」
叩きつけるような気合いと共に、先程とはさらに桁違いの剣閃が墮ちた。
「ふっ!」
さらにその剣閃が魔王とぶつかる瞬間に、魔王を囲っていた不可視の壁がアリアによって一気に圧するように魔王へと殺到する。
圧殺せんとばかりの空間魔の壁の側で、耳をつんざく破壊音と目を灼くような銀のがぜた。
どこかくぐもったようなものでありながら、思わず腕で顔を覆うような高火力の攻撃。 普通の相手なら完全にオーバーキルだが、アリアがそれで手加減するはずもなく。
「『集天・重』!」
不可視の壁と、さらには周辺の空間をまとめて圧する2段構えの圧攻撃。
竜だろうと人間大へと圧する圧力が魔王を襲う。
「え、えげつねー……」
「そうね。アリアさん、素敵だわ」
「憧れちゃいますよね」
ひきつるロイドの顔が、目を輝かせるエミリーとクレアを見て更にひきつる。
「……え?」
「ロイド、彼達は怒らせないようにね」
「そ、そうする。いざとなったら助けてくれよな兄さん」
「……ははっ」
「ちょ、なんで笑った?!」
恐ろしい破壊力を有する魔を前に慄くーーロイドだけ、別の意味でーー新世代組に、レオンが駆け抜けながら言葉を放る。
「油斷するな。急げ、追撃だ」
「え、まだ生きてんの?」
思わずれたロイドの言葉は、他の年の代弁でもあった。
昔よりも強くなったというレオンとアリアのつい相手に同してしまいかねない連撃に、さすがの魔王も真っ二つにされた上にくちゃっと圧されてるだろうと。
しかしその攻撃を仕掛けた2人の顔がいまだに鋭いものである以上、きっとそうなのだろうとロイド達が気を引き締めた瞬間。
「良い攻撃だったよ。やはり強くなった」
今もなお圧を続けていた球上の空間が、聲と共にぜた。
それとほぼ同時に距離を詰めたレオンの剣による直接攻撃も、半になって回避。それと同時にカウンターで放たれた右フックの拳にレオンが吹き飛ぶ。
「ぐあっ!」
「でも、オレだって強くなっているさ。それに、」
「ちっ」
毆り飛ばされるというレオンを知る者からしたらあり得ない景に目を丸くしてしまう。
そんな中でもアリアは即座に追撃を放つが、それもあっさりと回避されてしまう。
「いくらお前達が強くなったとは言え、決め手となる勇者も聖のサポートもない……それではオレには屆かないよ」
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