《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》55 作戦

「作戦、か。無駄なことを」

ニヤリと笑うロイドに、魔王はつまらなそうに呟く。

そんな魔王の態度を前にしてもロイドの表は変わらない。それに明を見たのか、アリアがロイドに並びながら言う。

「ロイド、作戦って何なの?」

「くっくっく、聞きたいか?」

それに自信ありげに笑うロイド。その様子にアリアの表は更に表を綻ばせる。

「あ、ダメなやつぽいわね」

「あかんヤツな匂いがします……」

「え?」

だが、そんなロイドを見て逆にクレアとエミリーの表を消した。それを見てアリアが目を丸くして首を傾げる。

「アリアさん、聞かない方が良いです。普通に倒しましょう」

「余計な魔力を割く訳にはいかないものね」

すでにロイドの作戦を聞く気もない彼達は切り替えて魔王に向かって構えている。

そんな彼の言葉に頷くのは、なぜかロイドだ。

「そーだな。クレア、『魔力増幅』は一旦ストップで。そんでしばらく溫存な」

「え?えっと……」

魔王を前にして支援を切っても良いのかと逡巡するクレア。

「てかクレア、あと何分くらい『増幅』しとけそーなん?」

「えっと……5分弱ですかね」

「よし今すぐ切ってくれ」

「いや、でも……」

「良い。切ってくれクレア」

なおも悩むクレアに、今度はレオンがそれを肯定した。

最前線の2人が言うならばとクレアは頷いて『魔力増幅』を切る。それによりここに立つ戦士達の威圧ががくんと落ちた。

「……なんだ、諦める事が作戦か?」

「え、ドヤ顔で何言ってんの魔王サマ?んなワケないだろ」

『魔力増幅』が切れた事でルーガスやシルビアの『剛魔力』も消え、それに合わせるようにロイドも『剛魔力』を解除した。

その様子に更にはつまらなそうな表の魔王だが、ロイドがそれを小馬鹿にした表で首を橫に振る。

「ジジイもアリアも一旦ペースダウンで。しばらくは普通に削る。他の人達はし待機で、チャンスやピンチで介でよろしく」

「ちょっと、2人でやる気?」

「まずは、だけどな。上手くいけば2人だけでそれなりに削れるはずだ」

「大、魔王を捉えるのは厳しいわよ?」

「まーな。ただ、それが簡単に出來る方法があるんだよ」

そう言ってロイドはチラとレオンを見やる。

その視線にレオンは怪訝そうな表を浮かべるも、ふと何かに気付いたように目を丸くした。

「……まさか…いや待て、本気か?」

「やるだけならタダだろ」

「………バカだからこその作戦か」

「んだとコラ」

そう憎まれ口を叩きつつも、師弟2人は微かに笑う。

その笑顔に、ここにきてアリアも嫌な予がしたのか眉を寄せた。

「ちょっと、まさかこの狀況でふざけないわよね?」

「何言ってんだ、人類の存続をかけた真剣な戦いだぞ」

「アリア、気を抜くのは早い。真剣にやれ」

「うわびっくりするくらいムカつくわこの師弟」

アリアの苛立ちに、しかしむしろ師弟は何故か確信を得たように笑みを深めた。

「もういいわ。好きにしなさい……クレアちゃん、エミリーちゃん。こっちは真面目に戦いましょうね」

「そのつもりです」

「あのバカ達はほっとくのが1番よ」

そういった會話を聞いて、ルーガス達もアリアに乗ったようだ。困や興味のを浮かべていた表が真剣なものに切り替わる。

「ふむ、どうせ好き勝手に各自戦う者ばかりの集まりだ」

「その最たる2人だしねぇ」

「では僕も自由にやるとするかな」

「お前、いつもそうだろ」

軽口と共に余計な肩の力を抜いた面々が魔力を高める。

その様子に魔王は様子見から意識を戦闘に切り替えたのか、それぞれ高まる魔力を上回る魔力の高まりを見せた。

「もういいか?ならば死ね」

その魔力の高まりを合図にしたかのように、ロイドとレオンが同時に駆け出した。

「気になって仕方なかったくせに待ってやった出してんじゃねーよ!」

「言ってやるな、怖くてけなかったのかも知れんぞ」

走りながらぶ師弟は、その走る速度に比例するように魔力を高めていく。

それをレオンは強化に、ロイドは強化と風に込める。それにより、加速度的に速度を増していった。

「マジ?びびってたのかよ!今なら逃げても良いよ魔王サマぁ?!」

「辭めろ、本當に逃げるぞ。怯えて隠れてる奴を探すのは手間だ」

「本當にうるさいやつらだね」

片眉を跳ねさせて軽口を叩く師弟を迎え撃つ魔王は、高まる魔力を破壊魔に変換して放った。

無數の拳大の黒い球の弾丸が2人に迫る。

「下手でも數撃ちゃ當たるってか!當たってませんけどもね!下手すぎぃ!」

「かわいそうに。封印している間に當て方を忘れたんだろう」

それを細かいステップを踏みながら最短距離で駆け抜ける。それさえも読んでいたのか、魔王は左右の掌に直徑1メートルほどの黒球を摑んで両腕を広げていた。

「消えろ」

「その程度で!」

「なめすぎだ」

腕を差するようにして投げつけられた破壊の力を詰め込んだ黒球を、師弟は魔導の刃をもって斬り裂いた。

その勢いのままにを一回転させ、同じ軌道で間髪れずに追撃を魔王へと叩き込む。

「良い剣だな」

それを魔王はバックステップでするりと回避。振り抜いた剣が空振りとなった2人は、その回転の勢いを軸足にぶつけて、反で強烈な踏み込みに変換した。

「しょぼい破壊魔斬った程度で褒められてもな!」

「つまらんを斬った」

「おらおら、逃げながらポイポイ魔撃っても時間稼ぎにもならねーぞ?!」

追い縋る2人は、即座に魔王との距離をめる。そして今度はロイドが正面から、レオンが跳び上がって上空から斜め下に向かって橫薙ぎに剣を振るう。

「調子に乗るな」

その斬撃に、魔王はその場で立ち止まって両手を持ち上げた。悍ましい魔力を込めた両手がその魔力の度に歪んで見える。

「っらァ!」

「ふっ!」

構える魔王に、師弟は剣に力を込めた。並の剣ならばそれだけで炸裂してしまうような魔力を魔導に叩き込むように込める。

そしてその刃は魔王の掌を腕ごと切り裂き、そのままにまで深い傷跡を刻むに至った。

「はっ!口ほどにもねーな!」

「魔王も弱くなったな。リハビリ期間が足りなかったか?」

さらに挑発するように鼻で笑いながら、師弟は振り抜いた剣を切り返して追撃の剣とする。

やはりと言うべきか、その時には魔王の両腕は元の無傷だったが、それに構わず師弟は剣と軽口を止めることなく放ち続けた。

「どうしたんすか魔王サマ?そんなに斬られちゃって!もしかしてドMの方でしたか?!」

「サクサク斬れすぎて々つまらんな。しはを見せたらどうだ」

「これほんとに破壊魔?そんなんで何壊すの?!自分の恥心?」

「何か言い返したらどうだ?あぁ、口をうっかり斬ったから話せないのか、すまんな」

止まらぬ口撃と斬撃に対して魔王も破壊魔と時魔で迎え撃つも、時魔をロイドが相殺して、破壊魔をレオンが斬り裂いていく。

そしてそれぞれが相殺と攻め手をスイッチすることで確実に魔王に刃を屆かせていた。

回避されて攻撃を無傷で切り抜けられてばかりだった魔王に次々とダメージを與えていく。結果として魔王はすぐに傷を回復させているものの、2人はそれに構うことなく攻め続けていた。

その様子を見ていたアリア達も、ここまで來れば作戦の概要を理解出來た。

「これって、そう言う事なのかしら」

「なんというか、あの2人らしい……と言うんですかね」

「アホ2人よ、あれは。煽って逃げさせないなんて、思いついてもやらないわよ普通」

つまりはそういう事だった。

ロイドはレオンと2人での攻撃があっさりと魔王に屆いた事に違和を覚えたのだ。

そしてその直前にいつものようにレオンと憎まれ口を叩き、その勢いで魔王にも同じように軽口――もとい挑発をしていた事に気付いた。

自らが「煽り耐がない」と発言した通り、挑発に結構あっさり乗っちゃう魔王が逃げずに迎え撃つ勢をとる手っ取り早い方法だと判斷していた。

だが、ロイドの思はそれだけではない。

「でも魔王の回復を逆手にとるのは上手いわね」

「ホントにそこまで考えてたのかしら?」

「先輩はあれで頭の回転は早いですし可能はありますよ?それにしてと、ここまで繰り返されると分かりやすいですね」

魔王の回復のカラクリとその代償に目をつけたのだ。

挑発によって両腕を斬り飛ばしたものの、即座に傷をなかったかのように回復された。

その時の一撃と回復の様子を見たロイドは二つの事に気付いた。

まず、攻撃をれた時の覚だ。

最初は魔力の山を木の棒で叩いたかのような途方もない覚を抱かせた魔王。その莫大すぎる魔力量に刃が通らないたすらじた。

だが、攻撃が屆いた時にはそこまでのさや重さをじなかったのだ。

つまり、魔力が目減りしている事を意味していた。

これはレオンというダメージが無意味な相手と戦い続けたロイドだからこそ気付けたのかも知れない。

ダメージを與えても『自己治癒』で回復してダメージとはならない。それは逆を返せばダメージを與えれば回復に魔力を消費すると言う事。

そんなレオンとの戦いにより攻撃しながら相手の魔力量を測る癖がついていたロイドは、莫大故に減量が分かりにくい魔王の消費に気付けた。

そして2つ目は魔王の回復方法だ。

まずもって、魔王の回復を見てこの場にいる者達が最初に脳裏に過ぎったのは、レオンのそれだった。

不死という非現実的な要素に、「自己治癒」という反則的な回復方法と、それを支える莫大な魔力量。

魔王のそれもレオンと同種のものだとすれば、攻略は絶的だ。

だが、そのレオンと常にに戦い、そして自らが時魔を扱うロイドは気付いた。

上級魔である時魔と比べて使用魔力が桁違いに高い。

ならば煽って逃げない魔王へ著実に攻撃を當て、その魔力量を削りにかかろうと思いついた。

魔王自が言ったように、加速より戻す方が魔力の消費は大きい。ならば、加速で回避されていた今までより、戻して治している今の方が圧倒的に削りやすいのだ。

さながらRPGの敵のボスと戦って力を削っていくように、魔王は戦って魔力を削っていく。そして魔力が盡きたらいよいよダメージが通るという訳だ。

そして、いきなり大幅に魔力を削れば逃げられかねない。

だからこそある程度削ったら、即座に特大の一撃をれるのがベスト。

しかし、『魔力増幅』には制限時間があることから、一気に仕留められるラインまで魔力を削るまではクレアに溫存させている。

これがロイドの作戦だ。

だがしかし。

「人類の最終決戦にしては、けない絵面よね」

ぎゃいぎゃいと煽る前線2人の姿は、確かにアリアの言葉の通りではあった。

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