「二日も眠っていた？」

「はい。昨日は丸一日、ずっと眠っていました」

キッチンで料理をしながら、説明してくれるトゥスカ。

エプロンをしたトゥスカの後ろ姿。

新妻に、ご飯を用意して貰っているみたいでドキドキする。

ていうか……朝のアレって……今はやめよう。

「……俺は、どうやって助かったんだ？」

あの狀況で、どうすれば助かるのか思い浮かばない。

「通りがかってくださった方が、上級回復魔法でご主人様を治療してくださったのです。ただ、ご主人様が一命を取り留めたところでその方のＭＰが盡きてしまったらしく、取り敢えずこの宿まで運ぶのを手伝って戴きました」

「親切な人だな」

冗談抜きで命の恩人か。

醤油が焦げる、良い匂いがしてきた。

「お禮をしようと思ったのですが、斷られてしまいました。名前も教えて貰えず、罪滅ぼしだから……とだけ」

罪滅ぼし？

「黒髪で、眼鏡を掛けてたか？」

「いえ。金髪で、左腕に金の甲手を裝備していました」

……心當たりは無いな。

フライパンから、手際よくお皿に盛り付けていくトゥスカ。

「ご主人様を治療するため、無斷でサブ職業の僧を購しました。よろしかったでしょうか？」

「元々そのつもりだったし、構わないさ」

空になったフライパンに、別の材を投していく。

その後ろで、気怠いを推して服を著る。

“偉大なる英雄の鎧”を裝備した時に、元々著ていた服は消えてしまっていたが、鎧の裝備を外した時に出現したのかな？

ていうか俺、トゥスカに…………全部見られたのか。

いや、俺もトゥスカのをほとんど見たけれどさ！

「ああ、そう言えば、私のＬｖが６になりました」

「一人でダンジョンに行ったのか？」

「いえ、あの男と戦った後は、ご主人様の看病をずっとしていましたので♡」

「そ、そっか……ありがとう」

「はい♡」

ダメだ、もの凄く浮かれてしまう！

「あの男から、々手にりましたよ」

「へ？」

……そう言えば、殺した相手からスキル、経験値、アイテムが手にるんだっけ。

チョイスプレートを開いてみる。

○戦士．Ｌｖ９になりました。システム、予備スキル欄が使用可能になります。

「予備スキル欄？　トゥスカ、予備スキル欄て分かる？」

「スキルを預けておく場所ですね。狀況に合わせてスキルを使い分けたい時に、非常に有効だと聞いた事があります」

使用可能なスキルは十までだけれど、スキルを預ける事で戦を変化させられるって事か。

見たところ、移しておけるスキルは五つまでみたいだから、実質十五個まで取得可能になったわけだ。

とはいえ、現段階で取得しても意味が無さそうな、”二刀流のスキルカード”は暫く保留だな。

でも、試してみないとイマイチ有用が分からない、“連攜裝備のスキルカード”は使用する。

主と奴隷の間で使用できる主専用スキル。

俺しか使えないのだから、トゥスカに相談せずに使っても問題無いだろう。

近いうちに連攜裝備を試しておきたいな。

さて、手にったはなんだろう？

○”水の槍”を奪いました。

○“雷の斧”を奪いました。

○”疾風のグリーブ”を手にれました。

○“武隠しのマント”を手にれました。

○”俊敏の指”を手にれました。

○“鉄の剣”×８を手にれました。

○”鉄の槍”×４を手にれました。

○“鉄の斧”×３を手にれました。

○“鉄の短剣”×２を手にれました。

○“鉄のワンド”×17を手にれました。

○“鉄の盾”×３を手にれました。

○“鉄の杭”を手にれました。

○“ボロマント”×６を手にれました。

：

：

多い!!

他にも、鉄や雑と名のつく武が嫌になるくらいたくさん。

「鉄の武は初期裝備……いったいどれだけ殺していたんだ、あの男は」

トゥスカのＬｖが２も上がった事を考えると、かなり高いＬｖだったろうな。

人間を、プレーヤーを殺しまくって強くなったのだろう。

○“瞬足のスキルカード”を手にれました。

○“槍のスキルカード”×５を手にれました。

○“斧のスキルカード”×３を手にれました。

○“近接探知のスキルカード”を手にれました。

○“風魔法のスキルカード”×３を手にれました。

○“火魔法のスキルカード”×５を手にれました。

○“水魔法のスキルカード”×４を手にれました。

○“氷魔法のスキルカード”×３を手にれました。

○“雷魔法のスキルカード”×２を手にれました。

○“回復魔法のスキルカード”×２を手にれました。

○“剣のスキルカード”×10を手にれました。

○“盾のスキルカード”×３を手にれました。

：

：

「殺しておいて、本當に良かった」

手にれたアイテムをざっと計算した結果、なくとも五十人近くは殺している。

トゥスカが奴隷であることに気付かず俺を殺そうとしたところを見るに、奴はずっと第一ステージを縄張りに殺人、強を繰り返していたんだろうな。

この村に來た時點で、おそらく第一ステージには戻れないだろうし。

「長く留まれないようにしているのは、プレーヤー同士のパワーバランスを崩さないようにするためか？」

それにしても、嫌な事実に気付いてしまった。

「……プレーヤーを殺す方が、まっとうにモンスターを倒すよりも遙かに得が出來てしまう」

たった一人殺しただけでこれだ。先に進んでいけば行くほど、自分が持たないアイテムやスキルを所持するプレーヤーは増えていく。

おまけに、所持金も増えるようだし。

トゥスカを買う前よりも、所持金が増えてしまっている。

人として異常になればなる程、得が出來てしまう仕組み。

「まさか、そ・う・い・う・狙・い・も・あ・る・の・か・？」

敢えて、プレーヤー同士で殺し合わせる狀況を作っている？

分かっていたつもりだったけれど、本當にイカれたゲームに放り込まれてしまったようだ。

「出來ましたよ、ご主人様♡」

小さなテーブルに、四品並ぶ。

「豪勢だな」

炒めばかりだけれど、どれも味そうだ。

「でも、なんでおばかり？」

野菜も結構購したはずなのに。

「いっぱい力を付けませんと！　たくさんを流したんですから！」

食って力を付けろと？

「そうだな。戴きます！」

手を合わせ、トゥスカが作ってくれたご飯を食べ始める。

「味い！」

醤油の香り、最高ーーー!!

★

「本當に、いて大丈夫ですか？」

「大丈夫だよ」

トゥスカが本気で心配そうだ。

でも、今日のうちに揃えられるは揃えて置きたかった。

「隨分人が増えたな」

「昨日ぐらいから、一気に増えましたね」

槍男が居なくなった事で、皆で苦しむ方から人がってくるようになったのか？

単純に、俺が進むのが早かっただけかもしれないけれど。

「それとも、ゲームに放り込まれるタイミングはバラバラなのかな？」

今まで、勝手に皆同じタイミングでプレイし始めている気で考えていた。

この世界は、人の異常を、殘を引き出そうとしている。

「早く力をに付けないと……危険だ」

下手をすれば、村よりもダンジョンの方が安全かもしれない。

武屋にる。

「いらっしゃい！」

マッチョの店主が挨拶してきた。

「凄ー人」

「おっぱいデケー」

店の中には、數人の男プレーヤー。

皆、トゥスカに下卑た視線を送っている。

「気持ち悪い」

トゥスカが不快だと訴え掛けてきた。

「さっさと終わらせよう」

店主に聲を掛けて武を見せて貰うが……鉄と木製の武、それに”魔法使いのワンド”しか無かった。

鉄の武なら幾らでもあるし、ワンドは戦士である俺達が買う必要は無い。

「売卻は可能ですか？」

「問題無いよ。どれを売ってくれるんだい？」

雑と名のつく武を全て選ぶが、一つ１Ｇにしかならないようだ。

ゴブリンが使っていた武が、ゴブリンと同じ値段って。

「おおー、コイツは凄え!!」

“豪奢な斧”を売卻リストに載せると、NPCが大袈裟に反応する。

「斧一つで……1800000Ｇ？」

売卻用のアイテムだと分かってはいたけれど、とんでもない額だ。

これだけ高く売れるとなると、先に進んだら売値のインフレーションが起きそうで怖い。

「ご、ご主人様……こ、これはなにかの間違いでは？」

「さ、さっさと売ってしまおう」

○買い取り一割アップが適用されます。

指の効果が適用される。

武屋にて、1980319Ｇを手にれた。

「武を作製してもらうことは出來ますか？」

素材になると思われるアイテムを幾つか手にれていたため、確認する。

「武なら鍛冶屋だな。服なら服屋に行って來れ」

鍛冶屋って、武の修理だけじゃないのか。

あのいかついオッサンめ！　そんな事一言も言ってなかったぞ！

「行こうか」

「はい♡」

腕を組んで……を寄せてくるトゥスカ!?

「私が誰の所有なのか見せ付けましょう♡」

店の男共が、未だにトゥスカに下卑た視線を向けていた。

「……トゥスカ、もっとを寄せて」

「フフフ、はい♡」

多くの視線をじながら、武屋を後にする。