「インフェルノバレット」

上空から一方的に、ネイルグリズリーの大群を攻撃し続ける。

「數が多い分、経験値的には味しいな」

Ｌｖの概念に違和はあるけれど。

「”ネイルグリズリーのスキルカード”、これで五枚目です」

暇なトゥスカは、チョイスプレートで獲得アイテムの確認をしてくれていた。

「他はネイルグリズリーの皮と、ネイルグリズリーのおばかりですね」

危険なはずのダンジョンを、トゥスカをお姫様抱っこしたまま進む。悪くない！

むしろ良い！

トゥスカのぬくもりをじながら、天井の逆さまお散歩。

頭にが昇ってくる事に目を瞑れば、最高と言っても良い！

「安全エリア、見えてきましたね」

「助かった」

正直、頭の方がそろそろ限界だった。

安全エリアの中にり、天井から壁側へと移し、地面に降り立つ。

久しぶりの地面だ！

天井を歩き始めて十分も経ってないはずだけれど、そんな気がしてしまう。

「ＴＰとＭＰが回復するまで、休もうか」

「そうですね」

自回復を待つ間、手持ち無沙汰になるな。

「ご主人様♡」

トゥスカの顔が近い！

「ん♡」

ねだられたので、キスをした。

「私、そのうち我慢出來なくなりそうです」

俺もとか言ったら、押し倒されそうだ。

「そ、そうだ！　剣のブレイドサークルって、どういうときに使うんだ？」

トゥスカも剣を持っているため、もしかしたら知っているかも！

以前使ったときは、用途がまるで分からなかった能力。

「ああ、ブレイドサークルは迎撃系の技ですね。矢や石など、魔法以外の飛び道に対して勝手に防いでくれるんです」

「結構便利だな」

「試してみますか？」

「へ？」

トゥスカが小石を拾い、振りかぶる!?

「ぶ、ブレイドサークル！」

グレートオーガの短剣を抜くと、小石が迫ってきた!?

腕が勝手にき、カキンと音を鳴らす。

「勝手に弾くって……こういう事か」

「數が多かったりすると防ぎきれない事もあるので、頼るのは危険ですが」

「早めに聞いておいて良かった」

序盤で獣人の奴隷を買わせようとしたのには、そこからこのゲームの知識を手にれさせるという狙いもあったのかもしれない。

「ご主人様、この水を見てください」

安全エリアの隅に、やたら青いが染み出す石が置いてあった。

石の上部が窪んでおり、そこに絵のを溶いたように鮮やかなシアンのが溜まっている。

「飲んでも大丈夫そうだな」

サブ職業の盜賊のおかげで、なんとなくにれて大丈夫かどうかが分かるのだ。

トゥスカが水を両手ですくい、クンカクンカしている。

可い。

舌をばし、チロリと水を舐めるトゥスカ。

可い！

尾がフリフリと左右に揺れ、ピン！　と上に向かって固まる。

可い!!

「ご主人様、これはソーマです。飲むとＭＰ・ＴＰの回復速度を十分間だけ上げてくれます」

「へ、へー、一瞬で回復してくれるわけじゃないのか」

可い！　と興していた相手に急に話し掛けられたため、揺してしまった。

「そんな便利なアイテムはありませんよ。ちなみに、一口飲んでも、二口飲んでも効果は変わりませんからね」

「……はい、すみません」

なんか、凄い変な目で見られてる。

今の俺の発言は、トゥスカからすると非常識そのものなんだろうな。

「もう。元気出してくださいよ、ご主人様♡」

トゥスカが頬にキスしてくれる！

凄い、本當に元気が出て來た！

「トゥスカ」

「な、なんですか？」

トゥスカの頬が赤い。

「してる」

トゥスカの顔が真っ赤になる。

「ご、ご主人様の馬鹿♡」

とか言いながら、服をごうとするんじゃない！

「トゥスカ、ダンジョンではそういう事はしないって約束だろう」

いつなにが起こるか分からないんだ。

昨日の突発クエストのように、急に安全エリアが無くなるなんて事もあるかもしれない。

「ご主人様がってきたくせに」

してるの一言だけで？

俺はソーマを口にし、ＭＰが全快するのを悶々としながら待つ。

「なにしてるんだ？」

「ソーマを持っていくんですよ」

空の水筒を出現させ、石の端から流れ落ちるソーマを汲み始めるトゥスカ。

「俺も汲むか」

空の水筒が無いため、數口飲んで鍋に移す。

まだちょっと殘ってるな。

「トゥスカ、飲んでくれ」

水筒を差し出す。

「ど、どうも♡」

トゥスカが、恥ずかしげに水筒の水を口にする。

さっき服をごうとしていた人が、間接キスで照れるのか！

別に夫婦なんだから、これくらい普通だろ。普通。

……俺もちょっと……恥ずかしいです。

★

「お！」

ネイルグリズリーが出なくなったと思ったら、また安全エリアが見えてきた。

更に奧には分かれ道。

「ようやく次の選択ポイントか。これでネイルグリズリーから解放される」

食糧は大量に手にったけれど、それ以上の旨味は無いからな。

天井の散歩を終え、二人で晝食を取る。

晝は買ったパンにリザードマンのハムとレタス、チーズを挾んだサンドイッチだ。

タレは、醤油にすったジャガイモを熱して、冷めてからワサビを溶かした。

俺の手作りである！

「「味しい！」」

トゥスカと同時にぶ。

「これがワサビの香り。変わった香りですね。でも味しい！」

「ワサビには殺菌効果もあるから、作り置きには持って來いだ」

チョイスプレートの中に保管しているから、作り置き云々はあんまり関係無いけれど。

「まだ晝前。今日はまだまだ進めそうだな」

とはいえ、今はもう俺一人じゃない。

トゥスカの調も気遣わねば。

「ご主人様、そろそろ行きませんか？　あまり長く休むと、が鈍ります」

トゥスカが、蹴りの練習をしながら聞いてきた。

「そうだな」

俺の奧さん、俺より元気だ。

夜も、いっつも俺より元気だったね。

安全エリアを出て、分かれ道の前に出る。

○右：強力なモンスター軍団。Ｌｖ上げに最適。

左：罠だらけの盜賊のアジト。々手にるかも。

「どっちが良い？」

「なんとも言えないですね。右なら強力なスキルカードや素材が手にりそうですが、左はそれ以外のも手にりそうですし」

判斷に困るよな。

「俺達のＬｖ、第二ステージでは高すぎるんじゃないかな？　あれだけのネイルグリズリーを倒しても、今朝からまったくＬｖが上がっていないし」

既に五百くらい倒して居るのに、俺もトゥスカもＬｖが上がっていない。

黒鬼と突発クエストが無ければ、俺はＬｖ10で第二ステージに挑むはずだったんだよな。

「なにが手にるか分からない、盜賊のアジトの方が面白いかもしれない」

罠があっても、俺の盜で対処出來るし。

「左に行こう。俺より前に出るなよ」

ある程度近付かないと、ワナを知出來ないから。

「分かりました」

左に進むと、またチョイスプレートが出現した!?

○奴隷を生け贄に捧げませんでしたので、ボーナス700000Ｇをプレゼントします。

「やっぱり、安易な道を選べば良いってものじゃないよな」

「ご主人様と一緒なら、どのような道であろうとも♡」

「ありがとう、トゥスカ」

俺とトゥスカは、罠だらけの盜賊のアジトへと足を踏みれた。