《ダンジョン・ザ・チョイス》38.失った

奴の執念なのか――俺の左腕が噛み千切られた。

腹いせに、トロルの左眼球を右拳で毆り潰す。

『うわああああああああああああ!!?』

たかだか眼球一つで、うるせー。

『殺しでやるーーーーうううッ!!』

トロルの中で暴れていた魔炎が消えると、トロルのがどんどん回復していく。

トゥスカが與えた傷まで消えていくのかよ。

斬撃でも、生半可な威力ではダメというわけか。

『今・の・俺・は・トロルだからな! この程度なら、すぐに回復するんだよ!』

今のって事は、コイツも一つ目みたいに元人間か?

「そうか」

『へへへヘヘへへ!! 強がってんじゃねぇよ! テメーの腕は俺の腹の中。どうだよ、片腕を失った気分は? 怖ーだろう!!』

「軽くなってちょうど良いくらいだ」

がダラダラ流れて、命そのものが流れ出している気がする。

でも、今は不思議と怖くない。

『強がってんじゃねーぞ、蟲けらがーーーーーーッ!! ブベッ!?』

ベラベラとうるさい、トロルの顔面を蹴る。

『テメーーーーッ!!』

「ご主人様!!」

トゥスカが投げてきたグレートソードを、右手で摑む!

『ぐっ!! いつの間に!?』

トロルが俺に気を取られているうちに、トゥスカが回り込んでくれていたのだ。

左腕が無いから、バランスを取るのが難しいな。

『ま、また死んでたまるかーーーーー!!!』

グレートソードに、力を吸われていく覚がある。

俺の意思に……呼応するように!

『ハイパワーナックル!!』

トロルの拳に、暴威が宿る。

「――ハイパワーブレイド」

石の天井ごと、トロルの拳ごと――奴を真っ二つに切り裂いた。

『ち……チクショーーーーーーーーーーーーーー…………』

トロルがになって消えていくと同時に、全から力が抜けて……。

●●●

「……見付けた」

TPを吸わせ、グレートソードに神代文字を三つも刻んだ。

まだ三つ。でも、三つも引き出した。

あ・の・剣・が・神・の・力・に・対・応・し・て・い・た・おかげだけれど、素質が無ければ一文字だって引き出せはしない。

彼が、私が待ちんでいた存在!

――どうして私は、あの時飛び出したのだろう?

まだ私にも、が殘っていたと言うのか。

ただのシステムにり果てた私が。

「ご主人様!?」

コセが倒れる。

「早く治療を!」

「待って、お姉ちゃん」

トゥスカ、彼にも見所はある。

類は友を呼ぶという。

彼に、共に強く惹かれあっている彼なら、トゥスカにも可能があるでしょう。

「ヒールじゃ傷が塞がるだけ。レストレーション」

”最上位回復魔法”を行使する。

「へ? メシュはスキルを使用できないはずじゃ……」

そういう設定になっているため、デルタに勘付かれる可能があるでしょう。

なんらかのバグと認識してくれれば良いのだけれど。

が集まり、コセの失った左腕を復元していく。

私の目的のためには、部位欠損の無いの方が都合が良い。

「うっ……」

「ご主人様!」

トゥスカが、泣きそうな顔でコセを見詰めている。

羨ましい…………私はなにを!?

「腕は……食われたはずじゃ」

「メシュが治してくれたんです」

「メシュが?」

もうすぐ、この特殊クエストが終わる。

「ありがとう、コセお兄ちゃん。トゥスカお姉ちゃん。私、元の場所に帰るね」

設定通りの言葉を紡ぐ。

「これを持って、第三ステージの街へ來て」

この言葉は、私からの言葉。

待ってるから……そう言いたかったけれど、今は言うわけにはいかない。

NPCであるメシュとは、ここでお別れなのだから。

重ねた手の平に生まれた青い歯車を手渡すと、私のが消えだした。

●●●

俺がメシュから歯車をけ取ると、メシュのが消えていく。

「メシュ……ありがとう」

「さようなら、メシュ」

自分が本なのか偽なのか、そんなことどうでも良いと思えたら、メシュがNPCであることもどうでも良くなってきた。

「さようなら」

その言葉に、本當に別れの時なのだと実する。

「娘が出來たみたいで、楽しかった。本當にありがとう」

メシュの目が大きく見開き、瞳を濡らしていく。

「あれ、なんで?」

メシュの目から次々と涙が流れ、頬を伝い、顎から落ちていく。

そんな自分に、不思議そうになるメシュ。

「なんで……ヒク……私……」

俺も、泣きそうになってきた。

「メシュ……元気で」

「……うん」

その言葉を最後に、NPCメシュが……俺とトゥスカの前から消滅した。

……妙なが込み上げ、仰向けになる。

○メシュの特殊クエストを完全な形でクリアしたため、特殊アイテム、“ワイズマンの歯車”を手にれました。

チョイスプレートが現れ、手の中から歯車が消える。

「ハァー……疲れた」

部屋の中がに照らされ、安全エリアに変化していった。

○戦士.Lv17になりました。”お守り”を取り込めるようになりました。

「トロルが使っていた奴か」

確か、“完斬のお守り”だったか?

消費系だったみたいだから、ドロップしなかったようだ。

「ご主人様、左腕は大丈夫ですか?」

「ああ、ちゃんとくよ。箸を持つのも問題無さそうだ」

メシュとお別れをしたこの部屋で、今日は早めに探索を打ち切ることにした。

あの後、俺は鎧を外してから眠りにつき、そのまま三時間も眠ってしまっていたようだ。

トゥスカも、Lvが16に上がっている。

獲得アイテムは……々あるな。

○“兇賊のサブ職業”を手にれました。

○“再生のスキルカード”を手にれました。

○“兇賊のサーベル”を手にれました。

「兇賊って確か……兇悪な賊って意味だっけ?」

”兇賊のサブ職業”ってなんなんだ?

使うのがちょっと怖いな。

「ご主人様、もうすぐ出來ますよ」

時間が出來たため、トゥスカが時間を掛けて煮込み料理を作ってくれていた。

今日の夕食は、ネイルグリズリーとアルミラージのを使ったシチューだ。

トゥスカがシチューを盛ってくれる。

俺も皿に、切り分けたパンとハム、卵焼きを乗せていく。

「「……あ」」

二人とも、三人分用意してしまっていた。

「……寂しいですね」

「一緒に居たのは、丸一日くらいだけだったのにな……」

事実、メシュはなんの力も無いお荷だった。

最後、なぜメシュに”最上位回復魔法”が使えたのかは分からないけれど、メシュが居ない方が楽に探索を進められたのは間違いない。

俺もトゥスカも、役に立つとかそういう差しではなく、もっと別のなにかを……メシュから貰っていたのだろう。

その証拠に、心にポッカリとが空いたような気がして仕方ない。

多分、トゥスカも同じ思いだ。

「娘……か」

妹というよりは娘……その方がしっくり來る。

そうか、俺は…………娘を失ったのか。

「「戴きます」」

今日の晝食の時は、三人で「戴きます」って言ったんだよな。

無言での食事が始まった。

俺のシチューが無くなると、トゥスカが無言で、さっきの半分だけ盛ってくれる。

トゥスカのパンの減りが早いため、俺のパンをし分けた。

「ありがとうございます」

「俺も、盛ってくれてありがとう」

また、無言での食事が再開される。

無言が嫌なわけではない。

むしろ、俺は靜かに食事をしたい派だ。

トゥスカに……なにかを言わなきゃいけない気がするのに……なにを言ったら良いのか分からない。

自然と、間違って用意したメシュの分には、どちらも手を著けない。

手を著けられないと言うべきか。

結局、そのまま食事が終わる。

俺もトゥスカも、食べ終わった後そのままけずにいた。

「「あの」」

二人が言葉を紡いだタイミングが、重なってしまう。

「トゥスカからどうぞ」

正直、特に考えもないのに聲を掛けてしまったので。

「あー…………ご主人様……娘……しくありません?」

ドクンと、心臓が潰れそうになる!

「ど、どういう意味で……」

「もちろん、その……私達の……子供という意味で…………です♡」

「このゲームから出するまでは……子供を作るわけにはいかないだろう……」

妊娠なんてしたら、ダンジョンからの出なんて不可能になる。

そしてこのゲームは、出しようとしない人間を容赦なく地獄に叩き込む。

「分かってます……だから」

トゥスカが、四つん這いで近付いてくる。

「おい……トゥスカ?」

「そ・の・時・に・備・え・て・、練・習・し・ま・せ・ん・?」

練習って……。

「……そうだな、練習……しようか」

トゥスカと俺のが重なる。

シチューの良い香りが、互いの吐息から匂う。

練習など言い訳だ。

ただ俺達は、メシュの喪失を夫婦の営みで埋めようとしているだけ。

それだけ、メシュが俺達にとって大きな存在となっていたのだ。

「ん……ん♡ ……ん♡」

キスをしたまま、俺達は互いの服をがせ始めた。

    人が読んでいる<ダンジョン・ザ・チョイス>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください