《たった一つの願いを葉えるために》襲撃

side:ガレット

ーーー遡ること1時間前

「ヨークス侯爵、しよろしいですか?」

ガレットは、屋敷の捜索に向かった騎士たちを見屆けた後、ヨークス侯爵と二人の騎士を連れ応接室に向かう。

応接室にると椅子に座ったヨークス侯爵に勧められ、ガレットも向かいの椅子に座りヨークス侯爵に話を切り出した。

「何ですかな?」

「侯爵は我々が突した時ここでまるで待っているかのように立っていました。事前に我々が突することがわかっていたのですか?」

「ええ。報収集は得意ですから。私の贈りが原因で王殿下が呪いに罹られたのを知りましたのでね」

「隨分と協力的なのですね」

「それはそうでしょう。私は(・・)無実ですから、拒否する必要がありません。それに、もし屋敷に悪魔と通するものがいるのでしたら、ぜひとも捕まえていただきたい」

ガレットは、笑みを浮かべるヨークス侯爵が不気味で仕方がなかった。

殺人未遂、悪魔の協力者と國家転覆罪の容疑がかけられているにもかかわらず、揺のようなものが一切ない。いや、無さすぎる。

まるで舞臺を眺める観客のような………

「そんな熱的に見られても、私にはそちらの趣味はありませんよ」

ヨークスがからかうように言う。

「あ、いや。申し訳ありません」

考え事に意識を取られ、侯爵をじっと見つめていたらしい。

気を取り直し、質問を続ける。

「贈りに直接れることができたのはどなたですか?」

「私は勿論のこと、採掘したものたち、私の領地を任せている代、運搬に関わったものたち、執事でしょう」

「その者たちに何か変わった様子はありませんでしたか?」

「いいえ、特に変わったところはありませんでしたよ」

「そうですか。念のためお聞かせ願いたいのですが、贈りの警備はどうでしたか?」

「勿論厳重に保管していましたよ。部屋の扉の前には常に2人おり、その部屋には窓がありませんので出り口は扉一つだけです」

その後もいくつか質問を重ねたが、特に有力な報は得られなかった。

「そういえば、王殿下の呪いを解いたのがどなたかご存知ですかな?」

「いえ、私にはわかりかねます。王城でのことは侯爵の方がお詳しいのでは?」

何故それを自分に聞いたのか、わからなかった。王城ではなく公爵家に仕える自分に。

「それが不思議なことにわからないのですよ。分かっているのは黒髪黒目の年ということくらいなのです」

ガレットの脳裏に一人の年が浮かんだ。公爵家に賓客として招かれた黒髪黒目の年だ。

「何故探しているのかお聞きしても?」

「意図的ではないとはいえ王殿下を害し、命まで奪ってしまうところを救っていただいたのだ。禮をしたくてね」

「まぁ、知らないのでしたら仕方ない。ならば、呪いを発見した者に會わせていただけませんか?いるのでしょう、この屋敷に」

ドクン と自分の心臓が跳ねる音が聞こえる。

「王殿下へのプレゼントはひとつひとつ専屬の鑑定人によって鑑定される。王家が召し抱える鑑定人ですら見つけられなかった呪いを見つけたものを、この捜索に加えないはずがないですから」

滔々と語られる理由。確かに考えれば至るその答えを、何故か知られてしまったことに急速に不安が膨張していく。

會わせてはいけない。

それだけが明確に浮かぶ。

「もちろん禮がしたいという理由ですよ」

斷ろうとした時、応接室の扉がノックされる。

「どうぞ」

侯爵の許可がおり、一人の騎士が中にりガレットに報告する。

「報告します。執事の部屋の地下室で悪魔に関係する証拠を発見しました」

「そうか、よくやった。閣下と王城への連絡を。それと執事を取り押さえろ。侯爵、あなたを王城に連行します」

「……殘念です。執事が悪魔と繋がっているとは」

立ち上がる侯爵とともに部屋を出ようとしたとき、凄まじい音と振がこの部屋を襲った。

「何事だ!!」

突然のことに周囲を見回すがけが人もなく、異常も見けられなかった。事態の把握のため応接室を出ようとしたところで一人の騎士がってきた。

「襲撃です!!奇襲により玄関扉が吹き飛ばされ、突然現れた集団が正面口から襲撃してきました。數も多く手練れのようで、屋敷の正面を包囲していたものたちだけでは數が足りません!」

「広間に集まっていたものたちに怪我は?」

「ありません」

「では屋敷の包囲を解除し、迎撃に當たれ。使用人捕縛に當たっていたものたちも數名殘して援護に向かわせろ」

「了解!」

部屋から出ていくのを見送り、侯爵に向き直る。

「私は広間に向かいます。侯爵は応接室に殘りますか?」

「ええ、そうさせてもらいます。巻き込まれたくはない(・・・・・・・・・・)のでね」

侯爵の言葉に小さな引っ掛かりを覚えたが、話を進める。

「わかりました。騎士を二人殘していきますので勝手な行はしないようお願いいたします」

「わかっていますよ」

「それと侯爵の私兵をお貸し頂きたく」

「構いませんよ。私の屋敷が襲撃されているのですから、本來の仕事をさせるだけです」

応接室を出て広間に向かう。ガレットは先ほどの言葉について考えていた。

“巻き込まれたくない”?

広間では巻き込まれる?

襲撃者の実力がそれほど高いのか?

それともまだ何かが起こるのか?

………いずれにせよ、侯爵は何かを知っている。

広間に著き、狀況を確認する。広間では四人の騎士が使用人たちの監視兼護衛をし、し離れたところに一人の騎士が縄で縛られた執事と一緒にいた。

玄関扉は吹き飛ばされているが、火は既に消火されていた。

外の戦闘は、襲撃者たちは屋敷の正面に集中している。奇襲による攻撃だったため立て直すのに時間がかかり、かなり苦戦を強いられていた。

悪魔に関する証拠の方も気になるが、彼も(・・)いるから今はこちらが優先だ。

「侯爵家騎士団に命ずる。ヨークス侯爵からご許可いただいている。我々に協力し、襲撃者の迎撃に參戦せよ!」

広間に集めた際に回収していた剣を持ってきてもらい、ヨークス侯爵家騎士団に返卻とともに戦闘に加わることを命じた。

ヨークス侯爵家の騎士たちは、返事をしたあと剣を手に取り戦闘が行われている正面庭園にスリーマンセルで向かっていく。

「団長!連攜はどうするんですか?」

「即興で合わせろ!普段から訓練してるんだからそれくらいやって見せろ!」

「無茶を言います!?…了解!!」

これで形勢を覆せる、そう安堵した時それ(・・)を見たのは偶然だった。

ヨークス侯爵の騎士団に指示を出し終え、自分も戦闘に加わるためこの場は任せると言おうとして振り返った時、目に映った執事の恐怖と何かを覚悟したような目を見て嫌な予がした。

「その執事を取り押さえろ!!!」

執事のそばに立っていた騎士が一瞬直する。すぐさま執事が何か呟いているのに気づき止めようとするが、一瞬遅く、紡がれた。

「ーーー我がを贄に顕現せよ」

執事を中心に魔法陣が展開する。

「離れろ!」

執事を取り押さえようとした騎士は慌てて離れ、他の騎士たちも使用人たちと共に執事から離れる。

「が、あ、ああ、ぐっ!」

執事のき聲とともにに罅がっていく。罅が徐々に広がっていき、中罅だらけになった執事の足先から崩れ始めた。

「ーーーーコリーナ、メイナ、あ…い……し……て………」

執事が完全に崩れ去り、魔法陣の輝きが一層強くなる。そしてる魔法陣の上で黒い何かが集まって行く。どんどん大きくなっていく黒いは繭のようで、人よりし大きくなったところで止まる。すると強烈なを発し、眩しさに目を瞑る。

數秒後、黒い繭があったそこには黒く悍ましい異形の生がいた。人のような格だが、蝙蝠のような羽に黒い皮、額から生える二本の角、白眼の部分は黒く瞳のも青をしていた。

「GAAAAAAAAAA!!」

「まさか、あれは悪魔……なのか?」

騎士の一人のつぶやきを目に、ガレットは素早く指示を出す。

「騎士団は魔法が使えるものと盾役を數名使用人の護衛兼援護を!殘りのものは庭園の援護に向かってくれ!!」

「了解!」

屋敷の広間とはいえ、障害も多く守らなければならない者たちも多い。

悪魔の実力は未知數ではあるが、人數を多くしても立ち回れなくなるため、ガレットはスリーマンセルを二つ作り、挾撃することを選んだ。

「総員戦闘準備!」

剣を抜き構え、魔法の詠唱を始める。

悪魔がこちらを睥睨する。

「GAAAAAAAAAA!!」

悪魔がこちらに向かって手を向ける。

「放て!!」

魔法同士がぶつかる。

戦いの火蓋が切られた。

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