《たった一つの願いを葉えるために》VS.悪魔

「人間、速やかに答えろ。我々の魔力を知できる奴はどいつだ?」

悪魔の問いかけで察する。

侯爵家ともなれば、今回のような強制捜査は拒否することも可能だったはず。それをしなかったのも証拠が見つけやすかったのも、悪魔の魔力を知できるものを発見し殺すため。

「大人しく名乗り出れば他の者らの命だけは助けてやろう」

この悪魔の気配からして、まず間違いなく殺されていただろう……テルでなければ。

「俺がその魔力を知できる人間だ」

テルが名乗りながら前に出る。

「証拠は?」

「呪印、と言えばわかるかな?」

「…クク、いいだろう。他の者たちの命は助けてやろう。お前はここで死んでいけ」

言い終える前に悪魔が踏み込んでくる。他の騎士たちは目で追えず、悪魔もこの一撃で終わらせるつもりだった。

かなりの速度で迫り、右の手刀で顔を貫こうとする悪魔にテルはを屈めて躱し、悪魔の懐にる。相手の腹に掌を重ね合わせ魔力の塊を掌底とともに弾き、吹き飛ばす。

吹き飛ばされた悪魔が離れの壁を突き破り、外まで飛ばされたところで、テルはいつの間にか突き立てていた剣を取り、他の騎士たちに指示を出す。

「悪魔は自分に任せて、証拠品の保護をお願いします」

「……っ、了解しました」

呆然としていた騎士たちもすぐに正気に戻り、証拠の運び出しに戻る。テルは悪魔を追って離れから出る。

騎士の格好をして、顔は兜をかぶっているため見られていないはずだけど……。

軽鎧とはいえきにくく、視界が悪い。

そして先程の攻撃で確信した。制限をかけている今の俺にとって格上の相手であること。

【深淵の迷宮】【常闇の樹海】から出た後じた覚のズレ。大幅なレベルアップと異常な數と質のスキルが、覚に違和をもたらしていた。今の時點ではステータスの力技でなんとかなっているが、いざという時に致命的な隙に繋がってしまう。だからまずは、狂った覚を戻すため、前の世界での能力まで制限してスキルも[神の瞳][叡智神]を除いたそのほとんどを封印した。

「ハハハッ!油斷したとはいえ、あの一撃を躱されるとは思わなかったぞ!」

吹き飛ばされた先からこちらに近づいてくる悪魔に傷は見られなかった。

「人間、名は?」

「お前に名乗る名などない」

手に持っていた剣を構える。

「そうか。我は子爵級第四十三位ヴェンデラ。楽しませてくれ、人間!! “ダークボール”!」

ヴェンデラと名乗った悪魔が魔法を発する。ヴェンデラの頭上に、闇が集まり複數の球が生まれ、テルに向かって撃ち出される。

それに対しテルは、剣に魔力を纏わせ闇球を切り捨てると、ヴェンデラが眼前まで迫ってきていた。鋭く尖った爪の振り下ろしに剣を掲げ防ぐ。

「魔法を斬るかぁ!」

鍔迫り合いのまま、ヴェンデラは楽しそうに言う。

もう片方の手が橫薙ぎに振われるのをテルは、一歩後ろに下がることで紙一重で躱し、即座に踏み込み首を狙い切りつけた。

しかし、返ってきた手応えから淺い傷しか與えられていないことをじ取り、距離を取る。

見れば、やはり傷付いてはいるもののが滲み出る程度で、致命傷には程遠い。

魔力を纏わせ切れ味をあげた剣でさえ、大したダメージを與えられない。バレ防止のためウェアデスペアの使用は不可。

纏わせる魔力の量を増やせば切れ味が増すが、今使っているのは騎士団で支給されている量産品の剣で、これ以上量を増やすと剣自が耐えきれず壊れる。

ならば取る手段は……

悪魔から魔力が溢れる。

先ほどよりも速く迫る。強化魔法だろう。

「……っ!」

繰り出される連撃を弾き、け流し、なんとか凌ぐも、上がったスピードと膂力に僅かにテルの反応が遅れる。

掬い上げるような一撃をわし、薙ぎ払いをけ流し、首の傷をなぞるように一撃を放つ。

「ぐっ!?」

痛みに一瞬直するヴェンデラに追撃をかける。返す剣で傷つけた反対側の首を狙うも、ヴェンデラは上を反らし躱すと同時に、蹴り上げる。

その蹴りを避けるも無理に避けたためテルの勢が崩れる。

そこに突き出される拳を防ぐが、堪えきれずが浮き、そこに回し蹴りをける。

これもなんとか腕でガードするも、吹き飛ばされる。空中で勢を立て直し著地すると同時に追撃の気配を察知し、即座に橫に跳んで飛來した魔法を避ける。

連続で放たれる魔法をつかず離れず一定の間合いを保ち、きに緩急をつけ、庭園の植木も利用して相手の攻撃を左右上下に回避する。

ヴェンデラがこちらのきを先読みして攻撃しようとした瞬間、一気に相手との距離を詰める。

咄嗟のことに相手は魔法をキャンセルしようか逡巡する。

その一瞬で十分だった。

地で距離を詰め、地面が割れるほどの踏み込みの勢いを込められた全力の一撃が、先程の傷へと寸分の狂いなく吸い込まれる。

ーー劫火一閃

「ぐ、が……!?」

ヴェンデラの首が落ちる。

首を失ったが倒れるのを橫に剣をしまう。

「………最初の首への一撃より鋭かった」

首を切ったはずなのに喋ったので、ギョッとして柄に手をかける。

「まぁ、待て。じきに死ぬ。なまじ生命力が高いゆえ、わずかな時間喋れるだけだ。……それで、手加減していたのか?」

「いや、力に振り回されていただけだ」

ヴェンデラのが徐々に砂のよう崩れていく。それと同時に顔も。

「そう……か……名は?」

「……テル。テル・ウィスタリア 」

「お……ぼえ……て………」

完全に崩れ、あとには黒い灰だけがった。

數秒ほど黒い砂を見つめていたが、すぐに離れへと向かう。

「あっ、テル殿!!ご無事でしたか!!」

「ええ。こちらは問題ありませんでしたか?」

「特に問題はありません」

「そうですか。まだ屋敷の方での戦闘は続いているようなので、ここで待機していましょう。萬が一、ここにある証拠を失われるようなことは避けないといけませんから。周囲の警戒も引き続き行いましょう」

「わかりました」

屋敷の方の戦闘は未だ続いているようで、魔法の発音や金屬同士がぶつかり合う音が、微かに聞こえてくる。

屋敷に突如現れた魔力反応も気になる。

加勢に行きたい気持ちを抑え、周囲の警戒と証拠品の運び出しの準備を進める。

◆ ◆ ◆ ◆

バァァァァァン!!!

「散開!」

魔法同士がぶつかって発生した煙を利用し、悪魔を挾むように移する。

煙を突き破ってきた悪魔とぶつかり合う。

悪魔の鋭く尖る爪による攻撃をガレットが盾で防いだこところを、二人の騎士が左右から斬りかかる。

ギンッ!

剣が質な音を立てる。

弾かれることはなく、傷を負わせることができた。しかし、想定より傷が淺い。

悪魔は、斬りつけてきた騎士のうち一人に向かって攻撃しようとする。だが、ガレットがまたも阻み、隙が生じたところで別班の者が背後から攻撃する。

「《ペネトレイト》!」

を貫通する一撃を放つ。

「GAAAAA!?」

背後から襲った痛みに、腕を振り払うように背後に向かって攻撃する。それを読んでいたかの如く、攻撃した騎士は後退していた。

そこへさらに、魔法師たちによる魔法が追撃を加える。

堪らず、悪魔は宙へと逃れる。

そして、狙いをつけず、魔法を無差別に放ってくる。

「全員、備えろ!」

いち早く、魔法の兆候に気づいたガレットがぶ。それに呼応するように盾役の騎士たちが防スキル、魔法を発する。

「《聖盾の輝き》!」

「“アースウォール”!!」

「“魔法障壁”!」

悪魔の魔法を防ぎ、反撃に悪魔に向かって魔法が殺到する。

魔法を防がれ、カウンターを喰らった悪魔が怒りに囚われて、魔法師たちに向かって突進する。

「お前の相手は俺たちだ!!」

そこに行かせまいと、橫からガレットが盾を構えて突撃する。

チャージをまともに喰らった悪魔は、吹き飛ばされ壁に激突する。煙が立ち、悪魔の姿が隠れる。

警戒して、構えるガレットたちに煙を何かがいくつも突き破って向かってくる。

咄嗟に盾で防ぐが、騎士の一人がけ、柱に叩きつけられる。

「ベンガットォ!!」

盾に噛み付いてきた、蛇の形狀をした魔法を切り払い、ベンガットと呼ばれた騎士を拘束する魔法も切り払う。

「ベンガット、無事か?」

「ええ、なんとか」

「ならすぐに立て。次が來るぞ」

無事を確認すると、すぐさま悪魔に向き直る。

煙が晴れ、姿を表した悪魔は魔法たちに向かって攻撃を仕掛ける。

すぐさま注意を引きつけようと、攻撃に向かおうとするが、ガレットの足が止まる。

ガレットのみが気づいた違和

音がしない?(・・・・・)

悪魔の背後から二人の騎士が斬りつける。

しかし、手応えは無く、剣は空を切るのみ。

悪魔の姿かき消える。

そして、魔法の気配に振り向くと、広間の奧にいつの間にか現れた悪魔が、今まさに詠唱を終えようとしていた。

詠唱を止めるには遅く、ただ盾を構えることしかできない。

悪魔から黒いオーラが放たれる。

衝撃を想像し、下半に力を込めるも予想反し、僅かな衝撃のみでに特に異常はじられない。

「ぎゃああああああっ!!!」

するが即座に切り替え、悪魔に攻撃を敷かれるため踏み出そうとした瞬間、突如として背後から絶が聞こえてきた。

振り向くと、男使用人の一人が頭を抱えてんでいる。

「いやああああああ!!!」

いや、一人だけではない。

「うわああああああああ!!!」

突如として、何人もの人が悲鳴をあげる。騎士も三人、その中にはベンガットも含まれていた。

その景は、先程の悪魔の攻撃がなんなのかを察した。

“パニック・コンテイジャス”

闇の範囲狀態異常魔法の一つで、対象の恐怖を増大させ錯させる。恐怖を抱いていない者、神耐が高いものはかかりにくい。

この魔法の厄介なところは、一人でもかかればその恐怖が伝染するかの如く、徐々に周りの者にもかかっていくところにある。

回復に人員を回している余裕はない。

「すぐに気絶させるんだ!」

指示を出すが、錯狀態にあり暴れるものを取り押さえるのに苦労する。

ガレットも暴れる騎士を取り押さえようとして、ハッとして背後の気配に気づくも、次の瞬間には壁際まで吹き飛ばされる。

「団長!!!」

近くにいた騎士が、吹き飛ばされたガレットに気を取られ、悪魔から意識を逸らしてしまった。

「ぐうっ!!」

悪魔はそれを見逃さなかった。すかさず、黒い蛇を象る闇の魔法を放つ。

狀態異常魔法により連攜を崩され、瞬く間に二人がやられたことで、一気に流れが悪魔に向かうかに思われた。

しかし、殘された二人の騎士が悪魔に向かって駆け出す。

真正面から向かってくる騎士たちを迎え撃とうとする悪魔に、後方から強力な魔法攻撃が襲う。

暴徒となった使用人たちの対応に、苦戦していたはずの魔法師たち奇襲に悪魔は、後方に意識が持っていかれる。

その瞬間、騎士たちは加速する。

悪魔が気づいた時にはすでに、懐近くまでられていた。

「《チャージランス》!!」

「《ヴォーパルスラッシュ》!!」

それぞれの武技を喰らい、悪魔は深い傷を負う。

「GUGAAAAAA!!!」

痛みと怒りで咆哮する。

そこで気づく。

背後に迫る気配に。

後ろを向けば、今まさに己を斬らんとする敵(ガレット)の姿が。

「《強撃》!!!」

ガレット渾の一撃がとどめとなった。

「GAAA!!…AAA!!」

地面に倒れ伏した悪魔のが、徐々にひび割れ崩れ落ちていく。

されたのは、量の黒い灰と銀に鈍くるアミュレット。

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