俺は謎のと戦っていく。

どうやら格闘を主としたスタイルのようだ。

悪くない。

これなら、”今後”に期待できるだろう。

「いいぞ。いいじだぞ」

俺はの拳や腳をいなしつつ、そう聲を掛ける。

「くっ。こ、こんなことが……」

彼は愕然とした様子だ。

「今日はこれくらいにしておこう。――ふんっ！」

「うわあああぁっ！　ば、バカな……」

俺が軽く毆りつけると、は大きく吹っ飛ぶ。

そしてそのまま倒れ込んでしまった。

俺はゆっくりと彼に近づく。

彼は必死にを起こそうとしているが、かろうじて上を起こすだけだ。

「素晴らしい実力だったぞ。ここ半年ほどで俺が戦った中では、最も強いと言っても過言ではない」

Ｃランク冒険者のモヒカンや、先ほど俺が舎弟にしたチンピラたちと比べてもこのの方が上だろう。

の強度だけなら、ゴブリンエンペラーやゴブリンキングの方がさすがに上だが、あいつらは知能が低いからな。

戦いへの工夫を加味すれば、この子が一番優れていると言える。

「だが、まだ足りないものがある」

「――っ！」

俺の言葉を聞き、彼の目が大きく見開かれる。

どうやら己の未さを痛いほど実したらしい。

「俺の弟子になれ。強くしてやる」

「……それはできません。アタシには、絶対の忠誠を誓っているご主人様兼お師匠様がいるのです！！」

は立ち上がりながら、キッパリと斷った。

「お前ほどの力があれば、いずれＡランク冒険者にだってなれるだろう。それを捨ててまで仕える相手なのか？」

「はい！　あの方は、とても凄くてカッコよくて偉大なんです！　あなたもかなり強いようですが、アタシのご主人様はもっとずっとスゴイのです！！」

彼は、まるで崇拝する神を語るような口調だった。

余程の人のようだ。

それほどの奴がこの町にいたとはな。

俺としたことが見過ごしていた。

「なるほどな。それで、そいつはいったい誰なんだ？　名前を教えてくれ」

「それはできません！　ご主人様を売るなんてとんでもないことですから！」

はそう言った。

やはり忠義の人なのか。

しかし、名前が分からないというのは不便だ。

俺はしばし思案すると、いい方法を思いついた。

「ほほう。名前がバレただけで、そのご主人様とやらはピンチになったりするのか？」

「そんなことはあり得ません！　ご主人様は、アタシなんかとは比べにならないくらい強すぎますから！！」

「口ではどうとでも言えるからなぁ……。どうやら、そのご主人様とやらも大したことがなさそうだ。なにせ、弟子に心配されているんだからな」

「き、貴様ぁ！！！」

が激高する。

ダメージをけて倒れていたを無理矢理かして、こちらに飛びかかってきた。

俺はそれを難なくけ止める。

「ぐぅ……」

「おおっと、すまない。ちょっと煽りすぎたか」

は俺の腕の中で悔しそうに顔を歪めた。

ここで、俺はようやく彼の顔を見ることができた。

今までは、薄暗かったり、戦闘で跳び回っていたり、倒れ込んで顔を伏せていたりしたからな。

こうして間近から見るのは初めてだ。

「ん？　お前は……」

「くっ！　離せ……！　アタシのにれていいのはご主人様だけ――」

「ネネコじゃないか！！」

俺は思わずんだ。

まさか、こんなところで會えるとは思ってもみなかったのだ。

「ふぇ？　――えっ、あっ！！　ご、ご主人様ぁ！！？？」

――ネネコも俺の顔を初めて視認したようだ。

彼が驚いたようにぶ。

「ごごご、ご主人様あああああああ！！！」

「お、おい、落ち著け」

「ご、ご主人様を襲うなど、なんという不敬なことをしてしまったのでしょう！　こ、これはもう責任を取って、腹を切るしかありません！！」

「だから落ち著いてくれ！！」

「ひゃいっ！」

俺がし大きな聲を出すと、彼はビクッと震えてからきを止める。

そして、おずおずと俺のことを見つめてくる。

「こうして本気で戦ったからこそ得られた経験もあるだろう？　この戦いは決して無駄なものじゃなかった。俺も、一番弟子の長をじられて嬉しいぞ。これからも俺の下で修行を続けてくれるか？」

「――はい！　もちろんです！　どこまでも付いていきます！　ご主人様っ！」

満面の笑みを浮かべるネネコ。

うむ、いい笑顔だ。

俺は心ほっと息を吐くのだった。