《【書籍化決定】白い結婚、最高です。》小話・暗躍するメイドたち(前)
「アニスと、もっと夫婦らしいことをしてみたい」
「はぁ」
突然執務室に呼び出されたかと思えば、真剣な顔をした主からそう告げられ、マリーは生返事をした。
「別にお好きなだけすればいいではありませんか。あなた方は夫婦なのですから」
「……できないから、相談しているんだ」
ユリウスが機に両肘を立てて、重ねた両手を口元に寄せながら深い溜め息をつく。
溜め息をつきたいのは、マリーのほうだった。
「公爵とあろう者がこんなしょうもない理由で呼び出すのは、おやめください。こちらは大事な仕事中だったのですよ」
「大事な仕事……?」
「アニス様の前髪を切っておりました」
「そ、それは大事な仕事だな……悪かった」
気まずそうにユリウスは目を伏せた。
すると、マリーとともに呼ばれたメイドが「はい!」と小さく挙手をした。
「何だ、ポワール」
「アニス様とおやつを食べながら、お喋りするのはどうですかー?」
「いや……それはいつもやっている。だが、もうし先に進んでみたいというか……」
「じゃあ、二人で同じベッドに寢るのはどうでしょ?」
「しどころか、隨分遠くまで進んでいないか?」
ポワールの大膽な提案に、ユリウスはし驚いた様子を見せつつ、瞼を閉じた。
アニスとの一夜を、想像しているのだろう。端整な顔が赤くなったかと思えば、だんだんと青くなり始める。
「赤くなるのは分かりますが、何故青くなるのですか?」
マリーが訝しそうに尋ねると、ユリウスは眉を顰めた。
「アニスにれたりれられたりするところを思い浮かべていたら、怖くなってきてしまった……」
「ついに想像しただけで、恐怖癥の癥狀が出るようになりましたか」
実踐したら、ユリウスが泡を吹いて気絶しそうなので卻下である。
「だったら~……後ろからギューッと抱き締めて、耳元で『してるよ、マイハニー……』って囁くのはどうですか? アニス様もキュンすること間違いなしですよ!」
「そのような無茶をすれば、私の心臓が止まるだろうし、その臺詞は古すぎると思うのだが……」
「う~~ん。それじゃあ、二人並んでソファーに座ってる時に、さりげなく手を握ってあげたりとか!」
「前に試してみたら、張で強く握りすぎて、痛い思いをさせてしまった」
「…………」
自分の提案に次々と難癖をつけられて、ポワールの顔から表が抜け落ちていく。こんな彼を見るのは初めてだと、マリーは思った。
「ユリウス様、私はそろそろ仕事に戻りますねー」
そして、ついにポワールが匙をぶん投げた。これには、ユリウスも焦りの表を見せる。
「待ってくれ、私を見捨てないでくれ」
「知りませんよぉ! 文通でもしていればいいじゃないですか!」
「同じ屋敷で暮らしているのに、手紙でやり取りなんて寂しいじゃないか!」
「ダメウス様には、それぐらいしか無理ですって!」
部屋から出ていこうとするポワールと、それを必死に引き留めようとするユリウス。
すると彼らの不なやり取りを眺めていたマリーが、ぽつりと呟いた。
「どこかへデートに行けばいいのではいいのでは……?」
「「あっ」」
途端、二人の言い爭いはピタリと止んだ。
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