《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》25.悪役令嬢は振り返る
仮面舞踏會にはブライアンだけが出席する予定だったが、クラウディアが名乗りを上げたことで四人分の招待狀が用意された。
貴族に限らず現地の有力商人も招かれていることから、変裝すれば分を隠せるだろうとクラウディアは判斷したのだ。
蓋を開けてみれば主催者はサスリール辺境伯で、子息が參加するのも當然だった。
場所が貴族主催の社場となれば、クラウディアが一番上手く立ち回れる。
その主張からクラウディアとレステーア、ヘレンとブライアンでペアを組むことになった。クラウディアとブライアンだけでも良かったのだが、それはレステーアが承知しなかった。
商人としてのは鋭くとも、貴族としての力量に不安があったからだ。
商人ギルドでのやり取りを聞いたのもあって、ブライアンはヘレンをパートナーにするほうがお互いの長所を活用できるだろうと話がまとまった。
今夜はヘレンもドレスを著るということで、クラウディアと並んで準備が進められる。二人の間を馴染みの侍たちが忙しなくき回っていた。
それを目で追いつつ、ブライアンからの報告を振り返ってクラウディアは眉間をんだ。
――サスリール辺境伯は戦爭の準備をしていない可能があります。
ヘレンと馬車に戻ったブライアンの開口一番がそれだった。納得と驚きが同時に押し寄せて息を呑む。
レステーアも明確には言い表せられなかった違和の正。
町の人々がクラウディアたちから見ても「普通」だった理由。視察でブライアンが変だとじた答えは、誰も戦爭の準備をしていないからだった。
現在ハーランド王國が置かれている狀況を鑑みれば、のほほんとしていられないのは平民でもわかるはずなのに。
自分たちの見立ては正しかったと、ブライアンが結論に至った理由を語る。
「まず町が平和そのものだったので変だと思いました。以前訪れたときと何ら変わったところがありませんでしたから」
このあたりはレステーアが覚えた違和と同じだった。
報が貴族で止められていても張は伝わるものである。
また貴族以上に報に敏な者たちがいた。
商人だ。
彼らの生活圏は平民に近い。慌ただしくけば、何も知らない平民であっても異変に気付く。
「だとすれば商人もいていないことになります。戦爭が起こらないことに賭けている者もいるでしょうが、一攫千金を狙って起こることに賭ける商人もいるのが普通です」
町は平穏でも商人にはきがあるはずだと信じてブライアンは商人ギルドへ向かった。
しかし商人ギルドでさえも普通だったという。
「付で見聞きした容は、平時と変わらないものでした。誰一人として戦爭に関するやり取りをしていなかったんです」
素人にはわからないけれど、戦時には馬の飼料など一定項目のやりとりが増える。
また戦爭を専門にする商人の気配すらない。
「ニアミリア嬢の件でって、これはお話ししていませんでしたね」
ここでブライアンは商人ギルドの本部が、支部を疑っている事実をクラウディアへ告げた。
「支部には疑いがあったため、本部から資料をけ取っていました。その資料からも外れたところは見當たらず、ただただいつも通りだったんです」
「それで辺境伯が準備をしていないと考えたのね」
「はい、資に関しては開戦してから集めるんじゃ遅いですから」
外が失敗に終わる可能がある限り、最前線となる辺境伯領では準備のため流が増えるのが當たり前だった。
エバンズ商會もそれを見越して売り込みに來たのだ。
商機に敏な商人がかない理由は一つ。
利益が出ないからに他ならない。
クラウディアは頭に浮かんだ疑問をぶつける。
ブライアンを信じていないのではなく、早計はだとじたからだ。
(トーマス伯爵でさえ、パルテ王國を侮りはしているものの戦爭を視野にれた考えのようだったわ)
國境を守るサスリール辺境伯は、何を思ってかないのか。
「現地の商人たちだけで資は賄えないものなの?」
「まず難しいでしょう。特に近年はパルテ王國との友好関係のおかげで、サスリール辺境伯領は爭いと無縁でしたから」
王都でも辺境伯という爵位がお飾りになりつつあると噂されるほどである。
「商人には得意分野があります。平時の需要に慣れた商人たちが有事だからと一転して品揃えを変えるのは、仕れ先などの兼ね合いから厳しいかと」
例外があるとすれば、日頃から生活必需品を取り扱っている者たちだ。品目が変わらないのなら対処のしようはある。
エバンズ商會も普段取り扱いのある生活用品を売り込む予定だった。
「軍需に特化した商人が存在するぐらいですから。現狀の支部の管轄だけで賄うのは無理があるでしょう」
「そういえば支部に関する資料を持っているのだったわね」
なるほど、と聲をらしながら他の可能を探す。
「辺境伯が前々から獨自に資を溜め込んでいるという線はないかしら」
「あ、それならあり得ます」
ブライアンは同意してくれたけれど、これについてはクラウディアが自ら打ち消した。
「でもそのためには王家から許可を貰う必要があるわ」
ヘレンとレステーアが靜かに頷く。
領地運営に関心のある貴族なら常識だった。
理由もなしに軍備を強化することを領主に許せば、いくらでも戦して構わないと言うようなものである。その矛先が王家に向かないとも限らない。
サスリール辺境伯領の場合、理由は國境の警備に限られるだろう。
事前に不穏なきを察知し、王家も許可を出していたなら、ニアミリア嬢の件で後手に回ることはなかったはずだ。
「商人のきについては仮面舞踏會でもっと詰められると思います」
力強い目差しが頼もしい。
ブライアンからの視線をけて、人に恵まれている、とクラウディアは急に実した。
んな人に支えられ、助けられて今があることを。
から指の先にまで熱が走り、パチパチと瞳の中でが弾ける。
(わたくしも負けていられないわ)
頼れる存在になろうと改めて起する。
それから話は仮面舞踏會へと移っていった。
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